ルール トレードや人生や恋愛を成功に導くカギは「トレンドフォロー」
トレードでも人生でもトレンドフォローが成功の秘訣
この書籍は数あるヘッジファンドの中でも、最初に運用資産額が10億ドルを突破したミント・インベストメント・マネジメント社の創立者であるラリー・ハイト氏により執筆された書籍の日本語訳です。
生まれつきのハンディキャップを抱えながらもトレードで大成功を収めた著者が長いトレード人生で経験した成功、失敗談やトレードを行う上での心構え、トレンドフォローを実践する上で重要なこと等が紹介されています。
損切り早く、利は伸ばすことや状況を冷静に把握すること、リスク管理をしっかりと行うこと等、トレンドフォローを行う上で重要なことは、仕事や恋愛など、様々な人生におけるイベントにも応用することができ、より充実した人生を送るためにも重要なことであるということを教えてくれる書籍です。
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目次
監修者まえがき
謝辞
序文 マイケル・コベル
はじめに――ゲームに参加しよう
第1部 シープスヘッドベイ、ポークベリー、ブラックジャック
第1章 自分を知る――私は失敗からどうやって学んだか
第2章 お気に入りのトレードを見つける――トレーダーとしての自己教育
第3章 確率を利用する――使える時間と機会
第4章 トレンドフォロー――損は切って、利は伸ばす
第5章 どうして損をするのか――私が何百万ドルも失った理由も含めて
第2部 ミント・ファンド、マーケットの魔術師、ルールに従う
第6章 ミント・ファンドの設立――トレードで自分がどこにいるかを知る
第7章 どうして私の哲学があなたの役に立つのか――ルールを当てはめる
第8章 そして、私の投資哲学は機能し続ける――次世代
第9章 若いトレーダーとの会話――コラーデ・ウルワール
第10章 あなたは選択することができる――粘り強ければ報われる
付録――断片的思考
「非対称レバレッジの理論と実践(小さなリスクで大きく勝つ)」 ラリー・ハイト
監修者まえがき
本書はラリー・ハイトの著した“The Rule : How I Beat the Odds in the Markets and in Life-and How You Can Too”の邦訳である。ここであらためて紹介するまでもないだろうが、ラリー・ハイトは大手ヘッジファンド「ミント」の創業者にして、伝説的なトレンドフォロアーでもある。本書は彼の自叙伝であり、彼が生まれながらに負ったさまざまなハンディを自ら考え、行動することによって克服し、人生を切り開いていった様が書かれている。
今日の時代に生きる私たち日本人は、日々漠然とした不安を抱きながら生きている。無邪気に希望や自信を持てる人はけっして多くはないだろう。一方、人は自分の過去は変えられない。変えられるのは未来だけであり、その未来を動かせるのは自分の行動だけだ。だが、多くの人はその事実を知りながら、そして心の中で何かを強く欲しながら、実際には何も行動を起こそうとしない。この背景は従来「リテラシーの問題」、あるいは「認知的不協和の理論」でもっともらしく説明されてきたが、その真の理由は何かを始めることが怖いことにある。本当に恐ろしいのは何かを始めることよりも、何もしないことなのだ……と人々が悟るのは、晩年になって、もう自分に残された時間はないと知ってからである。
私たちが本書を読んで感銘を受けるのは、ラリー・ハイトがビジネスの成功者であるからではない。彼が自分の限界や困難に勇気をもって挑戦し、それを乗り越えた体現者だからである。ここには、どうすれば自分の人生を成功に導くべく動機づけられるかが記されている。彼はこの本を、能力や環境に恵まれず不遇な状況にあるすべての人々に向けて書いた。本書を読んで一人でも多くの人が自身の人生を意味あるものにしてくれることが著者およびこの訳書の刊行にあたった関係者の願いである。
翻訳にあたっては以下の方々に感謝の意を表したい。まず山口雅裕氏には読みやすい翻訳をしていただいた。そして阿部達郎氏は丁寧な編集・校正を行っていただいた。また本書が発行の機会を得たのはパンローリング社社長の後藤康徳氏のおかげである。
2020年9月
長岡半太郎
序文 by マイケル・コベル
「波は止められないが、波に乗れるようにはなる」――ジョン・カバット・ジン
一九九〇年代初期に、私はあるトレード戦略に出くわした。トレンドフォローという手法を用いる主流から外れたトレーダーたちが世界中にいた。
これはバイ・アンド・ホールドではなかった。ウォーレン・バフェットのようなバリュー投資でもなかった。予測や効率的市場とも関係なかった。ブルームバーグやCNBCが毎日流す予測とも関係なかった。
肝心なのは波に乗ることだった。波をとらえたら、利益を求めて波に乗り続ける。波がどんなに高くても、気にしない。上げているかぎり、乗り続けるのだ。これは非常に割安というシグナルを見つけようとする手法とは異なる。
ところで、このトレンド手法、あるいは「波乗り」手法にはコツがある。
上昇の波に乗るのは、自分がどれだけ損をする余裕があるかを知っている場合に限る。どうしてか。どんな波でも上げる理由や下げる理由は分からない。だから、下げから身を守る必要がある。次の日もトレードを続けるには生き残る必要があるのだ。
そして、ここがほかとは異なるこの考え方や生き方の本当に楽しいところだ。これはマーケットに限った話ではないのだ。ベンチャーキャピタルにも、映画制作やスポーツ(映画「マネーボール」のブラッド・ピット)にも、さらには恋愛にさえも当てはまることだ。
このユニークな視点の舞台裏を知ったことで、私は五冊の本を書いて数十万部が売れ、ポッドキャストで七〇〇のエピソードを流し(再生回数は八〇〇万回)、ドキュメンタリー映画の監督もすることができた。
業績を残した有名なトレンドフォロワー(彼らが自分のことをそう呼んでいるかどうかは別にして)を何人か挙げると、次のような人々がいる。ジェフ・ベゾス(アマゾンの創業者)、ダニエル・カーネマン(プロスペクト理論でノーベル経済学賞を受賞)、ジェイソン・ブラム(映画プロデューサー)、ダリル・モーリー(プロバスケットボールのヒューストン・ロケッツのゼネラルマネジャー)、ジョン・W・ヘンリー(レッドソックスのオーナー)、ビル・ガーリー(ベンチャーキャピタル)、ニール・シュトラウス(ナンパ)、ラリー・ハイト(トレード)。
私はこれら選ばれたグループの一人を個人的に知っている。それがラリー・ハイトだ。
彼はトレンドフォローの手法を用いるトレードの世界で、生きた伝説とみなされている数少ないトレーダーの一人だ。だが、トレードの話は別にしても、彼の話はあなたが人生でどういう道を進むにせよ、ためになる。
このように考えてほしい。苦労して稼いだお金や大切な時間を賭けるときには、確率を尊重する必要がある。つまり、いつも自分に有利な確率のときにだけ賭ける必要があるということだ。例えば、宝くじではだれも勝てない。宝くじが当たる確率は常に低いが、それでも希望が尽きることはなく、人々は宝くじを求めて列に並ぶ。
ラリー・ハイトは三〇年以上トレンドフォローの手法で、勝率が高いときにトレードをしてきたことで有名だ。これは宝くじで大金を手にしようと妄想を膨らませるのとは正反対だ。つまり、彼は大勝する可能性があるときに大きく賭けて、確実に負けるときには賭けないのだ。
だが、トレードで大金を稼いだ彼がどうして一般の人にとって本当に面白くて共感できると言えるのだろうか。彼は独創的な人間だ。オリバー・ストーンの映画『ウォール街』やテレビ番組のビリオンズに登場するようなステレオタイプではない。彼は「貧しい地区」で育った。それには勇気づけられる。
私が彼に初めて会ったのは二〇〇五年だった。彼は私のドキュメンタリー映画に出演してくれた。また、私の著書『トレンドフォロー大全』(パンローリング)と『The Little Book of Trading(ザ・リトル・ブック・オブ・トレーディング』でも紹介した。私たちは長年にわたって多くの話をしてきた。彼には長い時間、インタビューをしてきた。だから、二〇一二年に本を書くべきだと彼に勧めるのは簡単だった。 そして、ついにこの本が出来上がった。彼が最初の本を書き終えようとしていた二〇一八年の秋、ベトナムに滞在している私を訪ねてきて、突然、再会することになった。彼と奥さんが東南アジアの旅行中にサイゴンに立ち寄ったのだ。私たちはすぐに壮観なパーク・ハイアット・サイゴンで会った。
彼は周囲を気にせず、早速、「それじゃあ、質問してよ。始めよう!」と言った。
彼は本当にティーンエイジャーのような熱意で、そうするのだろうか。そのとおりだ。
私はインタビューをする予定はなかったが、彼がちょっと話をしたがっているのが分かった。私はiPhoneを取り出して、「録音してもいいですか」と尋ねた。
「もちろん」と、彼は言った。
私は彼のしていることを知りたがっている人々がゼロから分かるように彼と話をした。今、彼が「私はトレンドフォローの手法でトレードをしてきた」と言っても、九九%以上の人はそれが一体何を意味するのか分からないだろう。彼は初心者や法学部を出た賢い人にトレンドフォローをどう定義するだろうか。
彼の定義は単純だ。
彼は群衆に従い、お金が向かうところに動く。市場価格を見て、値動きに合わせて買うか空売りをする。
彼はベイズ統計学を使って計算する。計算は前の計算に基づいて繰り返される。だが、それで何が分かるのだろうか。何かが予測できるのだろうか。ほんの少しだが、予測できる。次の値動きが予測できるのだ。その値動きからトレンドが形成されることがある。そして、それは群衆の狂気のせいで、その後も続くことがある。人は人を呼ぶ。株価が新高値を付けるのを見れば、それが分かるだろう。そんなことが起きるのは、だれもがその力強さを見て、自分でも買いたくなるからだ。
ほとんどの人はこのことを理解しているだろうか。答えを言われたら、分かるだろうか。
分からないのだ。
これは、私たちがみんな別の考え方を必要としているということだ。
彼は早い段階で、ほとんどの人が負けるのは無教養だからではなく、計算できないからだということに気づいた。彼らは計算ができない。いや、もっと悪いことに、彼らは計算をしないのだ。だが、計算をすれば、自分を客観的に見ざるを得なくなる。残念ながら、私たちのほとんどは群衆やチームの一員になりたがる。私たちはグループから認められたいと思う。自分を愛し、自分を好きになるには、友人や家族が必要だ。私たちのほとんどは、これらの境界を越えることができない。外に出たら、ひとりぼっちになる。ひとりぼっちは不安だ。
これら複雑なことを見抜く力を楽しく親しみやすく説明できるのがラリー・ハイトの天才的なところだ。彼の独創性を示すためには、彼とした多くの会話から私のお気に入りの一つを抜粋する必要がある。
マイケル・コベル 判断を誤って、なぜうまくいかなかったのか分からない場合には手仕舞わないといけません。資金を回収して、別の日に仕掛け直すしかありません。ほとんどの人にとって、これは非常に難しいことです。
ラリー・ハイト まあ、それは彼らがどれくらい論理的かによります。
コベル あなたらしい、スポックのような理屈ですね(笑い)。実は今日、一九六八年の番組『スタートレック』のある回を見ました。レナード・ニモイがスポックを演じている回です。あなたが基本的に言っていることは……。
ハイト レナード・ニモイは私が通った高校の出身なんですよ(笑い)。
コベル いやあ、私は今日は千里眼みたいですね。そうなんですか……。
ハイト そうなんですよ。
コベル ラリー・ハイトのキャリア全体がスポックとつながっていることを今日、確認しました。
ハイト いやいや、私は知らなかったんです。でも、発見したんです(笑い)。彼は私と一緒に高校に通った一人でした。
コベル あなたはスポックがするように損失を引き受けるんですよね。
ハイト いいえ。
コベル 違うんですか。
ハイト 違います。スポックだから、スポックのように振る舞うのです。
コベル スポックのように損を引き受けないのなら、どうなりますか。破産するのですか。
ハイト 破産して、傷つくのです。実は、損とはうまく付き合わなければいけないのです。
このやり取りが、ラリー・ハイトの本の序文を喜んで書いた理由だ。
どんな生物、どんな動物にとっても一番大切なのは生き残ることだ。何であっても、損切りをすれば生き延びる可能性が高まる。それがスポックの使うような理屈だ。単純な数学や単純な物理学と呼んでもよい。人は環境に適応する必要がある。驚くことではないが、ハイトのあこがれの一人はダーウィンだった。生き残るのは最も足が速い人でも、最も強い人でも、最も知性がある人でもなく、最も適応力がある人だと言ったのがダーウィンだったからだ。生き残らなければ、すべてが終わる。
しかし、彼のような良い人々がよく悪質な投機家呼ばわりされる。彼らは知識がなく嫉妬深い人から悪い連中と言われる。だが、彼は「ちょっと、自分の好きにやらせてほしい。私はルールに従ってトレードをして、エッジ(優位性)を見つけて生き残るつもりだ」と言うだけだ。そして、大衆が望むのは自分の頭で考えるという新しい方法ではなく、集団の安全のほうなので、彼のような考え方は排除される。彼はいつでも喜んで、大衆の安全に対する考えを、大金を得る機会として利用する。
安全に対する大衆の見方と彼のリスクをとる方法の違いについて議論していたら、彼はいかにも彼らしいやり方で私に反撃してきた。「きっと、あなたは億万長者なんでしょう」と。それで、彼は私の反応や予想外の展開を求めていると分かった。私は彼が楽しんでいるだけだと分かってもいたので、こう答えた。「ラリー、ぼくは一文なしなんですよ(笑い)。「ゴッドファーザー」のパート2の有名なせりふは何でしたっけ。そうだ、私はマイアミに住む貧しい年金生活者だ、だった! 私はマイアミビーチに引っ越しますよ。そして、あなたの隣に住みます。二人とも年金暮らしです。どうです?」
彼は笑って、「決まりだね」と答えた。
冗談はさておき、彼の哲学は投資界の大衆に誤解されている。例えば、毎年どこかでだれかが必ず、トレンドフォローは死んだと断言する。大量のクリックを誘うように、ブルームバーグお決まりの不吉な見出しが流れる。大手メディアは彼の哲学を単に恐ろしいものとして切り捨てる。どうしてだろうか。彼らの大切な広告収入はラリー・ハイトとは非常に異なる考えや行動をするウォール街から得られるのだが、彼の哲学は要するに彼らの広告にとって脅威だからだ。
しかし、トレンドフォローはなぜけっして消滅しないのだろうか。なぜ彼の考え方は不滅なのだろうか。彼はこれらに対して、損を恐れない人はほとんどいないから、と簡潔に答える。
だが、あなたは損を恐れない人も知っている。私はすでにその人について触れた。それはジェフ・ベゾスだ。ベゾスがラリー・ハイトと同じルールを用いていることを知っていただろうか。アマゾンがビジネスで発明した有名なものはすべて、ベゾスの仕事で生き残ったものだ。それらはアマゾンの実験で生き残ったものだ。もちろん、私たちは失敗した何千もの構想や実験については知らない。市場からデートまで、人生のすべてでとるリスクはさまざまに異なる。だが、多くの実験で失敗しても、予想外の大勝利をすれば報われる。
ラリー・ハイトの言葉の正確な引用ではないが、彼ならジェフ・ベゾスのように、「ロケット船に乗せようという申し出を受けたら、どの座席かと聞き返さずに乗ろう」と言うだろう。さあ。認めようではないか。「ロケット船に乗る」という態度は素晴らしい、と! 私たちはみんな、すぐにそのことは理解するが、自分の人生を賭けるとなるとためらってしまう。
では、二〇一九年の前半まで飛ぼう。私は発信者番号を見た。それは八〇〇〇マイル離れたところにいるラリー・ハイトからの電話だった。私は電話を取った。私たちはすぐに、この本と書名について議論した。当時、私を含む多くの人々が書名の提案をしていた。
しかし、彼が書名について私に考えを述べたのは、そのときが初めてだった。彼はすぐに「ザ・ルール。それで決まりです。書名はザ・ルールです」と言った。彼が説明する必要はなかった。彼は一八〇〇年代の伝説的なイギリスの政治経済学者であるデビッド・リカードについて触れていた。リカードには信念があった。それは「損切りは早く、利は伸ばせ」というハイトが確信する不朽の原則だ。
それが本書だ。
それがラリー・ハイトだ。
マイケル・コベル
はじめに――ゲームに参加しよう
ブライトンビーチにとても信心深い老人が住んでいた。ある日、彼は隣人が宝くじで百万ドルを当てたことを知った。老人は激しい嫉妬を抑えきれず、家族たちが日光浴を楽しんでいる浜辺に飛び出して、空に向かって叫んだ。
「神様、私はとても怒っています。私は良い夫で良い父でした。懸命に働いてきました。毎週、日曜日には教会に通っています。三〇年前から宝くじがありましたが、私は一セントも当たったことがありません!」
その瞬間、空が暗くなって、稲妻が光った。天から不吉な声がした。 「宝くじを買ったことはあるのですか? 買わなければ当たりませんよ」(一般的に、宝くじは買うべきでない。当たる確率は低い。この逸話は私の主張を説明するために使っているだけ)
人生の教訓その一――勝つためには参加する必要がある。賭けなければ勝てない。これは一見するともっともな教訓だが、私は非常に多くの賢明で才能のある人々が何かを欲しいと言いながら、何も行動しないのを見てきた。彼らは一度もゲームに参加したことがないので、勝者になったこともない。どうして、参加しないのだろうか。それは怖いからだ。私はより多くの人々が今よりも良い人生を送れるように、恐怖を克服する手助けをしたい。また、お金の面だけでなく恋愛でも、適切な賭けをすれば、多くのことが達成できることを孫や彼らの世代に知ってほしい。賭けとは選択することだ。人生や市場では自分の好きなようにできないことが非常に多いが、選択は自分の好きなようにできる。
私にとって最も重要な考えを話そう。それは、自分の夢のほうが自分の限界よりも重要、ということだ。DNAや家庭環境を変えることはできない。しかし、目標や夢を選択して、それを追い求めることはできる。私の場合、自分の限界よりも夢のほうが強かった。私の限界は深刻だった。もちろん、昔も今も、私よりもはるかに苦しんでいる人はたくさんいるが、私はかなりの困難に直面した。第1章で子供のころの話をするが、ここで簡単に説明しておこう。私は中流階級の家庭に生まれた。ひどい学習障害のせいで学校の成績は悪く、目がほぼ見えなかった(一方の目はまったく見えず、もう一方はかすかにしか見えなかった)。私はイケメンではなかった。運動も苦手だった。その私が今では自分の力だけで億万長者になっている。私はどうやって成功したのか。私は自分に賭けて、勝ったのだ。あなたにも必ず同じことができる。
だから、私は自分の話を伝えたいと考えたのだ。
私はお金のためにこの本を書いたのではない。名声を得るために書いたのでもない。名声はすでに手にしているし、それは必ず副収入を生む。私は一億ドル近くを、ほとんど現金か証券で持っている。では、どうして私は自分の人生について語りたいのだろうか。
あなたが本当に知りたいのは、「この本はだれに対して書かれているのか」だろう。この本は高校のダンスパーティーに誘われなかった太りすぎの少女のために書いた。また、野球で一度も試合に出してもらえない少年のために書いた。子供のときには、これはとても傷つくものだ。また、これは有名選手にも当てはまる。彼らもどこかで困難を乗り越えなければならなかったからだ。要するに、私の教訓は小学校や中学校や高校、あるいは人生のどの時点であれ、どうすれば勝てるか分からない人すべてに向けたものだ。
ティーンエイジャーだったころ、ほとんどの人はあこがれの男子や女子からダンスパーティーに誘われたことも、チームのキャプテンになったこともなかったはずだ。キャット・スティーブンスの古いロックンロールの「ファースト・カット・イズ・ザ・ディーペスト(最初の傷が一番深い)」にもあるように、その時期には初めて傷つく経験をする。
考えてほしい。私は子供のころに太っていて、左目はまったく見えず、右目も少ししか見えなかった。そして、その良いほうの目は失読症だった。だから、私は何をやってもダメだった、学業でもスポーツでも人生でも。しかし、この経験から素晴らしい考えにたどり着いた。何度もつまずき、何度も友人たちにからかわれても、立ち上がって進み続けるしかないのだ、と。
最初にすること
何を手に入れたいかをはっきり言えなければ、それを手に入れることはできない。これはもちろん決まり文句だが、私にとっては文字どおり真実だった。七歳のときだった。ある大人が私と友人たちに、大きくなったら何になりたいかと尋ねた。友人たちは予想どおりに先生や医者や消防士などと答えた。私の番になると、「私は叔父のようにお金持ちになりたい」と言った。お金持ちが何を意味するのかさえ分かっていなかったが、その言葉が口をついて出た(何十年もたって、『金持ち父さん貧乏父さん』[筑摩書房]という本で満足のいく定義を見つけることになる。この著者によると、貯金で二年か三年暮らすことができればお金持ちだそうだ)。まだそんな幼いころに、私は自分よりも年上の人々が持っているものしか目に入らなかった。私は両親と三部屋のアパートに住んでいた。私のいとこは大きな家に住んでいたので、お金持ちだった。私はそれが欲しかった。欲しいという気持ちはとても強い。私はその気持ちで奮い立った。
一五年後に大学を卒業したとき、私は同じ質問をされ、同じように答えた。私はお金持ちになりたかった。私にとって、お金はFで始まるものだった。Freedom(自由)、それこそが私の欲しかったものであり、味わいを想像できるものだった。そして、私がしてきたことはすべてこのためだった。私は自分がしたいことを自由に何でもしたかったのだ。しかし、失敗はしたくなかった。私はほかの人ができることでも、できないことのほうが多かったので、それを補うためにお金持ちになる必要があった。
友人たちや私と同世代の人々を振り返ると、私たちのほとんどは似たり寄ったりだったことが分かる。しかし、彼らのほとんどはお金に苦労していて、いろんな後悔をしている。私は彼らよりもはるかに優れていただろうか。まったく、そうとは思わない。私が成功したのは目標を立てて、それを追求する意志が強かったからだと信じている。意味のある目標を立てることがいかに重要かは、いくら強調してもし足りない。自分が本当に望むことが分からなければ、その後に待ち受けているつらい選択の数々に圧倒されるからだ。
これは私が、ほかの人たちが抱くような恐れを感じなかったという意味ではない。私にも恐れはあった。私はまだ二七歳だったときに、初めて大金を稼いだ(この話は第3章で述べる)。そのときの私は喜びや誇りでいっぱいだったと思うだろうが、実際にはこの最初の成功はとても恐ろしかった。私はその大金を失うことが恐ろしかっただけでなく、大金の持つ力や責任が恐ろしかった。
私がどんな道を歩んできたか、これから話すつもりだ。私がどうやってトレードで成功し、最終的に幸せな夫、父、祖父、友人になったかをだ。私の人生と投資に対する取り組み方はテクニカルなものも、何ページものチャートも必要ない哲学に基づいている。常に正しいことをしてきたから、成功して裕福になれるのではない。それは、正しいときにどれほど勝ちを大きくし、間違っているときにどれほど負けを少なくするかで決まるのだ。度量の小さい人が勝って、大騒ぎするのをよく見かける。だが、大きく勝てなければ、知らない人にカクテルパーティーで自慢する以外、本当に勝ったとは言えない。
相場でもベンチャー企業でも、億万長者になるために量子物理学を知る必要はない。実際、ウォール街が発明した多くの金融理論は、私が育ったブルックリンの街ですでに始まっていた。イェール大学の経済学者でヘッジファンドのマネジャーでもあった人が、一九八〇年代初頭に私に話を持ちかけてきたことを今でも覚えている。彼は、「ラリー、君に加わってほしい。あなたは私たちの開発したシステムが気に入るはずだ」と言った。彼は自分が公表していた有名な経済学の論文について説明した。その論文は、商品在庫を持つ費用が経営にどう影響するかを分析していた。在庫を持てば、売れ残った在庫のせいで取り返せない費用が発生するため、売り手にとって大きな損失となるということだった。その論文は、商品が長期にわたって売れない場合の費用を把握する数学的手法を示していた。売れなかった日は毎日、事実上お金を借りているのと同じだ、と。
だが、実はユダヤ人の行商人やその子供たちは売れ残った商品の費用を知っていた。私はこの経済学者に、「私の祖母はシープスヘッドベイで果物の行商人をしていました。その日に果物が売れ残ったら、それを値下げしました。なぜなら、そこで入る現金で七人家族の夕食を用意しなければならないからです」と言った。祖母は読み書きはできなかったが、計算はできた。トレード、投資、起業での成功のほとんどは計算と確率で決まる。そして、その気があれば、あなたもそれを実行できる。
ところで、この経済学者は人が良かった。私は彼に感謝したが、加わるのは断った。それでも、彼は私が考えていたことを確認する役には立ったので、この経験に感謝した。あなたが投資や蓄財について読むものの多くは、詳しく調べると必ず根拠が崩れる複雑な話と予測に基づいている。繰り返そう。必ずだ。勝つことの真実は、ほとんどの人が理解したり、教えられたりしたことよりもずっと単純だ。
可能性が低いことでも、健全な戦略があればそれを乗り越えられる。それは私自身の人生が証明している。冗談抜きで、私は三〇代の初め以来、人生で一日たりとも働いたことはない。どうしてそんなことが可能なのか。まあ、私はしていたことが大好きだったので、人が最初に思い浮かべるような仕事ではなかったのだ。また、私は眠っている間でも儲けられるように、独自のシステムを作り上げた。
私は自分の知恵で生きてきた。小学校から大学までひどく苦労したにもかかわらず、私はそれをうまくやり遂げた。それらの苦労のせいで、私は管理する側の一般通念を簡単には受け入れないし、好奇心が強くて疑い深い人間になった。最初の二つの章で説明するように、私は若いころに落ちこぼれたせいで、失敗や、もっと重要なことだが損失に慣れるしかなかった。そして、それが成功の土台となった。
また、人は間違いを避けられないこともそのころに学んだ。私の投資手法が将来の予測に基づかないのはそのせいだ(ヒント だれも未来を予測できない!)。また、経済や市場がどこに向かっているかについて大胆な予測を語るには、分からないことや不確実なことがあまりにも多すぎることも学んだ。勝つための私の手法は、人は間違えることがあるということを理解して、人々の行動を読むことにある。そうすれば、遠い未来の未知の世界の事実ではなく、現在の事実に基づいて賢明な判断をして、リスクを積極的に限定する対策を講じることができる。私はトレンドフォロワーだ。トレンドを追いかける強みは、それが現在起きているという点にある。私はベイズ統計を用いて、常に自分を最新の状態に更新している。これは打率を追いかけるのによく似ている。第4章では、お金と人生についてのトレンドフォローの手法を紹介する。それは私に役立ったのだから、あなたにもきっと役立つはずだ。
「最新のもの」とか、神秘的な響きがするシステムとか、「新しく」革命的なリサーチを売り文句にする専門家には注意をしよう。バーニー・マドフを覚えているだろうか。彼は簡単に儲けられると約束して、何十億ドルも盗んだ。そして、悪人は彼一人ではないのだ。あなたは儲けたいのだろう。それなら、誇大広告には乗せられないように。絶対にだ。今、ここにあるトレンドを注意深く見よう。予測が満載された洗練されたリポートを追いかけ始めても、だれが優れたコピーライターを雇っているか分かるだけだ。ウォール街の機関投資家は巧みな物語を駆使して、専門知識を売り込む。彼らは千年後も同じことをしているだろう。
ご存じのように、物語は次の世代を楽しませて導くために、人間社会の夜明けとともに作られ始めた。私たちは巧みな物語から学ぶようにできている。そして、残念ながら、ウォール街は私たちが物語を好むという人間の根本的な弱点を食い物にする。
だが、細心の注意を払っている私たちには現実が見える。グローバルな金融市場をうまく説明したり、そこでトレードをしたりするには、物語ではなく数字に頼るしかない(これが唯一の事実だ)。市場とは、非情な経済主体が法律の範囲内で優位性を競いつつ、絶えず入れ替わるところだ。そして、ウォール街で使われる物語の多くは、実際のトレンドの背後にある数字、つまり確率をあいまいにするように作られている。私にはそうした物語のすべてに打ち勝つ方法がある。それは市場が上昇しているか下落しているかを知る方法で、二つの統計の比較に行き着く。数字は高校で私に見向きもしなかった美人たちが経済番組で大げさに話すストーリーほど心が躍らないし、魅力的でもない。だが、数字をこれから私が説明するように正しく用いれば、もっと豊かになれる。例を一つ示そう。私が五二週高値に達した会社について話し、チャートでその数字を示しても、それで議論になることはない。しかし、この会社の社長は戦争中に二八人を救った英雄だったと言ったら、一日中議論になるかもしれない。彼は本当にその人たちを救ったのか。それが儲けるのにどう役立つのか。私が知りたいのは株価の五二週高値だけだ。それは数字だ。私の成功はとても退屈で体系的なトレードを生み出したためだ。それで、私はお金持ちになったし、その人が戦争の英雄だったかどうかなど議論する必要もなかった。たとえ、それを知ったとしても、そんな些細なことを追求しても、市場では一ドルも稼げない。
誇大広告を売って生計を立てることはできる。だが、真実に従えば、お金持ちになれる。
四〇年間、市場で――多くの市場でだが、主に先物市場で――トレードをしてきて、私はトレード対象の本質は、それが合法的なものであるかぎり認識できないと思うようになった。それは松の実でも、ポークベリーでも、コーヒーでも、砂糖でも、株式でも、債券でも同じことだ。何をトレードするかはトレードをする理由や方法ほど重要ではない。
私のトレード哲学は、株価は常に上昇するのでバイ・アンド・ホールドをするように、とお客を誘う常識とは真っ向から対立するものだ。株価は常に上昇するなど、だれが本気で信じるだろうか。また、私の哲学はお金だけでなく、結婚や人生や商取引、それにあなたのキャリアが何であれ、それにも使えることが分かるだろう。
損は切って、勝ち組には乗り続ける。これが富を築くことや、あらゆる種類の目標を達成するための私の信条だ。これが私のルールだ。いつ損を切り、いつ勝ち組に乗り続けるかをどうやって知るのだろうか。自分で知るしかない。リスクをどこまで許容できるのかを自分で判断する必要がある。例えば、仕事や人間関係で見返りが減っているとき、いつまで許容できるだろうか。相場が自分のポジションに逆行しているとき、いつまで耐えられるだろうか。答えを見つける方法を教えよう。
人生ではお金よりも時間のほうがはるかに重要だ。私たちはみんな有限の時間しか持っていないことを忘れないようにしよう(少なくとも、寿命を延ばす方法を見つけるまでは)。人はお金を手にすることも、失うことも、取り返すこともある。しかし、時間はけっして取り返せない。だから、うまくいく確率が高いときに良い判断をすることが、より多くの時間、すなわち自由を得る最良の方法だ。
さて、多くの人は確率で考える私のやり方を好まない。そこには英雄もいないし、ドラマも三幕構成もないからだ。英雄が立ち向かう試練もない。釘づけになるストーリーもない。しかし、私は朝起きて数字をいくつか見て、自分の欲しいものを得る最も簡単な方法は何かを自問すると言ったら、どうだろう。次に、トレードを二〇分間すれば、一日中自由に動き回ることができる。
望むものを得るには賢明な賭け方を学ぶことだ、と私は気づいた。カギは「賢明な」だ。そして、賢明な賭けをするには確率の基本を理解することだ。お金持ちになろうとしていたときに、私は自分の判断が正しかったときに大きな利益を得て、間違っていたときにあまり損をしない方法でトレードができるようになる必要があった。だから、私の考えやシステムは資金をすべて失ってしまわないようにリスク管理をするところから始まる。実際、私はどれだけ損をする余裕があるかを判断して、それ以上の損が出ないように調整する。言い換えると、賭けなければ、大損することもない。あなたが損をする余裕がある以上のリスクをとらないように、今後もこのことを繰り返し言うつもりだ。なぜそうするのか。あなたは市場の動向ではなく、お金の動きをトレードしているのだ。しかも、それはあなたのお金だ。限られた資金をどれだけ失うつもりかを管理できるのはあなただけだ。この原則に従えば、ゲームに参加しやすくなる。恐怖心を取り除ける! こう書いていて、私は鳥肌が立った。成功するためにこれはとても重要だが、ほとんどの人がこれを理解していないからだ。
ひょっとしたら、私が動いている世界は自分向きではない、とすでに思っている人もいるかもしれない。待ってほしい。私の話から利益を得るために、投資家やトレーダーである必要はない。これらの考えは、自分が実はどういう人間かや、自分の望む給料を得て望むキャリアと人生を手に入れる確率を最も高めるのに役立つ。人生では、自分の判断で世界を変えることはあまり望めないが、より良い選択をすることはできる。そうした選択によって、あなたやあなたの大切な人の生活を向上させることはできる。それが、私があなたを手助けしたいことだ。
私の目標は経済の専門用語をまったく使わずに、私の話を理解してもらうことだ。確かに、インベストペディア(Investopedia)で簡単に検索できる基本的な経済用語は使っている。私にとって話が面白いことは大切だが、私は事実やトレンドがどう機能するかを示すために話す。それらを誤解させるために物語を利用することはない。
第1部では、幼少期と一〇代のころについてと、学校の成績が悪く、目が不自由で失読症の子供がどうやってやがて天職を見つけることになるかについて語る。私の四つの基本原則と、それらをマネーゲームと人生ゲームに当てはめる方法はこうだ。
①ゲームに参加する。
②賭けができなくなるので、チップすべては失わないようにする。
③確率を知る。
④損を切って、勝ち組に乗り続ける。
最初に、あなたは私がどういう人間で、どうしてこういう生き方を選んだのか、私はどういう考え方をするのか、そしてこれらの基本原則があなたにとってどう役に立つかを理解する必要がある。
第2部では、これらの原則をより大きな世界に当てはめた話をする。これにはパートナーたちと私がミント・ファンドを設立した経緯も含まれる。このファンドは世界最大のヘッジファンドになり、一〇億ドルの資金をトレードした最初のファンドになった。私が行ったトレードは洗練されたリサーチと計算に基づいていたが、その過程を分かりやすく説明した。そして、私とは異なる方向に進んでも、それをどう使えば富を築けるかを示した。また、初心者向けの具体的な手順や上級トレーダーが考慮すべき原則も示した。だが、私にとって最も重要なことは正確な手順ではなく、私が開発した哲学全般だ。これはどの国の人でも、若者から高齢者まですべての人に有益だと思う。
私の経験を知ると、私は初期の失敗のせいで失敗に慣れるしかなかったことが分かるだろう。さらに重要なことは、大金はすべて、小さな損失の繰り返しによって得られていて、それが大勝利と成功への道を開いたということだ。
大学生に講演をするとき、私は彼らが自問すべき七つの質問についてよく話し合う。
一.あなたはどういう人間か。
二.あなたの目標は何か。
三.どんなゲームをしたいのか。
四.どこでそのゲームをするのか。
五.あなたの時間と機会はどこまでが限界か。
六.起こり得る最悪のことは何か。
七.自分の望むものを手に入れたらどうなるか。
この本の書名は「ルール」だ。なぜなら、私の主な目標の一つは、私がお金の面で成功するために使ったトレードの哲学が人生のほかの面――恋愛や結婚やキャリアの決定から道路の横断方法まで――でも、どう役立つかを伝えることだからだ。私の言葉によって、あなたの人生におけるすべての大きな決断、今はじっくりと考えていない決断の根底にある確率を検討するきっかけになればと思う。私はトレンドフォロワーなので、あなたが自分の人生で追っているトレンドや数字を注意深く見てほしいと思う。だれも未来を知ることはできないが、それらのトレンドや数字が伝えていることを知ることはできる。
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