鋼のメンタルトレーダー しなやかさと対応力が身につく心理と生理機能の管理法|FX中級者向け書籍
メンタルを防弾仕様に
この書籍は世界中の大手投資銀行やヘッジファンド、CTA等のトレーダーのパフォーマンスコーチとして活躍したスティーブ・ワードにより執筆されたものです。
トレードを行う上で、トレーダーが抱えるさまざまなストレスから身を守り、パフォーマンスを改善させるための方法を紹介しています。
心理学、生理学、哲学、プラグマティズムなど様々な分野からのアプローチにより、トレーダーの心理を武装していきます。
トレードを続ける上で誰もが感じる不安やストレスとどのように対峙し、コントロールすべきかを学ぶことで、心の乱れによる損失を軽減することができるかもしれません。
本ホームページに掲載されている事項は、投資判断の参考となる情報の提供を目的としたものであり、投資の勧誘を目的としたものではありません。投資方針、投資タイミング等は、ご自身の責任において判断してください。本サービスの情報に基づいて行った取引のいかなる損失についても、当社は一切の責を負いかねますのでご了承ください。また、当社は、当該情報の正確性および完全性を保証または約束するものでなく、今後、予告なしに内容を変更または廃止する場合があります。なお、当該情報の欠落・誤謬等につきましてもその責を負いかねますのでご了承ください。
目次
立ち読みコーナー(本テキストは再校時のものです)
監修者まえがき
まえがき――本書の使い方
第1部 防弾仕様になる
第1章 なぜ防弾仕様になりたいのか
第2章 防弾仕様の枠組み
第2部 良いときもあれば悪いときもある
第3章 トレードの本質
第4章 下落したときの対処がうまくなる
第3部 コミットメント
第5章 問題が起こったときの考え方
第6章 行動にコミットする
第7章 自分の価値を知る
第4部 リスクと不確実性
第8章 リスクを管理する
第9章 不確実性を受け入れる
第10章 最悪の事態に備える
第5部 集中
第11章 注意力を鍛える
第12章 プロセスに集中する
第13章 コントロールできることをコントロールする
第6部 不快感
第14章 不快な状態に慣れる
第15章 理解するのが難しい考えにとらわれない(立ち読み)
第16章 ストレスから来る感情に対処する
第7部 自信
第17章 困難に対処する自信をつける
第18章 重大な場面で冷静さを保つ
第19章 自分を責めない
第8部 柔軟性
第20章 困難のなかでチャンスを見つける
第21章 変化にうまく適応できるようになる
第9部 状態を管理する
第22章 自分のストレスレベルと疲労レベルを観察する
第23章 回復する力を習得する
第24章 生理的健康を増進する
結論
第25章 終わり――そして始まり
謝辞
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監修者まえがき
本書はファンドマネジャーやトレーダーのメンタルコーチを幅広く務めるスティーブ・ワードの著した“Bulletproof Trader : Evidence-Based Strategies for Overcoming Setbacks and Sustaining High Performance in the Markets”の邦訳で、投資やトレードにおいて精神状態や生理状態を整える方法を説いたものである。投資活動におけるメンタルマネジメントに関してはすでにいくつか解説書があり、行動科学の知見に基づいて売買主体の状態を変数として扱う技術が知られるようになってきた。これら先行研究に対して、本書はトレーダーの生理的状態と意思決定の関係、およびその管理方法に焦点を当てたところに特徴がある。
本書にあるように、生命体としての人間は、自身の精神的・生理的状態を意識して調整しないと、もともと投資やトレードにはまったく不向きにできている。金融市場では、大抵の参加者が合理的な意思決定をする平常時は機会に乏しく、逆に多くの売買主体が非合理な行動を取らざるを得ない非常時に大きなチャンスが訪れる。しかし、その最も重要な瞬間に、多くの運用者は極めて困難な精神状態に陥ってしまう。このため、適切な訓練を受けていない人間(あるいは上席の無明な決定権者)はその際に投資活動のすべてを自らの手で破壊してしまう。
著者が行うようなコーチングサービスが成り立つ社会や文化を羨ましく思う。投資の質を向上させるには、市場やトレード対象だけではなく、運用者自身についても深く理解することが避けられないが、日本ではメンタルマネジメントは「逆境の際に精神的苦痛に独りで耐えること」程度にしか認識されていないし、その問題を科学的に取り扱う、あるいはコーチングのような仕組みを導入するといった試みはほとんど聞かれない。将来の経済的不安を広く煽り立てる一方で、「投資は自己責任」という言葉に代表されるように当事者を冷たく突き放して、その活動を支援しより良い結果を社会や組織全体で実現するためのエコシステムの構築には何のコミットもないというのは欺瞞であり、関係する業界は恥ずかしく思うべきだろう。
投資やトレードのメンタルマネジメント(ならびにマネーマネジメント)は、抗堪性だけではなくレジリエンス(回復力)の観点からも考察される必要がある。本書は一般投資家だけではなく、機関投資家に所属する人間にとっても貴重な示唆を与えることになると思う。
翻訳にあたっては以下の方々に感謝の意を表したい。まず井田京子氏には読みやすい翻訳をしていただいた。そして阿部達郎氏は丁寧な編集・校正を行っていただいた。また本書が発行の機会を得たのはパンローリング社社長の後藤康徳氏のおかげである。
二〇二二年二月
長岡半太郎
第15章 理解するのが難しい考えにとらわれない
自分の考えについて考える
トレード判断やトレード結果の障害になっているのは、どのような考えや心配や自己批判や記憶やそれ以外の役に立たない考えなのだろうか。
トレーダーは、自分のトレードやポジションやほかのトレーダーについて考えることに多くの時間を割いている。そして、もちろん市場についても考えている。それらのことを取引時間も市場が引けてからも考えている。
こうして考えたことは役に立つこともある。効果的な行動につながり、トレーダーの経験も増える。しかし、考えが役に立たないこともある。考えることに夢中になって、トレードのリターンを減らす行動につながってしまうこともある。
トレードは難しいため、理解しにくい考えが浮かんでくるのは自然なことだ。先述のとおり、人はそういうものだ。頭はそういう仕組みになっている。
ただ、これらの考えにどう対処するかは、トレードの判断とその後のリターンに大きな影響を与える。
「ときどき仕事に関して発作的に強い不安に襲われ、苦しんでいる。最も破壊的なのは、自分の能力やプロセスについて理由もなく否定的な考えに襲われることだ。例えば、仕事で約五〇〇万ドルの利益を上げていても(そのうちの一〇〇万ドルは昨年の分)、今年二〇万ドルの損失を出したら、自分にはこの仕事に必要な能力がないのではないかと考えてしまう。不合理な考えだということは分かっている……しかし、毎日のようにこのような考えが浮かんでくるのを止めることができない」――ファンドマネジャー
これは、私のかつての顧客で成功しているファンドマネジャーの言葉だ。考えが私たちに影響を及ぼすことがよく分かる。
私は、多くの成功したトレーダーやファンドマネジャーが、自分に十分な能力があるのかと自問するのを何回も見ている。彼らはたいていその能力を証明する証拠をたくさん持っているが、それでも不安になるのだ。
考えは変わりやすい。最近の出来事や恐れていることなどによって簡単に変わってしまうのだ。直近の損失を長期的なパフォーマンスよりも重視するのは、ストレス反応が注意力と考えを短期的なことに集中させてしまうからだ。そして、私たちは自分の能力に関する根拠のない疑問を持ち、その考えから逃れようと苦心する。
シロクマのことを考えてはならない
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五分間静かに座る。そして、シロクマについて考えないようにする。
シロクマについて考えていることに気づいたら、メモしてその回数を記録する。
何回シロクマについて考えただろうか。
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この実験は、ダニエル・ウェグナーが一九八七年に行った思考抑制に関する研究(あることを考えないようにするとどうなるか)から引用した(White Bears And Other Unwanted Thoughts : Suppression, Obsession and The Psychology of Mental Control; Daniel M. Wegner, Guilford Press; 1st edition, 24 May 1994)。この研究で、被験者は抑制テクニックを使って五分間、シロクマについて考えないようにするが、それでも考えてしまったときはベルを鳴らすことになっていた。
この実験で、抑制戦略を使ってシロクマについて考えないようにすると、むしろそれについて考えてしまう頻度が増えることが分かった。この現象は「皮肉過程」と呼ばれている。そして、興味深いことに、この効果は実験の直後にさらに顕著になる。
抑制とコントロールによる戦略は、トレーダーの心理を管理するための最も効果的な方法ではないのかもしれない。特に、複数のストレスの要因や困難な状況にさらされているときはそうだ。抑制は代謝的にもきつい。エネルギーと脳の資源を消耗し、目の前のやるべきことに集中するのを妨げるからだ。
困難を切り離す
「今は手仕舞えない」
「いずれ市場は回復する」
「この損失は受け入れられない」
「勝ち組になるためにはこのトレードが必要」
顧客のラケシュは損切りをするときに、よくこんなことを考えていた。特に、前のトレードでも損失を出していたり、連敗していたりするときは特にそうだった。
ラケシュが自分の心を管理しようとするときは、考えを無視しようとしていた。考えないようにしたり、別のこと(何か前向きなこと)を考えようとしたりするのだ。これらは自分の考えを管理しようとするときよくやる方法だが、それをすることによってその考えを認識してしまうのである。
結局、彼は自分の考えといつも苦闘していた。彼の言葉を借りれば、彼は「戦い」に疲れていた。
私が手助けしてきたトレーダーの多くが、トレード中に浮かんでくる無用の考えと戦っていた。このような考えは、困難なときやストレスが高いときによく出てくる。脳でこのようなことが起こるのは、ある程度普通のこととも言える。重要なのはこのような考えが起こることではなく、それにどう対処するかなのである。
否定的な考えに対処するためには、四つの知的スキルが必要になる。
①気づき 考えを単なる考えだと気づく。
②有効性 その考えは役に立つのか、それとも今の状況に合っていないのか。
③分離 否定的な考えや無用な考えから「離れる」方法を学ぶ。
④行動 専念して行動する。自分のプロセスに従う。
①気づき
自分の内から出てくる考えを効果的にコントロールできるようになるために、まずは自分が今、考えていることに気づく必要がある。焦点的集中の練習や今の瞬間を認識できるようになることがとても重要な理由はそこにある。
そこで、自分の嗜好に気づく力を鍛えるための簡単な練習がある。これによって、メタ認知を鍛えることができる。
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目を閉じて、自分の考えに気づく。自然に浮かび上がってきた考えやイメージを観察する。もし考えやイメージが浮かばなければ、それでもよい。そのまま観察を続ける。
●考えに名前を付けてもよい。例えば、「計画」「心配」「判断」。
●ある自分は考え、また別のある自分が考えている自分を観察していることに気づく。
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この練習には二つのメリットがある。一つ目は、自分の嗜好に気づきをもたらす素晴らしい方法であるということで、二つ目は自分と自分の考えという重要な違いを理解するための重要なステップだということである。
考えは頭のなかで起こっていることで、これは自分自身ではないし、必ずしも事実とは限らない。
頭に浮かぶ考えを、常に選ぶことができるわけではない。ただ、その考えにどれだけ注意を向けるのかと、どれだけかかわるのかは選ぶことができる。
考えを考え、つまり頭のなかで起こっていることとして見ることで、考えを違う形で経験できるようになるし、違う形でかかわることができるようになる。そして、考えを効果的にコントロールし、行動することや、トレード計画に従うことや、勝率を高めるための行動に及ぼす影響を減らすことができる。
②有効性
自分の考えを観察すると、それをプラスかマイナスかで考える人が多い。しかし、プラスかマイナスかは自分のいるそのときの状況によって変わる。それよりも、その考えが有効かどうかという視点でとらえるほうが役に立つ。
このような考え方は、自分のトレードの手順や価値観や目標に沿った効果的な行動をする助けになるのだろうか。
もしイエスならば、これは有効なのでそれ以上何もする必要はない。しかし、もしその考えが効果的な行動を妨げていたら有効ではないため、コントロールしなければならないのかもしれない。
どのような状況でも、考えは役に立つときもあれば役に立たないときもあるし、有効なときもあれば有効でないときもある。プラスかマイナスかという見方をやめると、自分の考えの機能をより良く把握できるようになる。また、それによってより柔軟に考えることができるようになり、これは考えをコントロールするよりもはるかに機敏な方法と言える。
③分離
「市場で利益を上げるなんて不可能だ」
こんなことを思ったと想像してほしい。ただ思っただけでなく、強く信じこんでいて、それ以外のことを考えられなくなっていると想像してほしい。
これは「融合」(簡単に言えば「取りつかれる」ということ)として知られている。これはトレード行動にどのような影響を及ぼすのだろうか。もしかすると、何らかのストレスや不安を感じたり、儲からないとあきらめてしまったり、努力するのさえ無駄だと感じたりするかもしれない。そして、なぜか役に立たない行動を取ってしまうかもしれない。
「市場で利益を上げるなんて不可能だ」という考えは、ただの考えにすぎない。問題なのはこの考え自体ではなく、この考えに取りつかれてしまうこと、つまり融合してしまうことなのである。
認知的融合 考えを実証された確固たる事実で変更できないものとしてとらえてしまうこと。そうなると、これらは従うべき規則だとか、避けなければならない脅威だとか、起こりつつあって止めることができないものだと思い込んでしまうし、常に最も重要なことになってしまう。 認知的分離 考えは本当かもしれないし、そうでないかもしれないことを認識していること。つまり、それは従わなければならない命令でもルールでもない。また、重要かもしれないしそうではないかもしれない。そして、これらは現れたり消えたりする。
考えに融合するか、それとも分離できるかの違いが、トレードの行動に与える影響はかなり大きい。
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次の簡単な練習で、取りつかれているかどうかと、そこから離れる感覚をつかんでほしい。
●トレードで難しいと感じた状況と、そのとき浮かんだ理解しがたい考えについて考える。
●そのことをA四サイズの紙にできるだけ大きく書く。
●その紙を顔に近づけ、どんな感じかしばらく考える。
●次に、紙を腕いっぱい伸ばした位置で持ち、どんな感じか考える。
●次に、紙を自分の膝の上に置いて、どんな感じか考える。
この最後の三つのことを比較する。
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この練習をしたあと、顧客はたいてい次のような反応をする。紙(考え)が目の前にあるときは、ほかのことが見えにくく、この考えに支配されてしまう。腕を伸ばした位置は、考えから少し離れることができ、緊張感は減るが、この位置を保つには多少の努力がいる。しかし、膝の上に置くと、この考えがそこにある認識はできるが、支配的ではないし、そこに保つ努力も必要ない。
最も単純で最も基本的な分離戦略は、自分の考えを考えという頭のなかの出来事として認識することである。つまり、これは事実でも、命令でも、真実でも、従わなければならない規則でもない。このような見方ができるようになると、すぐに自分の考えから解放される。
トレードに有効ではないかもしれない考えが認識できるようになると、次のような簡単な分離戦略を応用できる。
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考えるときに、文末に「……と自分は考えている」「……と自分が考えていることに気づいている」「……という考えが頭のなかにあることに気づいている」と付け加えてみる。例えば、次のように言ってみる。
●「市場でトレードするなど不可能だと自分は考えている」
●「市場でトレードするなど不可能だと自分が考えていることに気づいている」
●「市場でトレードするなど不可能だという考えが頭のなかにあることに気づいている」
この考えを、あえてゆっくりと言ってみる。
そして、書き出してみる。
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トレード日誌に執行したトレードだけでなく、トレードに関する考えも記しておくと、分離が自然にできるようになる。考えを書き出すと、それが考えだと認識でき、距離を置いて見ることができるようになる。
私はコーチングを行うとき、顧客に自分の考えをフリップチャートに書いてそれをしばらく眺めてもらい、それから二~三歩下がって再び眺めてもらう。すると、書いた内容はまったく同じなのに、その見方とかかわり方は変わる。
④行動
最後に、考えをコントロールすることの目的は、勝率を最大にするために必要な行動、つまり自分のトレードのプロセスをできるかぎり安定的かつ効率的に行うことに集中し続けることにあるということを思い出してほしい。 うまくトレードできるかどうかの中核は、常に行動にある。
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座った姿勢で自分に繰り返し「座りなさい」と言ってみてほしい。そして、そう言いながら立ち上がる。次に、立ったまま自分自身に繰り返し「立ちなさい」と言う。そして、そう言いながら座ってみてほしい。
この簡単な練習によって、考えていることと逆の行動を取ることが可能だということを自分自身に納得させることができる。特に、考えに取りつかれていなければ、これは難しいことではない。
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つまり、「損失を出すのが心配だ。このトレードを手仕舞わなければならない」という考えが浮かんでも、もしトレードを続けることが正しいプロセスならば、自分の考えを認識し、受け入れて、分離して、トレードを保有し続けることもできる。「自分が損失を出すことを心配し、このトレードを手仕舞わなければならないと考えていることに気づいている」が、それでも自分のトレードのプロセスを執行することに専念するということである。
本ホームページに掲載されている事項は、投資判断の参考となる情報の提供を目的としたものであり、投資の勧誘を目的としたものではありません。投資方針、投資タイミング等は、ご自身の責任において判断してください。本サービスの情報に基づいて行った取引のいかなる損失についても、当社は一切の責を負いかねますのでご了承ください。また、当社は、当該情報の正確性および完全性を保証または約束するものでなく、今後、予告なしに内容を変更または廃止する場合があります。なお、当該情報の欠落・誤謬等につきましてもその責を負いかねますのでご了承ください。