トレードシステムの法則 | FX/CFD中級者向け書籍
トレーダブルな戦略をつくる
この書籍はトレーダブルなトレーディングシステムの開発の方法を紹介したものです。
バックテストを行い検証したシステムでも、実際の相場ではうまくいかないということは珍しくありません。本書では実際の相場で使える「トレーダブル」な取引システムを作る方法をご紹介しています。
本書でいうトレーダブルなシステムとは、次の2つの目標を組み込むことを前提としています。
1.平均年次リターンが最低でも過去5年の最大ドローダウンを上回る
2.平均年次リターンは平均年次最大ドローダウンの倍数でなければならない。
そして、さらに3つ目にトレーダー自身で決めた目標を組み込んだものが「トレーダブルなシステム」となります。
また、トレードシステムを構築する上での落とし穴として「カーブフィッティング(過剰最適化)」が挙げられますが、これに関しても、なぜカーブフィッティングに陥るのか、回避するためにはどのように調整を行うべきかもページを割いて丁寧に説明をしています。
これらを踏まえてトレードシステムの要素となる「仕掛け」、「手仕舞い」、「フィルタ」等について、マネーマネジメントについての解説が続いた後に、商品市場や株式市場に向けたシステムの例を紹介しています。
FX市場のものではありませんが、システム作成までの過程は参考になることが多いと思います。
著者キースフィッチェンの開発した売買システム「アベレーション」の成績はこちらをご覧くださいマネーマネジメントについて
本書ではマネーマネジメントについても詳しく説明が行われています。マネーマネジメントの重要性の部分で、平均年次利益を平均年次最大ドローダウンで割ったゲイン・ペイン・レシオを開発の各ステップに取り入れる方法を紹介しているほか、どのような銘柄をトレードし、どのくらいのサイズでトレードし、どの段階でサイズを増やすかなどについても検討しています。
ラルフ・ビンスにより開発されたオプティマルFを用いたサイジングテクニックの方法のについての解説や固定リスク、固定比率によるトレードサイズの調整方法のほか、ライアン・ジョーンズの著書により紹介されている必要資金漸増方式などのトレードサイズのサイジング方法が紹介されており、トレード戦略構築の参考になると思います。
また、小口口座と大口口座に対するドローダウンの比率を比較することで小口口座の場合のリスクのとり方などについても詳しく解説しています。
小口口座では1回のトレードでの損失による口座資産へインパクトの割合が大口口座に比べて大きいこともあり、リスクの捉え方を変える必要があります。
本ホームページに掲載されている事項は、投資判断の参考となる情報の提供を目的としたものであり、投資の勧誘を目的としたものではありません。投資方針、投資タイミング等は、ご自身の責任において判断してください。本サービスの情報に基づいて行った取引のいかなる損失についても、当社は一切の責を負いかねますのでご了承ください。また、当社は、当該情報の正確性および完全性を保証または約束するものでなく、今後、予告なしに内容を変更または廃止する場合があります。なお、当該情報の欠落・誤謬等につきましてもその責を負いかねますのでご了承ください。
目次
監修者まえがき
序文
第1章 トレーダブルな戦略とは何か
第2章 バックテストと同様のパフォーマンスを示す戦略を開発する
第3章 トレードしたい市場で最も抵抗の少ない道を見つける
第4章 トレードシステムの要素――仕掛け
第5章 トレードシステムの要素――手仕舞い
第6章 トレードシステムの要素――フィルター
第7章 システム開発ではなぜマネーマネジメントが重要なのか
第8章 バースコアリング――新たなトレードアプローチ
第9章 「厳選したサンプル」のワナに陥るな
第10章 トレードの通説
第11章 マネーマネジメント入門
第12章 小口口座のための従来のマネーマネジメントテクニック――商品
第13章 小口口座のための従来のマネーマネジメントテクニック――株式
第14章 大口口座のための従来のマネーマネジメントテクニック――商品
第15章 大口口座のための従来のマネーマネジメントテクニック――株式
第16章 株式戦略と商品戦略を一緒にトレードする
付録A――各種公式
付録B――先物
付録C――つなぎ足
付録D――カーブフィッティングの例
監修者まえがき
本書は、トレードシステムの「アベレイション」(Aberration trading system)の考案者として有名なキース・フィッシェンが著した “Building Reliable Trading Systems”の邦訳である。一般的にトレードシステムの開発においては、その過程で、システムが拠って立つ考え方が正しいことの論証が必要である。それが製作者の単なる思い付きや虚語でないことが確認できなければ、継続して使用することはできないからである。そして、通常その論証の方法は、(1)演繹的方法(Deduction)、(2)帰納的方法(Induction)、(3)仮説的推論(Abduction)――の3種類しかない。本書は、このうち帰納法による論証を試みためずらしい相場書なのである。
まず、ファンダメンタルズアプローチの運用手法では演繹法によってその確からしさが主張されている。アカデミックな経済理論などに基づく少数の公理から出発して推論を展開し、その運用手法の正しさを聞き手に納得させようとするのである。それらの公理は人々にとってなじみのあるものなので、その正当性が疑われる機会はあまりない。疑義が生じるのは、その戦略を使ってもまったく儲からないことが判明してからである。また、仮説的推論による論証は、ヘッジファンドをはじめ一部の機関投資家によって近年利用されている強力な論証法である。この成功例は、『続マーケットの魔術師』(パンローリング)に登場する運用者たちにいくつも見ることができるが、初心者がいきなり取り組んで簡単にできる種類のものではない。
一方で、帰納法による論証は、プロセスとしてはそれほど複雑ではない。マーケットのデータと統計解析の知識さえあれば、だれにでもすぐに取り組むことができる。だが、残念ながらこれまでのところ、データマイニングや過去の検証といった方法を用いて信頼できるシステムの構築に成功した例は、トレンドフォロー手法などの一部の例外を除いて存在しない。ここで、システムが正しいことを帰納法によって証明しようと思えば、あらゆる環境下・条件下で普遍的にそれが正しいことを示す必要がある。それは厳密には神にでもならなければできないことである。またすべてのトレードシステムは、必然的に最適化を伴う。このため、多くの解説者は自分のシステムに都合の良い事例のみを数点取り上げることで正しさを示したつもりになってきた。もちろんそれが真に正しいはずもなく、そういった欠陥のあるシステムをドローダウンやアンダーパフォームの時期を乗り越えて使い続けることは、製作者自身にもできないことであった。
したがってこれまでは、信頼できる方法論としては、「帰納法による新事実の発見」と「経験則による演繹法」を組み合わせた方法があるのみであった。だが、フィッシェンは、本書において、先行研究のレビューと網羅的な検証を組み合わせることで、かなりの程度まで帰納法による論証に成功している。こうしたスタイルによるトレードシステムの解説は、一般投資家を対象にしたものとしては非常にまれなものであるが、「アベレイション」の大成功はこの新しいアプローチの堅実さと革新性を示していると理解してよいのではないか。
翻訳にあたっては以下の方々に心から感謝の意を表したい。山下恵美子氏は正確かつ迅速な翻訳を行っていただいた。そして阿部達郎氏にはいつもながら丁寧な編集・校正を行っていただいた。また、本書が発行される機会を得たのは、パンローリング社の後藤康徳社長のおかげである。
2014年3月
長尾慎太郎
序文
本書はトレーダブルな戦略の開発方法について書かれたものだ。トレーダブルな戦略とは、自分のリスク・リワード目標に一致し、実際のトレードでもバックテストと同様のパフォーマンスが得られる戦略のことを言う。しかし、さまざまな落とし穴が待ち受けているため、トレーダブルな戦略を開発するのは容易なことではない。私たちは貪欲で、大きなリターンが見込まれるものをトレードしたがる。大きなリターンを得るためにはドローダウンという名の大きなリスクを伴うことは百も承知だと私たちは思っているが、実際はというと、20%のドローダウンに耐えられるトレーダーはほとんどいない。現実的なリスク・リワード目標を設定するために、第1章では世界で最も優れたトレーダーたちの過去5年にわたる実際のパフォーマンスを提示する。第1章を読んだあと、あなたにとってのトレーダブルなシステムの特徴を書き出してみることをぜひともお勧めする。まずは、最大ドローダウン、平均年次最大ドローダウン、資産が高値を更新してから次に高値を更新するまでの最長期間という形でリスクを考えてみよう。最初の落とし穴は貪欲だ。貪欲は戦略開発のあらゆる段階で姿を現す。あなたは、たとえそれがリスクを高めるルールであっても、利益を高めるルールであれば採用したいと思うはずだ。しかし、さらに大きな落とし穴はカーブフィッティング(こじつけ)である。
カーブフィッティングは少なすぎるトレードサンプルで戦略を開発しようとするときに発生する。カーブフィットしたシステムはトレーダブルなシステムの2番目の特徴に影響を及ぼす。つまり、カーブフィットしたシステムは現実の世界ではバックテストのときほどうまくいかないということである。あなたが購入するシステム開発ソフトのほとんどはワンチャートパラダイムを内包している。つまり、1つのチャート上のただ1つのトレーダブルな商品から多くのデータを抽出し、それをもとにその商品をトレードするための戦略を開発するということである。開発した戦略が何百というトレードを生みだしても、それは大きくカーブフィットされた戦略以外の何物でもない。第2章ではカーブフィッティングをより詳しく検証し、カーブフィッティングを最小化するために十分なトレードを生成するための方法を示していく。これには事例と統計学を使いる。また、システム開発においてカーブフィッティングの度合いを知るための簡単なプロセスを紹介する。ほとんどの戦略は過度にカーブフィットしているため、失敗するか市場平均を下回るパフォーマンスしか上げられない。成功を目指すのなら、カーブフィッティングを最小にする方法を知ることが重要だ。
本書の後半では2つのトレーダブルなシステムを開発する。1つは株式のための短期スキャルピングシステムで、もう1つは商品のための中期トレンドフォローシステムだ。これらのシステムの開発とともに、仕掛け、手仕舞い、トレードフィルターについても詳しく解説する。これらのシステムは2つとも現状のままで「トレーダブル」なものだが、これらのシステムをさまざまなリスク・リワード特性に合わせて調整するためにはマネーマネジメントが必要になる。マネーマネジメントについては5つの章にわたって説明する。私は小口口座のトレーダーと大口口座のトレーダーとは区別する。小口口座のトレーダーはほんのわずかでも逆行トレードを出せば、追証が請求される。1枚以上のリスクをとれば口座サイズの10%あるいは20%にもなるため、彼らは資産の成長を最適化するサイジングテクニックを活用することができない。小口口座のトレードテクニックを使った株式システムと商品システムのためのマネーマネジメントは2つの章にわたって解説する。同様に、大口口座のトレーダーのためのマネーマネジメントについても2つの章にわたって解説する。最後に2つのシステムを一緒にトレードするときのマネーマネジメントについて解説する。表P.1は株式戦略と商品戦略を一緒にトレードしたときのパフォーマンスを示したものだ。
本書にはほかでは見られない情報が満載だ。特に注目してもらいたいのがバースコアリングで、これについては第8章で解説する。バースコアリングはそれぞれの足の潜在的利益をユーザー定義の基準に基づいて特徴づける面白くて斬新な方法だ。
第9章と第10章は文献でよく見られるトレードにおける主張とトレードの格言について見ていく。
本書で開発したシステムのトレードステーションのイージーランゲージのコードと日々のシグナルについては関連するウェブサイトから入手可能だ。
第1章 トレーダブルな戦略とは何か
本書の目的は、トレーダブルな戦略の開発方法を示すことである。しかし、ノウハウを知る前に、まずはトレーダブルな戦略とは何かを「現実的」に理解する必要がある。現実的、と言ったのはわけがある。トレーダーのなかにはトレーダブルな戦略を、負けトレードを出さず、負け日もなく、毎年お金を最低でも2倍にしてくれる戦略だと思っている人がいるからだ。高い目標をかかげるのは良いことだが、こうした条件を満たす戦略などない。トレード戦略によってどんなことが達成可能かを示すために、本章の前半は最高のトレーダーたちの過去5年にわたるパフォーマンスを見ていく。そのあと、トレード戦略のパフォーマンスを最もよく特徴づける統計量を見ていく。そして最後に、あなたのリスク許容量に合うトレーダブルな戦略を構成するものが何なのかを定義するうえで役立つ質問を紹介したいと思う。
リスクとリワードに対する現実的な期待
表1.1は、2005年7月1日から2010年6月30日までの5年にわたるトップ20のCTA(商品投資顧問業者)のパフォーマンスを示したものだ。これは情報を提示してくれた290のCTAのなかからバークレーが選んだものだ。
表1.1を見るといくつかの興味深い点が明らかになる。
■20のファンドの平均年次パフォーマンスである27.98%は、最大ドローダウンの平均をわずか3.5%上回っているだけである。
■20のファンドのうち、17のファンドは利益の出ない年が1年あった。
■最良の12カ月間のパフォーマンスによって5年平均リターンは大きくゆがめられている。元金を年27.98%(20のファンドの平均年次リターン)で5年複利にすれば、最終資産は元金よりおよそ243%多くなるが、最良の12カ月間の平均リターンである125.3%はその半分以上に当たる。
■一般に、5年リターンが高いファンドは、ドローダウンの数字からも分かるように、大きなリスクをとっている。これは平均リターンと最大ドローダウンをグラフにして、リターンとドローダウンに対して回帰直線を引いてみるとよく分かる。図1.1はこのグラフを示したものだ。
これらのパフォーマンスの数字はおそらくは現実とはギャップがある。実際のトレードでは次のような現実に直面することになる。
■毎年100%儲けられるわけではない。リストのナンバー1のCTAは5年の平均リターンが44.54%だが、1%しか利益の出なかった期間が12カ月ある。
■比較的高いリターンを目指せば、どこかの時点で比較的高いドローダウンを喫することになる。逆に、比較的低いリターンを目指すのなら、ドローダウンも比較的低くなる。
■幸運にも驚異的に高いリターンを達成できた期間があった場合、あなたのパフォーマンスはそれらの利益によって何年にもわたって支えられることがあるかもしれない。
■利益の出ない期間が続くこともある。
トレーダブルなシステムのパフォーマンスを測定するのに用いる統計量
世界で最も優れたマネーマネジャーのパフォーマンスによれば、自分に合ったトレーダブルなシステムを定義するのには少なくとも3つの統計量が必要になる。
通常のリターンと通常のドローダウンを測る測度。これはリスク・リワードのベンチマークになる。
最悪のケースにおけるリスクのベンチマーク。長期間にわたる最悪のドローダウンがこれに当たる。おそらくは過去5年から10年の最悪のケースのドローダウン。
最長フラットタイム。資産が新たな高値を更新するまでの最長時間。
まずは最悪のケースのリスクから見ていくことにしよう。世界で最も優れたマネジャーたちでさえ、5年の最大ドローダウンを若干上回る程度の平均リターンしか上げられないのが現実だ。トレーダブルなシステムの目標は、最大ドローダウンを上回る平均年次リターンを上げることだ。本書が示すように、リターンは一般にレバレッジによって増加したり減少したりする。リターンの増減に合わせて、ドローダウンも増減する。したがって、まずあなたが許容できる最大ドローダウンを設定し、レバレッジを使って最大ドローダウンが許容レベル以下になるようにするのがよい。
私の経験によれば、最小の「フラットタイム」を持つシステムを設計するのは難しい。最善を尽くす以外にないと言うしかない。あなたのリスク・リワード目標に合うものを見つけたら、ほかの統計量がどうなっているのかを見る。フラットタイムやほかの特性があなたの期待するものより悪い場合、この問題を解決する最も良い方法は、この問題を持つ戦略と相関性の低い別の戦略を導入することだ。
自分自身を知る
戦略を設計するとき、「最大ドローダウンが20%の戦略を作りたい。そのリスクであれば平均リターン25%を達成できるはずだ」というのは簡単だ。しかし、そういった戦略を開発して、トレードし始めると問題が発生する。3カ月トレードして、資産が10%減少したとしよう。あなたは次のような疑問を持ち始めるはずだ。
■この戦略はカーブフィットしているのではないだろうか。
■市場が変わってしまったのだろうか。
■ボラティリティが高すぎるようだ(あるいは、低すぎるようだ)が、これが問題なのか?
最大ドローダウンを高く設定しすぎれば、立ち直るころには、あるいはドローダウンが20%に達するころには、破綻しまう。自分自身を知ることが重要なのはこのためだ。トレードを始めたばかりで、それまで20%のドローダウンを経験したことがないのであれば、最大ドローダウンは低く、おそらくはかなり低く設定しなければならない。私はこれまで何千人というトレーダーと話をしてきたが、彼らのほとんどは、「リターンがX%であれば、20%のドローダウンは乗り切ることができる」と言う。しかし、現実はそうではない。ドローダウンはリターンの関数として見てはならない。リターンを実現するにはドローダウンを乗り切らなければならないのだ。したがって、最大ドローダウンはあなたが乗り切れるレベルに設定しなければならない。
結論
世界で最良のマネーマネジャーでも1年に平均で30%を下回るリターンしか上げられず、5年の最大ドローダウンも平均リターンを数%下回るだけである。残念ながら、平均年次最大ドローダウンの統計量を把握するのは簡単ではない。しかし、これは非常に重要な数値だ。なぜなら、それこそがあなたのリターンを達成するのに毎年乗り切らなければならない数値だからだ。したがって、トレーダブルなシステムを開発するときには、次の2つのパフォーマンス目標を取り入れなければならない。
平均年次リターンが最低でも過去5年の最大ドローダウンを上回る。
平均年次リターンは平均年次最大ドローダウンの倍数でなければならない。
3番目に必要なパフォーマンス目標はトレーダーによって決められる。それは最大許容ドローダウンである。現実的な数字を設定しよう。
本書はこれらの目標を満たす戦略を開発する方法を示すものだ。こうした戦略を開発できれば、株式でも商品でも思いどおりにトレードできるだろう。こうした戦略を開発する前に、トレーダビリティーに関してもう1つ重要なことがある。それは、あなたの戦略はリアルタイムでもバックテストと同様のパフォーマンスを示さなければならないということである。次章は、バックテストと同様のパフォーマンスを示す戦略の開発方法について議論する。
第10章 トレードの通説
トレードの本を読んでいると、同じ主張や格言が繰り返し出てくることに気づくはずだ。本章ではこうしたトレードの通説について調べてみることにしよう。その真偽のほどを分析によって明らかにしていく。
手仕舞いは仕掛けよりも重要
トレード関連のウェブサイトを見ていたとき、手仕舞いが仕掛けよりも重要だという投稿を見かけた。トレンドが形成され始めるとだれでもある地点で仕掛けることができるが、重要なのはトレンドの終わり近くで手仕舞うことだとそのブロガーは言っていた。さらに彼は、手仕舞いをうまくやればランダムに仕掛けてもお金を稼げるとも言っていた。これらの言葉は私がトレードについて信じていることとは逆だ。それで私は彼に例を挙げてくれるように頼んだ。すると彼はバン・K・タープが『新版 魔術師たちの心理学――トレードで生計を立てる秘訣と心構え』(パンローリング)で述べているある個所を指摘してきた。そこで述べられていたのは以下のとおりである。
実際、良い手仕舞いとマネーマネジメントを使えば、ランダムに仕掛けても儲けられることが証明されている。例えば、トム・バッソはランダムに仕掛ける単純なトレードシステムを開発した。市場ボラティリティは真の値幅の平均の10日指数平均と定義する。最初のストップはボラティリティの3倍の位置に入れた。仕掛けをコイン投げで行ったあと、3倍のボラティリティストップを終値から移動させる。ただし、ストップは順行のときのみ移動するものとする。したがって、市場が順行したり、ボラティリティが縮小したときにはストップは市場に近づく。ポジションサイジングには1%リスクモデルを使った……(ランダムな仕掛けに、ストップによる手仕舞い。まともなアプローチであるように見える)。
これを10の市場で行った。ポジションは常に建った状態にある(買いか売りかはコイン投げによって決まる)……単純な1%のマネーマネジメントシステムを加えると100%の確率で儲けることができた……。このシステムの信頼度(勝率)は38%で、これはトレンドフォローシステムの平均である。
このアプローチの間違いは最後のパラグラフにある。「この戦略では常にポジションが建っている」ため、(最初にランダムに仕掛けたあとは)仕掛けはランダムには行われていない。ストップがここで仕掛けよと言ったときの「特定の足」で仕掛けている。ストップは次の足の「仕掛け」シグナルである。これはドテンシステムだが、全時間の半分はドテンしていない。しかも、仕掛けポイントが非常に高いため、半分の確率で間違った方向に仕掛けても平気なわけである。
最初のパラグラフは、ランダムに仕掛けてストップを置く例を示している。そこで私は次の分析を行った。56銘柄の商品のバスケットを使って、それぞれの銘柄を100回ずつランダムに仕掛け、ストップ基準が満たされたときに手仕舞った。1回の実行で7000回ランダムに仕掛け、これを100回実行したので全部で70万回ランダムに仕掛けた。結果? 平均トレードは0.000025ドルだった。これは統計学的に言えば限りなく0に近い。ランダムに仕掛けて、ランダムに手仕舞っても結果はまったく同じになるだろう。つまり、「手仕舞いもランダムに等しい」ということである。
2番目のパラグラフをもう一度見てみよう。この戦略が「100%の確率で儲けることができた」唯一の理由は、ドテンによるものと思っている。したがって、半分の確率で間違った方向に仕掛けてもお金を稼ぐことができるのだ。間違った方向に仕掛けた場合、すぐにストップに引っかかるので、次の瞬間にはトレンドの方向に仕掛ける機会を得る。そこで、すべての商品についてデイ1で仕掛け、ストップに達するたびにドテンしてみた。結果はというと、56銘柄において、勝ちトレードは6261、負けトレードは9736、総利益は381万8975ドル、1トレード当たりの利益は239ドルだった。このシステムの手仕舞いはランダムシステムの手仕舞いとほとんど同じあることを思い出そう。およそ400万ドルの利益は仕掛けによるものなのである。つまり、この例は手仕舞いの強力さを証明するものではなく、良い仕掛けの強力さを証明するものである。
手仕舞いには良いものと悪いものがあるが、ランダムな仕掛けではお金儲けはできない。良い手仕舞いとは、良い仕掛けによって利益あるいは損失を生みだしたことを教えてくれ、次のトレードに進めと促してくれるものである。良い手仕舞いは次のような特徴を持つ。
■潜在的利益が実現化されるまでトレードにとどまらせる。つまり、最初のストップを狭くしすぎないということ。
■セットアップが機能しなくなったらトレードを手仕舞いさせる。つまり、最初のストップは広くしすぎないということ。
■大きな勝ちトレードを時期尚早に手仕舞いさせることはない。つまり、利益が増加すると、ストップは通常の市場ノイズの外に置かれるということ。
■含み益のほとんどを維持する。つまり、動きが終わったとき、利益を市場に戻す前に手仕舞いさせる。
また、あるシステムでは良い手仕舞いでも、別のシステムでは悪い手仕舞いになることがある。私たちの買いのみの株式システムの手仕舞いを見てみよう。これはスキャルピングシステムなので、手仕舞いはタイトで、利益目標は控え目だ。この手仕舞いロジックではドンチャンの商品システムは負けるシステムになってしまう。また、商品システムでは良い手仕舞いでも、株式システムでは負けるシステムになってしまうこともある。
本ホームページに掲載されている事項は、投資判断の参考となる情報の提供を目的としたものであり、投資の勧誘を目的としたものではありません。投資方針、投資タイミング等は、ご自身の責任において判断してください。本サービスの情報に基づいて行った取引のいかなる損失についても、当社は一切の責を負いかねますのでご了承ください。また、当社は、当該情報の正確性および完全性を保証または約束するものでなく、今後、予告なしに内容を変更または廃止する場合があります。なお、当該情報の欠落・誤謬等につきましてもその責を負いかねますのでご了承ください。