目次
日本語版への序文 ジャック・D・シュワッガー
監修者まえがき
序文
謝辞
第1部 先物トレーダーたち
第1章 ピーター・ブラント Peter Brandt
休みをはさみながら二七年間で年平均五八%のリターンを打ち立てる柔軟さと規律を持った裁量トレーダー
第2章 ジェイソン・シャピロ Jason Shapiro
メディアと大衆とCOTリポートから転換点を見抜き、二〇年間で年平均三四%を上げる生まれつきのコントラリアン
第3章 リチャード・バーグ Richard Bargh
テクニカル分析とファンダメンタルズを融合させ、六年間で年平均二八〇%を達成する裁量トレーダー
第4章 アムリット・ソール Amrit Sall
入念な事前準備をしてユニコーン(めったにない機会)時に大きく張り、一三年間で年平均三三七%をたたき出す直感トレーダー
第5章 ダルジット・ダリワル Daljit Dhaliwal
詳細なトレード日誌から自らをエッジを特定し、九年間で年平均二九八%のリターンを上げる努力家
第6章 ジョン・ネット John Netto
ファンダメンタルズとテクニカルを融合させてイベントに立ち向かい、一〇年間で年平均四二%を実現する元海兵隊員
第2部 株式トレーダーたち
第7章 ジェフリー・ニューマン Jeffrey Neumann
単純なトレンドラインの早期のブレイクで、一〇年間で年平均五〇%を稼ぐピーター・リンチを彷彿させる現場主義者
第8章 クリス・カミロ Chris Camillo
SNSで新トレンドをいち早くキャッチし、一四年間も年平均六八%のリターンを続けるソーシャルアービトラジャー
第9章 マーステン・パーカー Marsten Parker
柔軟にシステムを変えたり、捨てることで、二二年間で年平均二〇%の実績を上げるシステムトレーダー
第10章 マイケル・キーン Michael Kean
長期保有とバイオ株のイベントを利用した短期の売りトレードを組み合わせ、一〇年間で年平均二九%を誇る一人マネーマネジャー
第11章 パベル・クレイチー Pavel Krejci
決算発表直後の買いのデイトレードだけで、一一年半(実質的な売買期間は年4カ月)で年平均三五%を成し遂げる元ベルボーイ
結論――マーケットの『魔術師による四六の教訓』
エピローグ
第3部 日本語版ボーナスチャプター
第12章 ジャック・シュワッガー Jack Schwager
だれもがジョーダンやボルトにはなれないが、自分の性格に合った手法でトレードをすることが成功への近道
付録1 先物市場を理解する
付録2 パフォーマンスの指標
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日本語版への序文
ジャック・D・シュワッガー
何十年にもわたって私の著書を熱心に読んでくださっている日本の読者にとても感謝しています。『マーケットの魔術師』シリーズはおそらく欧米と同じくらいか、それ以上に日本で人気があります。それは本の売り上げだけでなく、日本で講演をしたときの経験からも明らかです。特に思い出されるのは、大きな講堂を埋め尽くす聴衆を前に行った講演です。彼らが注意深く集中して耳を傾けているのには心を打たれました。最前列に座っている年配の紳士が私をじっと見つめながら、分かる分かるというように、そっとうなずいていた姿は今でも忘れられません。そのとき、私はオイゲン・ヘリゲルが書いた『新訳 弓と禅』(角川ソフィア文庫)――日本で師から弓を学んだ著者の経験に基づいた本――との類似性を指摘しながら、良いトレードでは力みがないはずだと主張していました。おそらく、『マーケットの魔術師』シリーズで良いトレードの要素と言われたもののなかには、禅に似た性質と重なり合うものがあるために、これらの本は日本の読者の心に強く響くのかもしれません。
三〇年以上前に書いた、最初の二冊の『マーケットの魔術師』を読んだことがある読者は、大成功を収めた本書のトレーダーたちが示した市場に対する洞察やトレードのアドバイスが、最初の二冊に登場した伝説的トレーダーたちのものと驚くほど似ていることが多いのに気づくでしょう。ここから重要な教訓が得られます。すなわち、市場とトレードには不変の真実がある、ということです。また、これらの著書が欧米の読者だけでなく日本の読者の共感をも呼んでいるということは、それらの真実が時を超えるだけでなく文化も超えるということを示しています。
監修者まえがき
本書は、ジャック・D・シュワッガーによる“Unknown Market Wizards : The Best Traders You’ve Never Heard of”の邦訳で、一連の『マーケットの魔術師』シリーズの五冊目にあたる。原書のタイトルにも表れているが、これまでの四作品と異なり本書のインタビューイーは機関投資家ではなく、全員が個人トレーダーである。これは彼らの取り組んだ対象が投資ではなくトレードであるということ、そして、そこでの成果が組織ではなく個人によってもたらされたという二つの意味で異彩を放つ。
投資が事業のキャッシュフロー生成力や成長性を客観的な分析によって測る経済的なゲームであるのに対し、トレードは内省を伴う行動科学上のゲームである。本文中からうかがえるように、彼らマーケットの魔術師の成功の影には、特異なメンタルモデルの存在がある。 一般の社会では所属組織の論理や都合に自分を完全に合わせることが求められる。しかし、トレードにおいては、金融市場の構造を理解し、そこに参加する売買主体の行動や心理を見極める必要はあるものの、それにどう対処し、行動するのかについては、他人が決めた規範に唯々諾々として従うのではなく、徹頭徹尾自分に合ったレジリエントな方法を自己の責任において主体的に選ばなければならない。これは日本の社会で一般に望ましいとされる行動様式やマインドセットとは対極にある。
本書が示す自由で創造性豊かなトレードの世界はまことに素晴らしい。それに比べると、伝統的な投資の世界のなんと窮屈で硬直的なことか。インターネットの出現やコンピューティングパワーの増大は、金融市場におけるエントロピーを増大させ、旧弊にとらわれて動けない機関投資家の多くを窮地に追い込んだが、一方でそれらのイノベーションと共存する柔軟性および他者から異端と呼ばれることをいとわない勇気を持つ個人トレーダーは未来を切り開く手段と機会を得ることになった。本書はそうした意欲ある個人のためのものである。
翻訳にあたっては以下の方々に心から感謝の意を表したい。山口雅裕氏は前著に引き続き、この貴重な書籍を丁寧に翻訳していただいた。そして阿部達郎氏にはいつもながらの手際の良い編集・校正を行っていただいた。また、本書が発行される機会を得たのは、後藤康徳氏をはじめパンローリング社の関係者一同と著者のジャック・シュワッガーの信頼関係に負うところが大きい。本書にはこれを反映して、この日本語版のみに著者本人に対するインタビューが収録されている。
二〇二一年五月
長岡半太郎
■エピローグ
古くさい冗談を書き直してみた。シナゴーグで出会う二人は何年も同じ議論を繰り返してきた。デイブは、市場は効率的なので、偶然でないかぎり市場に勝てる人はだれもいないと主張する。サムは、トレードの機会がある以上、市場のパフォーマンスを上回ることは可能だと主張する。何年にもわたる実りのない口論の末、ついに二人はどちらの主張が正しいか、ラビに決めてもらうことにした。
彼らはラビにこの言い争いを解決してほしいからと説明して、会ってもらう約束をした。彼らがラビの家に着くと、ラビはオフィスで一人ずつ話しましょう、と言った。まず、デイブがラビのオフィスに入った。
ラビは、「妻がいることを気にしないでください。私の代わりにメモを取るためにいるだけです」と言った。
デイブは「問題ありません」と言い、自分の主張について説明をし始めた。「私は市場が効率的だと信じています。これは何千もの学術論文に裏付けられた主張です。それに、これは単なる理論的な主張ではありません。実証研究でも、投資のタイミングを決める個人投資家は指数連動型の投資信託よりも成績が大きく下回ると繰り返し示されています。プロの資産運用者でさえ、平均では一貫して市場平均よりも成績が悪いという結果が出ています。これらすべての証拠に照らせば、トレードは愚か者がするゲームです。人々はインデックスファンドを買うだけにしておいたほうが、はるかに良い結果が得られるでしょう」
熱心に耳を傾けていたラビは「あなたは正しいです」とだけ言った。
デイブは誇らしげにほほえみ、会話の結果に満足してオフィスを去った。
次に、サムがオフィスに入った。同じ説明を受けたあと、彼は自分の主張をした。彼は、効率的市場仮説の無数の欠陥について、長い説明から始めた(効率的市場仮説の欠陥についての議論は長くなりすぎるので、ここではできない。興味のある読者は、私の著書『シュワッガーのマーケット教室』[パンローリング]の第2章を参照してほしい)。次に、彼は言った。「あなたは私がトレードで生活費を稼いでいることをご存じです。私は素敵な家を持っています。家族には大事にされています。私がシナゴーグに毎年気前良くしている寄付は、私がトレードで得た利益から出しているのです。明らかに、トレードでかなりの利益を得ることは完全に可能です」
細心の注意を払って聞いていたラビは「あなたは正しいです」と答えた。
サムは満足げにほほえんで、オフィスを出た。
ラビと妻だけになると、妻が彼のほうを向いて、「ねえ、あなたが賢いことは分かっていますが、二人とも正しいということはないのでは」と尋ねた。
「君の言うことはもっともだ」とラビは答えた。
しかし、ラビの妻は間違っている。デイブとサムの主張は状況が異なるために、どちらも正しいのだ。トレーダー(あるいは投資家)の世界は二つのグループに分けることができる。エッジ(優位性)がある手法を持っている人々と、それを持っていない人々だ。エッジを持っていないグループのほうがエッジを持っているグループよりもはるかに大きい。トレードや投資に特別なスキルがない市場参加者(ほとんどの人が含まれるグループ)は、自分で相場の判断をするよりも、指数連動型の投資信託に投資するほうが、良い結果が得られるだろう。そのため、皮肉なことに、私は効率的市場仮説が妥当だとは思っていないが、ほとんどの人はこの理論が完全に正しいかのように行動するのが最も良いと思う。だから、株価指数への投資を支持する。これが、デイブの主張が正しいときの状況だ。
しかし、難しいことと不可能なことはまったく別の話だ。本書に登場したトレーダーたちが長期(通常は一〇年以上)にわたって市場のベンチマークを大きく上回っている事実を、単なる「運」で説明することはできない。これが、サムの主張が正しいときの状況だ。
トレードで成功する可能性について、本書で伝えることが一つあるとすれば、それはこうだ。成功は可能だ! しかし、これはほとんどの人にとって実現できる目標ではない。トレードで成功するには、勤勉さと生まれつき持っている能力と有利な心理的特徴(忍耐力や規律など)が必要になる。エッジがあると実証できる手法を考案して、それを厳格なリスク管理と組み合わせることができる少数の市場参加者ならば、トレードで成功することは挑戦的ではあっても、達成できる目標である。
■第3部 日本語版ボーナスチャプター
第12章 ジャック・シュワッガー Jack Schwager
(シュワッガー氏にした質問の抜粋)
インタビューしたなかで人として最も楽しかったウィザードはだれですか?
インタビューしたなかで、右以外で最も印象深かった(いい意味でも、悪い意味でも)ウィザードはだれですか?
ぜひともインタビューをしたかったのに、断られたトレーダーは?
もし今も生きていたら、インタビューしたいトレーダーや投資家はいますか?
『マーケットの魔術師』シリーズ全体で、シュワッガーさんの「余裕資金(へそくり、損をしてもいい資金)」を預けるとしたら、どのウィザードに預けますか?
『マーケットの魔術師』シリーズ全体で、シュワッガーさんにとって「絶対に失ってはならない資金」を預けるとしたら、どのウィザードに預けますか?
最近ではヘッジファンドが隆盛を極めていますが、『マーケットの魔術師』シリーズで取り上げられたような、個人トレーダーで伝説的なトレーダーになれる時代は過ぎ去ったのでしょうか?
もう裁量トレードは死にましたか? 個人のホームトレーダーでもそういう時代は終わったのでしょうか?
トレーダーは常に自分の心(心理や精神)と戦っています。恐れ、焦り、欲、過剰レバレッジ、規律の欠如、忍耐力などなど。その戦いに人間はもう勝てないので、コンピューターやAIに頼らざるを得ないでしょうか?
成功するトレーダーとなかなか成功しないトレーダーの違いは何でしょうか? 性格なのか、自分の性格を正確に把握していないせいなのか、そもそも向いていないのか(ジョーダンはバスケットをするべきで、野球には向いていなかった)、その他の要因なのでしょうか?
マーケットの魔術師のなかには、自分自身の過去の失敗について率直に語ってくれる人も少なくありません。このように自分の犯した間違いについて素直に認め、第三者に開示するということは欧米の文化のなかでは勇気のいることではないかと推察します。彼らのこうした謙虚さや知的誠実さは、彼らを成功に導くドライバーの一つになったと考えられるでしょうか? それとも、結果的に彼らは成功したから、そうして過去を振り返る余裕ができただけなのでしょうか?
一九二九年の大恐慌やブラックマンデーやリーマンショックなどいろんなブラックスワンがありましたが、今回のコロナは、どれに相当すると思いますか? マーケットは急回復していますが、これはそもそも「ブラックスワン」だったのか、マーケットが初めて経験するようなものだったのでしょうか?
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