テクニカル分析解説

エリオット波動解説(第十回)実際に波動をカウントする手順を解説

いよいよ最終回です。今回は、カウントの仕方をほんの触りだけ解説します。

図90

ドル円の週足チャート

これは、ドル円の週足チャートです。2011年11月のボトムから2015年6月のトップまでをどのようにカウントするのか考えてみましょう。まず、思いつくのは次の2つではないでしょうか。

図91

ドル円の週足チャート

図92

ドル円の週足チャート

図91は③波が延長しています。「波の均等性」のガイドラインによると、3波が延長すると1波と5波が同じくらいの大きさになるはずですが、ここでは①が⑤に較べて随分小さくなっているため違和感があります。

一方、図92は次のような問題があります。

図93

ドル円の週足チャート

まず、①は必ず5波動でなければなりませんが3波動に見えます。そして、インパルスの2波にトライアングルは出ないはずですが、⑤の(2)はトライアングルに見えます。さて、どうしましょうか。

図94

ドル円の週足チャート

①が3波動に見える問題は、始点を少し右にずらすことで解決しそうです。このとき、直前の波動がフェイラーになったとカウントできるかどうかしっかりと確認してください。さらに、⑤の(2)がトライアングルに見えたことは、次のようにカウントを変えることで解決しました。

図95

ジグザグというカウント

全体がジグザグというカウントです。ジグザグのⒷ波ならトライアングルになることはよくあります。しかし、よく見ると、次のようなダブルジグザグとカウントした方がすっきりしているような気もしてきました。

図96

ダブルジグザグ

いや、ちょっと待ってください。こんなダブルジグザグにもカウントできますよね?

図97

何種類ものカウントが可能

このカウントではⓎ波に較べてⓌ波が随分と小さいですが、波動原理のルールに抵触しているわけではありません。

ここで気付いた方も多いでしょう。そうなんです。エリオット波動では一つの波動に対して何種類ものカウントができるのです。そのうちのどれが正解なのか、どこかに答えが書いてあるわけではありません。これらのうちのどれかが「正解」である可能性は高いと考えられますが、どれが正解であるのかは事後的にしか分からないのです。

ですから、エリオット波動をマスターすれば「一つの確定的な相場の未来が予想できる」わけではありません。あくまで「無限通りある相場予想の中から数個の進行想定を選別することができる」だけなのです。ここで、図94に戻りましょう。

図94

ドル円の週足チャート

このチャートの⑤の(2)はトライアングルに見えますが、本当にトライアングルなのでしょうか。では、その部分を拡大してみましょう。

図98

バリアー型トライアングル

(a)-(c)ラインがほぼ水平なバリアー型トライアングルに見えます。ところがバリアー型トライアングルは原則として(b)-(d)ラインが水平になるのです。(a)-(c)ラインが水平のバリアー型トライアングルになってしまったときは「ちょっと変だぞ」と考え直すことが必要になってきます。

もしかしたら、ここはトライアングルではなく次のようなダブルスリーかも知れません。

図99

水平なバリアー型トライアングル

これだと、(x)波がb-dラインの水平なバリアー型トライアングルになっています。ところが・・・・。

図100

カウントは没

よく見ると、(x)波の終点が(w)波終点より下に位置しているため、(x)波が(w)波を修正したことになりません。よって、このカウントは没になりました。他にカウントはないでしょうか。よく考えてみてください。

あ、ありました!

図101

トライアングルのダブルスリー

(w)波がジグザグ、(y)波がトライアングルのダブルスリーです。これはエリオット波動原理のルールやガイドラインに違反してなさそうです。ということは、⑤の(2)はトライアングルであるとは限らないので、次のようなカウントも「セーフ」ということになります。

図102

トライアングルのダブルスリー

このように、カウントする際には大きな波動を構成する副次波の一つ一つを拡大してエリオット波動原理のルールやガイドラインに適合しているのかを必ず調べます。特に、副次波がエリオット波動のルールで決められた波形になっているのかは絶対に確認しなければなりません。

間違ったカウントとしてよくあるのが、インパルスの3波なのにそこがインパルスになってないカウントです。インパルスの3波は必ずインパルスです。さて、これまで見てきたようにドル円の2011年11月ボトムから2015年5月トップまでの波動は様々なパターンにカウントできることが分かりました。

では、どれが正解であったのか現時点(2021年4月)では分かっているのでしょうか。次のチャートを見てください。

図103

インパルス

インパルス完成に続く修正の深さの目安に関するガイドラインとして次のようなものがあります。

  • ①インパルスの副次波4波の動いた範囲が修正のターゲットとなる。
  • ②インパルスの5波が延長した時は、延長部分の副次波2波終点が修正のターゲットになる。

図100を見ると、2015年6月にインパルスが完成したあと、2016年6月と2020年3月に目立ったボトムを付けています。2016年6月のボトムはインパルスの④波が動いた範囲にあり、2020年3月のボトムは延長した⑤波の(2)波終点とピッタリ同じです。これらは、上記2つのガイドラインを満たしています。

2021年4月現在、修正の全てが終わったのかどうかを断定することはできませんが、図99(あるいは図100)のようにカウントすると、インパルス完成後の修正の深さの目安に関するガイドラインと整合することになります。

だからと言って図95、図96、図97のカウントが否定されたわけではありませんが、ガイドラインとの適合を考慮すれば図99のカウントに「優位性がある」と判断できるわけです。

このように、エリオット波動では一つの波動に関して複数のカウントが存在しますが、どのカウントがよりガイドラインに適合しているかという観点から優位性の最も高いものを選び、それをメインカウントと位置付けるのです。

カウントの仕方は非常に複雑で全てをコラムで紹介できるようなものではありません。ぜひ専門の参考書等で学んでください。

いかがでしたか。これでエリオット波動解説全十回はおしまいです。最低限知っておくべきことだけを簡潔にまとめました。本当のエリオット波動はこの何倍も深くて複雑です。正しい用語の使い方とルールおよびガイドラインを覚えて、パズルを解くようにチャートを分析してみてはいかがでしょうか。

一般社団法人エリオット波動研究所代表理事 有川和幸氏監修


この記事を監修してくださった有川和幸氏と小泉秀希氏の共著「あなたのトレード判断能力を大幅に鍛えるエリオット波動研究 基礎からトレード戦略まで網羅したエリオット波動の教科書(パンローリング社) 」には更に詳しくエリオット波動について説明されています。

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