■目次
監修者まえがき
序文・・・ビル・リップシュッツ
謝辞
まえがき
パート1 感染症
第1章 黒死病(ペスト)――現代の範例
「暗黒の時代」と呼ばれる理由
1314~16年の大飢饉
黒い死
戦闘に勝って、戦争に負ける
死の経済効果――勝者と敗者
命あっての物種
近年の事例――1994年ネズミ雨
第2章 1918年スペイン風邪
インフルエンザ――したたかにはびこる猛毒
スペイン風邪――20世紀の悲劇
減りゆく世界の人口
金融界と産業界の動向
第3章 狂牛病
感染症の出現
イギリスの事例
過去は昔の過去ならず
レート=リターン
カナダの事例
アメリカの事例
まとめ
第4章 SARS
SARSの脅威
流行の経緯
SARSが残した教訓
第5章 鳥インフルエンザ
インフルエンザの基礎知識
聞き捨てならない
未来を占う――長期的視点からの短期的見方
有効な治療法
3つのシナリオ
パート2 自然災害
第6章 ハリケーン
専門機関の情報
良い知らせと悪い知らせ
最悪中の最悪
1992年のハリケーン・アンドリュー
2004年のハリケーン・チャーリーとハリケーン・アイバン
2005年のハリケーン・カトリーナとハリケーン・リタ
ハリケーンのはずれ年
第7章 地震と津波
「魔物」の正体
1906年サンフランシスコ大地震
1995年阪神淡路大震災
2005年パキスタン地震
2004年インド洋津波
結論――やっかいだが勝負は可能
第8章 地球温暖化
諸悪の根源は温室効果ガス
国際間の不協和音
企業を巻き込む機運
とりあえず、何か買う!
エコで行こう!
パート3 政治
第9章 テロリズム
9.11同時多発テロ――2001年
2004年3月11日スペイン列車爆破テロ事件
2005年7月7日、ロンドン同時爆破テロ
まとめ
第10章 政変
1994年米中間選挙
2001年アルゼンチン危機
2005年ドイツ連邦議会選挙
政治闘争と市場取引
第11章 政界スキャンダル
2000年米大統領選挙
2006年カナダ連邦議会選挙
覚え書き
第12章 現代の短期戦争
第一次湾岸戦争
第二次湾岸戦争
武器よ、さらば
あとがき
参考文献
■監修者まえがき
本書はアンドリュー・ブッシュの著した『World Event Trading』の邦訳である。世の中に相場書と呼ばれるものはあまたあるが、特殊なイベントの発生時に特化した運用手法について解説した書籍はこれ以外にはない。ここで言う特殊なイベントとは、疫病、台風、地震、テロなどの突発的な事件のことである。これらの事件の発生は予測ができないために、それにまつわるトレードのチャンスはだれにでも平等に訪れることになる。
一般的に、個人投資家が機関投資家などに比して対等に立ち回れる投資機会はそれほど多くはないが、このアウトライヤー的な状況下でのトレードはその主要な構成要素の一つである。不測の事態においてはマーケットの参加者のほとんどすべての人は慌てふためき右往左往するだけで、能動的なトレードをすることはできないからだ。
そうした事例について事前に入念なリサーチを行い周到に準備をしているバイサイドはほとんどないし、現実にイベントが発生するような際には、セルサイドから過去の類似事例について簡単なレポートが出されることもあるが、実際にそれらの知見に基づいて行動を起こせる売買主体は非常に限られている。彼らにせいぜいできることは、ボラティリティの上昇に対応して事後的にレバレッジを抑えるか、βニュートラルなポジションにシフトするくらいのものでしかない。
しかし、特殊なイベントと言えども類例が過去にまったくないというわけではない。本書に解説してあるように、投資家を集団としてみた場合、その行動はエクストリームなケースにおいて一定のパターンを示す。そうしたいびつな、投資家の一方向の行動はマーケットにおいて非常に偏ったゆがみを発生させる。そのゆがみは、それがいびつであることを知る者にとって、そしてその状況下で自由に動ける者にとってまたとないチャンスをもたらすことになる。その意味でも個人投資家は非常に有利な立場にあると言える。
本書の狙いは、アウトライヤー下におけるこうした投資家の習性について事前に十分な学習を行うことによって、実際にそういった事例が発生したときに、リスクを抑える保守的な行動ではなく、より積極的に利益を取りにいくトレードを行うことを可能にすることにある。私も本書を大変興味深く読んだ。ぜひ皆さんも本書を手元において来るべきチャンスに備えていただきたい。
翻訳に当たっては以下の方々に心から感謝の意を表したい。翻訳者の永井二菜氏は丁寧な翻訳を実現してくださった。翻訳作業の期間中に永井さんから多くの質問をいただいたが、どんな些細な点でも納得できるまで解明して分かりやすい翻訳を実現しようとする姿勢には頭が下がる思いであった。そして阿部達郎氏にはいつもながら丁寧な編集・校正を行っていただいた。また本書が発行される機会を得たのはパンローリング社社長の後藤康徳氏のおかげである。
2011年1月
長尾慎太郎
■序文
疫病や天災やテロは、いつ、どこで、どの程度の規模で発生するのか予測できない。しかし、世界の金融市場に及ぼす影響については予測できなくはない。
絶好の仕掛け時は流動性や相場の基調が一変するときに訪れる。トレーダーや投資家は市場の混乱にのみ込まれて、その好機を逃してしまいがちだが、それはひとえに何が起きているのか分かっていないからだ。世界規模のイベントとイベント発生時の市場心理――その複雑な関係を抑えておくことが欠かせない。
それがワールド・イベント・トレーディングの肝だ。
マーケットが判断材料を求めて絶えずアンテナを張りめぐらしているように、マクロトレーダーも常に豊富な戦略を用意し、それを実践できるようにしなければならない。そのとき、ワールド・イベント・トレーディングのスキルは最強の武器になる。
過去のイベントに精通することも、それが金融市場に与えた影響について理解することも容易ではない。異常事態の展開を読めるようになるには数多くの事例を経験するか研究するしかないだろう。イベントに伴う相場の動きを理解し、予測することも百戦錬磨の専門家でもないかぎりは至難の業だ。
アンドリュー・ブッシュは本書のなかで、そんな常識を覆し、どこを見るかだけでなく、どう見るかについても手ほどきしてくれる。グローバルな自然災害からある国の失政に至るまで幅広いイベントを網羅して、市場がなぜ、どのように反応したのかを事例ごとに丁寧に分析している。
為替ディーラー、アナリスト、文筆家として20年のキャリアをもつブッシュ氏が過去500年間に起きたイベントのなかから代表的な事例を引き、その一つひとつを吟味し、市場の反応を探る。その結果、現実の金融市場を舞台にした仮想のロードマップが完成した。ここには緊急時の市場の動きが詳細に描かれている。
本書は各国のトレーダー、学術研究者、政治家、市場参加者に向けた必読の1冊である。
ビル・リップシュッツ
(ハザーセージ・キャピタル・マネジメント社ポートフォリオ管理担当プリンシパル兼取締役)
※ビル・リップシュッツは、『新マーケットの魔術師』のトップで紹介されている
八年間負け知らずで5億ドルを稼いだ「通貨の帝王」です。
■まえがき
ウォール街に古くから伝わるジョークがある。「投資を始めると赤ん坊ような眠り方になるよ……2時間おきに泣いて目が覚めるから」。日々のニュースを追っていると、そう言われる理由が分かる。カリブ海に発生した熱帯低気圧がメキシコ湾のエネルギー生産に影響し、原油の高騰が株式市場を直撃する。新政権の誕生によってアメリカの対中政策が変わり、為替市場では中国製品に対する関税の導入を見込んだ動きが出始める。南米の社会主義国の指導者が電話会社の国営化に乗りしたが、その企業の大株主はニューヨーク証券取引所に上場するアメリカの企業。しかも、その南米の国はアメリカにとって第4位の石油供給国だ。これほどまでに、市場、国際社会、メディアが密につながる時代はない。1世紀半前、ロイター通信の創業者ユーリウス・ロイターは伝書バトを飛ばして、情報を待ちわびるヨーロッパの投資家に数日遅れのニュースを届けていた。それが今では、アフリカ沖で発達するハリケーンをリアルタイムで見ながら、メキシコ湾岸で生産される原油や天然ガスについての売買注文が出せる。
2005年を振り返ってみれば、薄商いの夏の市場を一変させたのは異例のハリケーンシーズン到来だった。フロリダ南部を通過したハリケーン・カトリーナは勢力を弱めるどころか速度を上げて温暖なメキシコ湾を抜け、アメリカの石油生産の拠点に接近した。当時、ニューオーリンズの港に立ち並ぶ倉庫にはあらゆるものが詰まっていた――バナナ、冷凍の鶏肉、トウモロコシ、木製パネル。気象レーダーに現れた名もなき点はやがて多くの人命を奪い、政府の危機対応のまずさを露呈する。南部の港町は完全にまひし、数万人の住民が路頭に迷い、アメリカ経済は大混乱に陥った。少なくとも100隻の貨物船がミシシッピ川の下流域で沈み、世界供給量の半分にあたる亜鉛が倉庫もろとも冠水した。ほぼすべての産業が打撃を受け、「世界最後の超大国」はその評判を著しく落とした。しかし、そのわずか1年後、アメリカの株価は史上最高値に迫るまでに回復した。コストのかさむ湾岸戦争の終結、政権の交代、原油価格の上昇を味方につけ、アメリカの金融市場は底力を見せつけたのだ。
しかし現実に目を向ければ、今後の自然災害は経済と市場にかつてないほどの打撃を与えるだろう。アメリカの沿岸部では住宅の建設ラッシュが続いており、地元住民の暮らしは危険にさらされている。国勢調査によると、大西洋ハリケーンの頻発地域に住む市民は8700万人で、これはアメリカの全人口のほぼ3割に当たる。ルイジアナ州からフロリダキーズにかけての沿岸部5万平方マイルには、1950年当時に比べて3.5倍の人口がひしめいている。それだけに災害が起きれば住民の避難は困難になり、対物被害は大きくなるだろう。市場も無傷ではいられない。損害保険料、トウモロコシの先物価格、株価に至るまで、影響を受けるはずだ。
市場の大きな矛盾点は、過去の実績は未来の成果を約束するものではないが、それでも歴史は繰り返すということだ。そして私たちの記憶は時間とともに薄れていく。マスコミがカトリーナを話題にすることも、今ではほとんどなくなってしまった。それでも大災害は確実にやってくる。インフルエンザが再び流行しようものなら、テレビレポーターや市場アナリストは1918年のスペイン風邪の例を勇んで引き合いに出すだろう。母なる自然はマーケットにとって、もっとも難しい材料かもしれない。しかしマーケットにとって、もっとも大きなリスクは別にある――人間の介入だ。この点に関して、私はアンドリュー・ブッシュの専門家ならではの分析力を頼りにしてきた。「過去は未来の序章、人間は忘却の動物」と心得るブッシュは国際市場の展開を見事に言い当てる。
ワシントンの武力外交、湾岸戦争、国際貿易の不均衡など、そのすべてがどう絡み、どう市場を揺さぶるのかを彼はたちまち把握してしまう。この数年でブッシュのコメントを、たぶん100回は伝えてきたと思うが、そのコメントが加わると市況のニュースは一段とおもしろくなる。本文を読んでいただければ分かるとおり、慧眼の持ち主アンドリュー・ブッシュが市場の難解な動きを鋭い指摘とユーモアを交えて解説してくれる。
クリスティーン・ローマンズ(CNNリポーター兼キャスター)
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