目次
監修者まえがき
まえがき
はじめに
第1章 トレードで成功するために必要な三つのこと
売買エンジン
ポジションとポートフォリオを管理する
トレードの心理的な側面
トレードで成功するための三つのこと
第2章 戦略とシステム
戦略は自分に合うものでなければならない
コンピューターとトレード
第3章 ポジションサイズを管理する理由
第4章 仕掛けポジションのリスクを管理する
自分のリスク許容量に合わせて損切りを置く
どれだけ買うのか、または売るのか
株式でリスク配分を行ったシミュレーション
株式でリスク配分を変えたシミュレーション分析
先物でリスク配分を変えたシミュレーション
先物でリスク配分を変えたシミュレーション分析
第5章 仕掛けたポジションのボラティリティを管理する
ポジションのボラティリティの簡単な計算方法
ボラティリティを使って仕掛けるポジションサイズを決める
株式でボラティリティ配分を変えたシミュレーション
株式でボラティリティ配分を変えたシミュレーション分析
先物でボラティリティ配分を変えたシミュレーション
先物でボラティリティ配分を変えたシミュレーション分析
第6章 資金と証拠金を管理してポジションを仕掛ける
第7章 手法を組み合わせることは大いに意味がある
株式でリスクとボラティリティをさまざまに組み合わせた分析
先物でリスク配分とボラティリティ配分をさまざまに組み合わせた分析
先物でリスク配分とボラティリティ配分をさまざまに変えたシミュレーション分析
第8章 ポートフォリオの資金の種類
少額から始める
第9章 ポジションを仕掛けたあとはどうするのか
トレード進行中のリスク配分の限度
先物でのトレード中のリスク配分のシミュレーション
先物でのトレード中にリスク配分を変えたシミュレーション分析
トレード中のボラティリティ配分を変えたシミュレーションの分析
先物でのトレード中のボラティリティ配分を変えたシミュレーション
先物でのトレード中のボラティリティ配分を変えたシミュレーション分析
トレード中の証拠金の限度
第10章 先物でのトレード中のリスクとボラティリティの限度を組み合わせる
先物でのトレード中にリスクとボラティリティの限度を変えたシミュレーション
先物でのトレード中のリスクとボラティリティの配分の限度を変えたシミュレーション分析
第11章 ポートフォリオ全体のリスクを管理する
第12章 ここまでのまとめ
第13章 「スケールアウト」と「ポジションサイズの適正化」
第14章 自分に適したイクスポージャーを決める
極限を狙うという選択肢はない
少ないほうが良いところ
第15章 ポジションサイズの「スイートスポット」に関するミスター冷静沈着の考え方
監修者まえがき
本書は「マーケットの魔術師」の一人であるトム・バッソによる“Successful Traders Size Their Positions — Why and How?”の邦訳である。バッソはジャック・シュワッガーの『新マーケットの魔術師』(パンローリング)で「トレーダーの鑑」として紹介されており、本書ではポジションサイズ(リスクイクスポージャー)を管理することによって、いかなる状況でも冷静沈着にトレードする方法の基礎を解説している。
一般に、投資家の興味は良い銘柄を選ぶことにあり、トレーダーは売買エンジンを最適化することに最大の関心を払う。一方で、ポートフォリオを適切に構築すること、各種リスクを可能なかぎり見える化・定量化し管理すること、そしてそれらを心理的な安全・安心にまで昇華させることに注力する人はほとんどいない。だが、その大切さはいくら強調してもしきれるものではなく、ゆえに「マーケットの魔術師」たちは例外なくリスク管理に言及してきたのである。
私の若い知人の一人に十年来のウイザードブックシリーズ(WBS)の愛読者のファンドマネジャーがいる。彼のファンドのトラックレコードはピアグループ内で群を抜いている。その異質さは、単にリターンの絶対値だけではなく、その安定性がほかの追随をまったく許さないレベルにあるところにある。自社や他社を含めほとんどの機関投資家がほぼ同じような情報に接し、同じような条件・制約下で運用を行っているのにもかかわらず、なぜ彼の運用が統計的に明らかに有意に優れているのかについては、彼の所属組織でもだれも理解できず謎とされている。
だが、WBSの読者にとっては不思議でもなんでもないが、彼のエッジの一つはリスク管理にある。一連のWBSで解説されてきた(しかし伝統的な投資の世界ではなじみのない)リスク管理方法を、彼は自分の運用に導入し愚直に実行しているのである。あまり強調されていないことだが、リスクを適切に管理する技術は、単に使い手に安心感を与えるだけではなく、パフォーマンスの飛躍的な向上をもたらす。
さて、バッソはメンタルマネジメントとセットで語られることが多く、彼がその重要性を広く一般に啓蒙したことの功績は計り知れない。結果としてその努力は、私たち普通の人がだれでも投資家やトレーダーとして成功するための道を開くことになった。私が初めてバッソに会ったのは二〇年以上前になるが、そのときのさまざなな会話のなかで、今でも忘れられないのは、彼が「だれもがトレードで大成功できるとは限らない。なぜなら、それには運の要素が絡むからだ。だが、トレードで成功し豊かな生活を送ることならだれでも必ずできる」と話したことである。
資産を形成するために一番重要なのは、良い銘柄でもなければ、優れた売買エンジンでもなく、地道に投資・トレードを続けることそのものにある。向上心がある人間なら経験を積むことで学ぶことができるし、長い間に訪れるいくつかのチャンスをつかむこともできる。逆にそれを阻害するのは、リスクを管理しないことに起因する経済的な破綻や精神的な崩壊である。少なからぬ人が成功への希望を強く持ちながらその手段を誤って挫折する。本書はそれを避けるための入門書である。
このように機関投資家にとっても個人投資家やトレーダーにとっても、リスクを管理し、心理的な安定と良好なパフォーマンスを確保する技術は、この世界における無双の究極的な奥義とも言える。それは、銘柄選択能力の向上や売買エンジンの開発のように相当の努力が必要なものとは異なり、現在ではだれもが容易に習得することが可能な技となった。
翻訳にあたり、井田京子氏には正確で読みやすい翻訳を、そして阿部達郎氏は丁寧な編集・校正を行っていただいた。また、本書が発行される機会を得たのはパンローリング社社長の後藤康徳氏のおかげである。
2021年8月
長岡半太郎
まえがき
ローレンス・ベンスドープ
私が初めてトム・バッソに会ったのは、二〇一三年にアリゾナ州ペイソンにある彼の山荘を訪れたときだった。当時、私はすでに彼について書かれたものをかなり読んでいたが、実際に会って印象に残ったのは彼のトレードに対するゆったりとした姿勢だった。私たちはメディアに感化されて、トレーダーというのはストレスを抱え、落ち着きがなく、ポートフォリオの株の動きに一喜一憂するような人たちだというイメージを持っている。しかし、それはバッソとはほど遠かった。彼が三〇年以上、トレードで高い利益を上げてきた理由の一つは、バッソがポジションサイズの達人だからだ。この素晴らしい本には、彼が経験を重ねて培ってきたポジションサイズの方法が書かれている。彼は、それをみんなが応用できる理解しやすいアルゴリズムにまとめて紹介してくれた。
バッソはこの方法を分かりやすく説明し、単純で明快な例を示し、ポジションサイズ戦略の構成要素をステップごとに示している。もし私がこの概念を二〇〇〇年当時に知っていたら、トレーダーとしてもっと早く利益を出せるようになっていただろう。本書は、仕掛け時のポジションサイズの決め方から、トレード中にリスク管理を継続して行う方法までを網羅しており、初心者にとっても経験豊富なトレーダーにとっても必読の書になっている。
本書では、まず自分に合うトレード戦略を選ぶことの重要性と、ポジションサイズを管理する必要性について述べている。私が経営するトレーディング・マスタリー・スクールでは、自動トレード戦略について教えている。私は長年、たくさんの人に教えてきたが、そこで気づいた重要なことは、トレーダーは一人ひとり違うということである。考え方も、強みも、弱みも、リスク許容量も、目的も、トレーダーそれぞれで違うのだ。バッソはそのことを理解し、戦略があなたという人に合ったものでなければならないということを強調している。この重要な点をあまりにも多くの人が見過ごし、そのためにトレードで苦戦している。
第4章から第10章は、仕掛けのリスクやブレイクアウトや証拠金を考慮してポジションサイズを決める簡単な公式とその例を分かりやすく説明している。これらの章を読めば、ポジションの推奨サイズを算出する方法を理解できる。しかも、本書に出てくる公式や例は電卓で計算できる簡単なものなので、だれでもすぐに自分のトレードに応用することができる。
そのあと、バッソはトレード中のポジションのリスクとボラティリティと証拠金を管理することの重要性を非常にうまく説明している。これが極めて重要な理由は、仕掛けのポジションを過去のボラティリティに基づいて立てているからである。しかし、トレードを始めると、ボラティリティは簡単に変わってしまう。例えば、それまではボラティリティが非常に低かった株を買ったとしよう。これは、リスクとリワードの割合が非常に有利なセットアップだ。しかし、トレードを仕掛けてしばらくうまくいったあと、ボラティリティが急に上昇し始め、損切り注文を市場のスピードに合わせて動かすことができなくなる。そして突然、一日の値動きが仕掛けたときのボラティリティの四倍にもなるのだ。その時点で、ほとんどのトレーダーは、たとえ勝ちトレードであっても、感情や精神状態を普通の状態に保つことができなくなる。
第5章には、この実例が紹介されている。ここでも、バッソは、トレード中のリスクやボラティリティや証拠金を継続的に管理するための単純な戦略を紹介している。これは特に長期ポジションで重要になる。時間とともにボラティリティが変わっていくからだ。大事なのはトレードを続けていくことなのである。バッソが提供する情報を応用すれば、大きな利益が期待できる可能性があるトレードを続けていくのか、それとも日々のスイングに耐えきれずに早めに手仕舞ってしまうのかという違いが生まれる。
また、バッソはとてつもない結果を狙うポジションサイズ戦略を使うことの危険性を完璧に説明している(例えば、ケリーの基準)。これが非常に危険なことで、資金を台無しにする可能性が非常に高いことは私もまったく同感だ。売りと買いのルールがあるすべてのトレード戦略は、うまくいくときもあれば、うまくいかないときもある。適切なポジションサイズで安定的なリターンを狙うのではなく、「すぐに大儲けできる」と謳うポジションサイズ戦略を使っていれば、ほんの何日かですべてを失うこともある。トレーダーが自分の戦略をやめることになる主な理由の一つが、積極的にリスクをとりすぎたポジションサイズだ。トレードでは、自分の戦略を長く使い続けることが重要である。これは、ドローダウンの時期も横ばいや勝っている時期と同じ精神状態で過ごすことができれば可能になる。
第11章では、ポートフォリオ全体のリスクに基づいたポジションサイズという概念と、全体のリスクが高くなりすぎたときのポジションサイズの減らし方を紹介している。バッソは、これを戦略に含めることの付加価値を、シミュレーション用のソフトウェアを使って示している。これは素晴らしい。
そして、第14章ではポジションサイズのスイートスポットの重要性についての説明がある。これこそが、自分の目的に応じてトレードするための戦略を構築するためのアルゴリズムである。バッソにとって、これはリラックスした穏やかな精神状態でトレードすることである。そして私にとっては日々どのように株価が上や下に変動しても、私の精神状態や幸福度やトレードとトレードの一貫性に対する姿勢が変わらないことである。読者もそれぞれトレードの目的は違う。もしバッソのポジションサイズの公式を自分のトレードに応用すれば、トレーダーとして成功する確率は大いに上がるだろう。
(トレーディング・マスタリー・スクールCEO[最高経営責任者]兼『強気でも弱気でも横ばいでも機能する高リターン・低ドローダウン戦略』[パンローリング]と『ザ・30ミニット・ストック・トレーダー』[パンローリングより近刊予定]の著者)
はじめに
私は一二歳のときに新聞配達のアルバイト代で投資信託を買って以来、化学エンジニアとして短期間働いたときも株投資を行い、そのあとの二八年間はプロのマネーマネジャーとして証券や先物や通貨をトレードし、今は個人で年金ファンドを運用している。そして、この間にトレードの世界でたくさんのことを見てきた。例えば、学問と資金管理が合わさると、投資の過程は不可解で複雑になる。そして、それを見た多くの個人投資家は自分のポートフォリオを運用するのが怖くなる。しかし、そんなことは気にせずに投資を始めてほしい。
正しいポジションサイズを建てるという考えは、新しいことではない。また、本書には簡単な数式が出てくるが、中学二年までの知識があれば十分だ。コンピューターがあれば便利だが、必須ではない。バン・K・タープ博士の『デフィニティブ・ガイド・トゥ・ポジション・サイジング――ハウ・トゥ・イバリュエート・ユア・システム・アンド・ユーズ・ポジション・サイジング・トゥ・ミート・ユア・オブジェクティブス』(Definitive Guide to Position Sizing : How to Evaluate Your System and Use Position Sizing to Meet Your Objectives)のような素晴らしい本は、すべてを網羅し、たくさんの例を挙げ、たくさんの数式を用いて、すべての読者に市場ではポジションごとのサイズが大きな違いを生むことを納得させてくれる。このような本は、ポジションサイズについて深く掘り下げたい人には本当に役に立つ。ただ、私が知るトレーダーの多くは、単純に「利益」を上げる方法を知りたがっている。そこで、本書ではポジションサイズの実践的な決め方に関する私の考えをできるだけ単純かつ実用的に述べることにした。
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