高勝率トレード学入門|FX中級者向け書籍
トレード戦略見直しの参考資料としておすすめ
この書籍は長年のトレード経験を活かし、現在は独立したトレーダーとして取引を行う傍ら、コンサルティングやセミナーも行うマーセル・リンク氏により執筆された書籍です。
トレード戦略をしっかりと考え、取引を行う前の準備、仕掛け、その後のポジションの点検、管理、手仕舞い、資金管理等をしっかりと行うことで、ギャンブル的な要素を減らすことができ、安定的な収益が近づくというのはいうまでもありません。
本書では、具体的な事例を挙げながら、どのように準備を進め、トレードを実行していくかを紹介しているので、初心者の方でも比較的イメージが湧きやすいと思います。
現在、トレードで安定した収益を出せていないという方は、ご自身の環境に置き換えて読みながら、トレード戦略を見直してみると、トレード成績改善のヒントが見つかるかもしれません。
本ホームページに掲載されている事項は、投資判断の参考となる情報の提供を目的としたものであり、投資の勧誘を目的としたものではありません。投資方針、投資タイミング等は、ご自身の責任において判断してください。本サービスの情報に基づいて行った取引のいかなる損失についても、当社は一切の責を負いかねますのでご了承ください。また、当社は、当該情報の正確性および完全性を保証または約束するものでなく、今後、予告なしに内容を変更または廃止する場合があります。なお、当該情報の欠落・誤謬等につきましてもその責を負いかねますのでご了承ください。
目次
監修者まえがき
謝辞
はじめに
第1章 だれにも計画が必要
すっぽ抜けカーブ
悪いトレーダーの例
計画を練り上げた良いトレーダーの例
トレードプランとゲームプラン
本書に関する注意事項
第2章 トレードプラン
トレードプランとは
単純なトレードプラン
なぜトレードプランが必要か?
トレーダーのビジネスプラン
トレードプランの作成
トレードプランの詳細
まとめ
第3章 ゲームプラン
万全の準備
ゲームプランの必要性
ゲームプランの基本
自分自身を知る
シナリオの作成
計画の活用
まとめ
第4章 自分自身を知る
さまざまなタイプのトレーダー
自分の本質を見極める
自分のスタイルを知るのが大事
市場に対する2つの見方
まとめ
第5章 トレード戦略
トレード戦略
自分のスタイルに合った戦略
テクニカル戦略
システムの構築
意固地にならないこと
戦略が必要な理由
戦略の中身
仕掛け
手仕舞い
時間枠と保有期間
自分のトレード戦略を堅持
まとめ
第6章 市場に精通する
市場の多様性
トレード対象に精通する
真のリスクとは?
時間枠とチャート利用
だれが市場を動かすか
相関を知る
大局の把握
まとめ
第7章 大引け後
見直しの大切さ
保有中のポジション
明日について考える
完了取引
明日の準備
計画と戦略の見直し
まとめ
第8章 市場が開く前に
トレーダーの独自性
材料の入手
市場に精通する
海外市場に注目
市場の寄り付き
調整の実行
一晩のうちに大きな動きがあったか
有望なトレードの可能性を探る
シナリオの作成
サイズの調整
当日のゲームプランの作成
まとめ
第9章 シナリオの作成
市場に精通する――再説
大局の把握
シナリオの精密化
取引終了時
再び保有中のポジションの監視について
ポジションの構築後
デイトレーダー
材料に関するシナリオ作成
保有中のポジションがある場合に考慮すべき一般的事項
まとめ
第10章 トレードからギャンブル要素をなくす
優秀なトレーダーも損することがある
トレードの2つの部分
同じ市場での2つの異なった見方
買いの仕掛け――2008年1月7日
売りの仕掛け
適切な機会を待つ
リスク・リワード・レシオの測定
確率を有利にする方法
まとめ
第11章 仕掛け
機会の発見
トレードの計画
仕掛けのシナリオの作成
市場を後追いするのは危険
トレードのタイミング
長期的パターンの確認
リスクを知る
トレードの規模の判断
まとめ
第12章 手仕舞い
手仕舞い戦略をあらかじめ確立する
損失を限定して利益を伸ばす
ゲームプランにおけるストップの使用
リスクの計画
セットアップ
ギャップのトレード
別のトレード
大荒れの日
目標の計画
手仕舞いの方法
中間領域
まとめ
第13章 点検と管理
トレードの仕掛け後
翌日に向けて
トレードの点検
日記を付ける
まとめ
第14章 過剰トレードの防止
計画が必要な理由
いつもポジションを保有している必要はない
過大なポジションをとらない
過剰なポジションをトレードしているときのゲームプランの効用
リスク管理の限度を守る
まとめ
第15章 資金管理
リスクを軽視してはならない
もうひとつのギャンブルの例え話
資金管理の基本
トレードプランへの資金管理計画の組み入れ
ゲームへの資金管理計画の組み入れ
保有中のポジションのための資金管理手順の確立
まとめ
第16章 トレードルール
トレードルール
ルールに基づくトレードプランの実行
私のトレードルール
資金管理ルールの適用
仕掛けのルールの適用
手仕舞いのルールの適用
規律の適用
よく使われる25のルール
まとめ
第17章 集中と規律
トレードへの集中の維持
注意散漫
ゲームプランの作成を容易にする日課の確立
プランの順守
集中の維持が難しいときにそれを可能にする方法
規律の精神面
自分を注視する
取引終了後のリラックス
まとめ
第18章 勝つ方法を学ぶ
クローゼットを大掃除する
損失を他人のせいにしない
損失ではなく経費と考える
自己破壊的な行動
失敗から学ぶ
トレード、トレード、トレード
感情を抑える
損失は過去の話
トレードの選択よりも資金管理が大事
自分にごほうび
貴重な資金を保全する
撤退水準を決めておく
早めに飛び込んだり、遅すぎる仕掛け
大きな勝ちトレードを負けに変えない
ルールのリストを作る
自分のスタイルでトレードする
実証済みの戦略を使う
チップはバーテンにやるもの
トレード対象についてできるだけ詳しく知る
学び続ける
本から学ぶ
計画に従ってトレードする
自分の考えを書く
最後のまとめ
監修者まえがき
本書はマーセル・リンクの著した“Trading without Gambling”の邦訳である。リンクの著書としてはすでに『高勝率トレード学のススメ』(パンローリング)があり、日本の読者にも好評を得ているので、この7年ぶりの訳書を楽しみにしていた方も多いと思う。その期待に違わず、本書は前作と同じく誠実で愉快な教科書であると共に、さらに充実した内容となっている。
ところで、本書は広義のシステムトレードを扱っているが、一般にシステムトレード戦略とは何だろう? 一部で喧伝されているような「恣意性を介在させないメカニカルなトレード手法」のことだろうか? いや、まったくそうではない。本書にもあるように、トレードに感情や裁量を交えてトレードを行ったとしても、そのシステム(系)がいくつかの要素で構成され、入力が出力に対して(あるいは互いに)影響を及ぼすような関係になっていれば、それはトレードシステムである。
そして、さらに重要なことは、システムトレード戦略においては、「システムを使ってトレードする」前の段階として、「マーケットをシステムとして把握する」ことが求められる。すなわち、はじめにマーケットの構造をモデルに落とすプロセスが不可欠なのである。つまり、システムトレード戦略のプラットフォームは2つの「システム」を結ぶことで成り立っていることになる。
さて、次の段階で、マーケット「システム」を最も巧みに利することができるトレード「システム」を構築していくわけだが、ここでの要点は、注目すべき対象は必ずしも値動きとは限らないということだ。実際、何らかの形で未来の価格を予測するよりも、取引制度・慣行、決済のフロー、関係法令、税制、金融商品のスキーム、時差、認知バイアス……といった、価格変化とは直接関係のない市場のいびつさを利用するほうが、より安定的で確実な利益を期待することができる。少なくとも私の知るかぎり、長期的に財を成したほとんどの個人投資家はマーケットに存在するシステミックな欠陥を突いて楽をしながら成功したのである。
すなわち、システムトレード戦略の核心は、システマティックなトレードプロセスにあるのではなくて、マーケットに対するシステム論的観察眼や、情報・データの処理・分析とマイニングの巧拙にあるのである。そして、そのかぎりにおいて、本当のところテクニカル分析などの指標の選択などどうでもよいし、勝負は実はトレードを始める前から決まっているのである。リンクが本書においてマーケットダイナミクスの分野の解説を減らし、それに代わって、第6章にあるように市場の構造や背景を理解することの大切さを強調しているのは、極めて自然な流れなのである。
翻訳にあたっては以下の方々に心から感謝の意を表したい。翻訳者の鈴木敏昭氏は分かりやすい翻訳を、そして阿部達郎氏は丁寧な編集・校正を行っていただいた。また本書が発行される機会を得たのはパンローリング社社長の後藤康徳氏のおかげである。
2013年3月
長尾慎太郎
はじめに
私は今もう1冊の本を書こうとしている。最初の著書『高勝率トレード学のススメ』(パンローリング)が思わぬ大当たりとなったあと、次の本を期待する声をたくさん寄せていただいた。そこで本書に取りかかった。もし最初の本を読んでいただいていないとすれば、今すぐにでも買いに走っていただけたら幸いだ。
いずれにせよ、『高勝率トレード学のススメ』は成功に至る方法と罠を避ける方法を示すことによって、トレーダーが実際に進歩するための段階をたどっていけるように書かれている。扱ったトレーディングの分野は、トレードの仕掛けと手仕舞い、資金管理、システムの作成とバックテスト、トレーダーが持つさまざまな個人的欠点の克服など多方面にわたっている。
ギャンブル要素のないトレーディング
読者が最初の著書からすべてを吸収し、それをフィルターにかけて余分なものを取り除いたとすれば、すべての精髄としてひとつの基本概念が残る。もちろんそれは、トレードに使うトレードプランとゲームプランを作成して、それに従うことの重要性だ。このことはトレードで成功するための鍵であると考えられる。本書ではこの考え方を取り上げ、さらに詳しく述べる。
トレードをギャンブルとみなしている人は多い。たしかにリスクはある。だが堅実なゲームプランと規律を備え、万全の準備を整えたトレーダーは、プロのギャンブラーと同様、ギャンブル要素のないトレードができるようになる。
本書では私のトレードの例を示し、テクニカル分析について説明している。しかし、本書の主題は市場の底値を拾う方法を提示したり、立派なトレードシステムを提供することではない。むしろトレーダーとして進歩するための方法に焦点を絞っている。市場で勝つ秘訣は、計画を立て、一定の状況に対する対処法を前もって決めておくことだ。これこそゲームプランでなすべきことだ。トレードでは単純に売買を繰り返すのではなく、いつ、どんな理由で、売買するかを知ることが重要だ。
私の長年の経験によれば、市場では利益を上げ損失を被るのにさまざまな道筋がある。最初の著書の読者なら、私がとても実際的な観点で市場をとらえていること、また私の書き方が話す口調に近いことをご存じだろう。「スタンダード・アンド・プアーズ500指数先物」を売買するなどという言い方はせず、ずばり「S&P」と言う。本書でも同じ調子で進める。物知り顔の高慢な講師ではなく、友だちのような指導者として話しかけるように書く。私は自分がトレーディングの聖なる秘訣を知っているとか、最高のトレーダーであると信じてもらうつもりはない。トレード経験は20年になるが、私自身さまざまな過ちを犯してきた。だが、そこからたくさんの教訓を学び取った。本書で伝えたいのはこうした学びのプロセスなのだ。今日、ハワイのトレーダーから電話がかかってきて「大学院の2年間で学んだ以上のことを『高勝率トレード学のススメ』の著書から教えてもらった」と言われた。実を言えば、トレーダーとしての進歩に役立ったことを感謝するeメールや電話をここ数年たくさんいただいている。最初の著書の編集者が言ったとおり、たいていの著者はお金のために本を書いているのではない。こうしたうれしいことがあるからこそ、執筆が報われるのだ。
本書を通じて、私が執筆している日のトレードやポジションの例が示されている。最近取引しているのはだいたいオンラインのダウ・ジョーンズ先物、EミニS&P(本書ではたいてい単にS&Pという)、一部の原油商品、数銘柄の株式に限られる。だからたぶんこれらの例を使うことになろう。私は論点の説明のために何週間もかけて教科書的な完全な「ヘッド・アンド・ショルダーズ」パターンを探したが、5年ほど前からそうしたチャートパターンは現れていない。代わりに本書では執筆している日のパターンを使う。これから私が長年の間に犯してきた失敗について話すことになるだろうが、私と同じようにそこから学んでいただければ多くの知識が得られると思う。失敗を犯しそこから学ぶことは、考えられる最も強力なツールだ。たいていの場合、成功したトレードは当然とみなされ、成功した理由が理解されることはない。だから勝ちトレードよりも負けトレードから学ぶことのほうが多い。『高勝率トレード学のススメ』について次のような好意的な評価をたくさんいただいた。「最初にトレードを始める前にこの本を読んでいたら大損しないですんだ」「リンクさんはこの本を書いたとき、まるで私の心を読んでいたようです。自分の間違いをよく理解できるようになりました」などなど。 本書の執筆に取りかかったとき、トレードについて700ページもの大著を書く必要がないことは分かっていた。実のところトレードプランとゲームプランの作成について述べるべきことはそれほど多くない。だから本書では、プランを用いてトレーダーとしての腕を磨く方法について要領を得た簡潔な説明を行う。無駄な情報の洪水にならないよう最善を尽くすつもりだ。ユーモアの味をつけ、面白そうな事実を随所で紹介する。かえって読者のイラ立ちの種にならないことを願う。本書の目的はただひとつ。読者のトレードプランと関係するすべてのテーマを説明することだ。ストップ(損切りや仕切りの逆指値)や規律、リスク、仕掛けなどを取り上げるのも、トレードプランやゲームプランと関係づけるためだ。
本書ではトレードプランとゲームプランのどちらにも触れているが、重点は基本的なトレードプランの作成よりもゲームプランの活用にある。最初の数章でお分かりいただけるだろう。
ゲームプランとは何かという詳しい説明から始めることができたかもしれない。だが、そうしていたら最初の数章はあまり生き生きとした内容にならなかったと思う。次のようなゲームプランの基本的なメリットを挙げておくだけで十分だ。
●必ずトレードスタイルを選択することになる。
●市場の研究が進む。
●最適トレードの選択に役立つ。
●市場で起きる出来事への準備が整う。
●トレードの監視と手仕舞いに役立つ。
●過剰トレードがなくなる。
●資金をきちんと管理できる。
●集中力を保てる。
●トレードからギャンブル要素を除ける。
そして、トレーダーとして進歩できる。
第1章 だれにも計画が必要
純真で熱意にあふれた新人トレーダーが、成功して金持ちになったベテラントレーダーにこう尋ねた。「どうすれば株で100万ドル儲けるという目標を達成できるでしょうか」。ベテラントレーダーは困った様子でちょっと考えたのちこう答えた。「200万ドルの資金で始めるのさ」
私はこの第1章、つまりこの本をどう始めたらよいかいろいろ悩んでいた。そんな折、先週車を運転していたらラジオからニューヨーク・メッツの中継が聞こえてきた。雨で試合が中断しており、アナウンサーのスティーブ・ソーマーズは3回もサイ・ヤング賞を受賞したペドロ・マルチネスの話をしていた。野球に詳しくない人のために言えば、マルチネスは3回も年間最優秀投手になったのだ。ソーマーズはマルチネスがどんなに素晴らしい投手かを示そうとして、ゲーム中バッターに合わせて投球を変えられただけでなく、負傷の状態や年齢に応じて投法を変えてきたと語った。マルチネスはさまざまなゲームプランをいっぱい持っており、ゲーム中にプランを簡単に取り替えられる。何が有効で何が有効でないかを見分ける能力があるからこそ、球界で一、二を争う投手になっているのだ。
すっぽ抜けカーブ
「この例えは言いたいことにぴったりだ」と私は思った。だからここで使わせてもらうことにする。ペドロ・マルチネスには主要な計画がある(トレーダーのトレードプランに相当するものだ)。それは勝つために可能なあらゆることをするということだ。たとえば投球術をマスターし、敵を知り、適量の食事や休息、運動によって健康を保つことだ。彼は懸命にいろいろな球種に磨きをかけ、コントロールの精度を上げ、さまざまな角度やスピードで投げる力をつけてきた。これらはすべて登板の時点で出来上がっている。主要な計画(トレードプラン)のなかには、疲れてきたときいつ降板するかを知っておくことも含まれる。主要な計画は頻繁に変更されることはない。だが、きちんと機能しているか、どんな点を直すかを確かめるためにたえず見直しを行う。たとえば近年、よく使う速球としてカットファストボールを新たに加えた。スピードが140キロ台後半から前半に落ちたが、いざとなれば身体を後ろに反らせて投げればよい。このことで今なおスピードを増せる。マルチネスはいったん主要な計画に満足すると次の見直しまでほとんど変えない。
しかし一つひとつの試合や状況に応じて何かしら新しいことが必要になる。そのためマルチネスは場合に応じて異なるゲームプランを使う。その一環として、相手方のバッターを研究して効果的な攻め方を見つけだす。登板する試合の全体的なゲームプランのほか、各バッターに対する柔軟なプランも立てておく。速球で三振を取ることだけに頼ってはいない。どんなときに腕を休めて、ゴロでしとめるのが良いかも心得ている。ゲームプランの一例として、カーブの調子が良いときはそれを続けるということがある。バリー・ボンズに投げるときはカーブ攻めにする。別のバッターがカーブを待っていないときは、インサイドのストライクゾーンにカーブを投げる。カウントがノーボール・ツーストライクのときはチェンジアップかカーブを投げる。ただし、相手がジーターでそれを待っているときは裏をかく。内角高めの速球が決まらないときは外角低めに変える。最近、外角のカーブをよく打たれるバッターには内角を突く。調子が出ないときは原因を考えて修正する。頭の中のこうした作業の多くは投球の途中ではなくイニングの間にコーチと相談しながら行う。投球中は感情に左右されがちだからだ。
ここ数年、ケガや年齢のせいで速球に衰えを感じるため、マルチネスはこのところコントロールやゲーム中の調整能力に頼るようになっている。この調整能力があるからこそずば抜けた投手でいられるのだ。これと同じように、トレーダーもたえずゲームプランを見直し、ポジションを調整する必要がある。最高の投手が調整を怠らないのに比べ、へぼピッチャーはすっぽ抜けカーブを投げ続け、調整がどうしても身につかない。だから結局マイナーリーグに落とされ、2年後にはとうとう中古のマイカーを手放すはめになる。
今までの説明にちんぷんかんぷんな読者がいたら謝っておきたい。フランス人のなかには、「『すっぽ抜けカーブ』とはいったい何、おかしなアメリカ人はおかしなゲームをしている。今ではサッカーこそゲームの王様なのに」という人がいるに違いない。
急いで説明しておきたい。すっぽ抜けカーブとはよくホームランを打たれる失投を指す。カーブは速球よりもスピードが遅く、バッターから離れる方向に曲がるため、本来は打ちにくい球だ。ところがすっぽ抜けカーブは曲がらない。目の前にぶら下がったでかいグレープフルーツのように簡単に打てる球なのだ。しょっちゅうこんなカーブを投げる投手はプロとして長続きしない。
悪いトレーダーの例
では、今までの話はトレードとどう関係しているのか。一例として、トレード能力に難のあるジョンが2日前に原油を買い、現時点で2ドル値上がりしているとする。ロングにしたのは、テレビでみんなが原油が大幅に上げるとはやし立てているからだ。彼自身、先週ガソリンスタンドで1ガロン当たり3ドルも払ったばかりだ。仕掛けから2日たった今朝、価格は20セント安で寄り付き、その後やや下落した。彼は最悪の結果が心配になり、成り行きで売った。だが大引けは1ドル高。しかもその後数日間、ほとんど下げずにさらに4ドル上げた。ジョンは買い戻すどころか空売りを仕掛けてしまった。少し下げたときに買い戻せばよいと考えたためだった。結局、週の終わりには4000ドルの利益があったはずのトレードが4000ドルの損失に変わっていた。
どうしてこんな結末になったかと言えば、ジョンがこのトレードのプランを持っていなかったためだ。仕掛けたあとどうすべきかのゲームプランも用意していなかった。予習を怠けたのでうまく対応できず感情に振り回され、まずい球を投げたあと不用意に失投を重ねてしまった。仕掛けた理由もよく考えたものではなかった。高いガソリン価格を払わされたというだけでは、急いで原油を買う理由としてはいかにも弱い。仕掛ける前にトレードについて十分考える必要があるのだ。さらに仕掛けたあとも何を得たいのかはっきりしなかった。こんなやり方ではトレードで儲けることはおぼつかない。衝動に任せたトレードではほとんど先へ進めない。トレーダーとして成功したかったら、必ずトレードの計画を立てなければならない。
計画を練り上げた良いトレーダーの例
一方、上手なトレーダーは仕掛ける前に状況をしっかり分析する。原油のチャートを見て、買われ過ぎになっていないか、どれほどのリスクがあるか、トレードでどんな成果が期待できるかなどを検討する。自分の基準が満たされ、仕掛けることを決めたら、エントリーのタイミングを測るはずだ。買うと決めたら仕掛ける前に手仕舞いの戦略を考えておくだろう。仕掛けたあとは定期的にトレードの評価を行うだろう。
上手なトレーダーは基本的に攻撃の計画と防御の戦略のどちらも持っている。もっと正確に言えば、トレードの開始から完了までのゲームプランを用意している。
図1.1を使って、以上のようなシナリオがどんなふうに展開するかを説明しよう。
このところガソリン価格が記録的な高値を付けており、原油がよくニュースで取り上げられる。相場は、上昇基調のなかで短期間揉み合ったあとさらに高値に進みそうな気配だ。賢明なトレーダーはよく報道されるというだけで仕掛けることはないが、腕の良いトレーダーのハリーがAの日にチャートを見て2本のトレンドラインを引き、こう考えたとする。「たしかに状況は有望なようだ。私の基準(トレードプラン)は全部満たされている。今は長期的な上昇トレンドのなかにある(このチャートでは全体をつかみにくいが、トレンドラインAが上昇基調を表している)。価格はかなりトレンドラインに近い。これまで短期の保ち合い圏をブレイクして70ドルを付けたあと、やや下げたが、ちょうど今もう一度上限を超えたところだ。水準は史上最高値に近い。価格が上放れする可能性を考えると、トレンドラインBが示すリスクは許容できる。ストップ(損切りの逆指値)をトレンドラインのすぐ下に設定して、約2ポイントのリスクをとるのがよいだろう。ストキャスティックスは高いがまだ交差していない。この上昇トレンドラインは強気のシグナルだ。ストキャスティックスが買われ過ぎの領域を割り込んだら、市場がトレンドラインを下にブレイクすることになる。そこで手仕舞おう」
こんなふうにハリーは、自分のトレードスタイルとトレードプランで定めた基準を満たしたトレードに着手した。加えて何をなすべきかというゲームプランも立てた。2日後のBの時点でもジョンのように動揺することはなく、さらに1週間持ち続けた。そしてトレンドラインCがブレイクされ、ストキャスティックスが買われ過ぎの領域を下に突き抜けたCの時点で売却した。トレンドラインを引くのが得意なハリーは、市場が急激に動いているため角度を調節してトレンドラインCを描いたのだ。肝のすわらないジョンが4000ドル損したのと同じトレードで、ゲームプランを持っていたハリーは最終的に約4000ドルを稼いだ。
ちなみに私は今本書を校正している。上記の部分は1年以上前に書いたものだ。原油価格はその後1バレル当たり135ドルを付けた。私は70ドルが買われ過ぎと考えていたので、空売りを仕掛けなくて幸いだった。ところでペドロ・マルチネスはぱっとしなかった。その後ふくらはぎの筋肉を痛めただけでなく、肩の筋肉に裂傷を負った。昨年はほとんど故障者リストに乗りっぱなしだった。今年は最初かあら腿の筋肉がおかしかった。さっき言った健康維持の理論はこんな結果になっている。物事がどんなに変わりやすいかを示すものだ。
トレードプランとゲームプラン
本書の目的はどんなふうにトレードからギャンブル要素を減らすかを示すことにある。トレードをギャンブルとしか見ない人が多い。実際たいていのトレーダーがギャンブルにしている。だが毎年・毎月続けてトレードで利益を上げるトレーダーも少なくない。彼らはトレードからギャンブルを切り離す方法を学び取ったのだ。成果を見ればそれが可能だと分かる。私は、必要な努力をする覚悟があればだれでもそれができると考える。そうした努力は計画的なトレードによって実を結ぶと思う。多分十分練り上げられた適切な計画以上に素晴らしいツールは存在しないはずだ。
計画にはトレードプランとゲームプランの2種類がある。この2つにはつながりがあり、互いに依拠して機能するが、あくまで別物だ。トレードプランが良くてもゲームプランがなければうまくいかない。ペドロが世界最高の速球とカーブを持ちながら、いつ、どんな相手にそれを投げるべきかを知らないようなものだ。他方、トレードプランがなければあまり強力なゲームプランは実行できない。ペドロが苦しい状況でナックルが投げられず、今さらながら投げ方を覚えなかったことを悔やむようなものだ。その2つのプランを連携させられたら、たくさんの試合で勝利し最高の投手になれる。実際ペドロはそうなった。
これはトレーダーにも当てはまる。2つの計画を持つべき主な理由は、どんなときも賢明なトレードの決定を下せること、トレードの手仕舞いに役立つこと、そしてトレードに先立って、どんなリスクを負い、どこまで利益を追求するかを明瞭にしておけることだ。計画の助けがなければ最初から不利な立場に立たされる。指針となる適切な計画がある場合に比べ、行き当たりばったりのトレードでは成功のチャンスはうんと小さい。本書全体を通して、トレーダーの進歩にとってトレードプランとゲームプランがどれほど重要かを示す。私自身、そうした計画があるときもないときもトレードしたことがある。断言できるが、適切な計画に基づく指針があるときのほうがはるかに良い成果を出せる。
私の最初の本『高勝率トレード学のススメ』を読んだ方は、計画を立てることがトップトレーダーになるための必須の要素だと私が強調していることをご存じだろう。その本では、トレードプランとゲームプランの説明のために1章を充てている。本書の着想はまさにその箇所から得たものだ。
トレードプラン
まず最初にトレードプランを立てる。これは個々のトレーダーが従うべき広範囲のトレード戦略だ。そのプランにはトレーダーのトレードスタイル、トレード戦略、リスク回避度が反映されている必要がある。トレードプランは固定的なシステムである必要はない。「上昇トレンドの押し目で買い、1回のトレードで資金の5%以上のリスクはとらない」など経験上うまくいった戦略で構わない。トレードプランはトレーダーのシステムや資金管理計画が含まれているため日々大きく変わることはない。また定期的に見直す必要もなく、普通は全体的に同じものを使い続ける。本書はトレードプランの作成方法の説明を目的とはしていないが、次の第2章でその基本事項について触れておく。
ゲームプラン
トレードプランが出来上がったら次は日々市場で仕掛けるための計画が必要となる。それがゲームプランだ。その内容は市場状況の変化に応じて絶え間なく変わる。市場では常に何かしら新しい局面が現れる。用意万端整ったトレーダーはもう対応策ができており、そうした変化から利益を上げられる。たとえば、ストップの移動や失業率の発表後の動きがもう決めてあり、市場がトレンドラインに到達するのを待って仕掛ける構えをとっている。ゲームプランのなかには、トレード機会の発見、タイミング、仕掛ける規模や手仕舞いの時期、リスクの調整方法の決定などが含まれる。トレーダーは市場の変動に応じてゲームプランを変更できるようにするために、定期的にポジションを見直し、新たなシナリオを考え出す必要がある。本書は、どのようにゲームプランを活用して利益を上げるかということに最大の重点を置いている。ゲームプランの作成と活用の方法を身につければ、ギャンブル要素のほとんどないトレーダーになれる。
本書に関する注意事項
先に進む前にお断りしておきたいことがある。それは、本書の説明は私個人の考え方にすぎず、トレードプランやゲームプランの普遍的な真理や理想として受け取ってはならないということだ。読者は本書をもとにさらに発展させる必要がある。この書は無精なトレーダーには向いていない。手軽に金持ちになれる戦略や100万ドル稼ぐためのシステムは書かれていない。本書を読めばもっと優秀で機敏なトレーダーになれるが、そのためにはトレード方法を改善しなければならない。読者は本書を読み終わった段階で、正しい方向に導いてくれるいくつかのツールを自分の武器に加えていることだろう。この書を買って読んでいる以上、読者はトレードの腕を磨こうとしているはずだ。それが出発点になる。もしあなたが本屋でこの書を手にとっているとすれば思い切って買ってほしい。どちらにしても読者のお役に立てるだろう。
本ホームページに掲載されている事項は、投資判断の参考となる情報の提供を目的としたものであり、投資の勧誘を目的としたものではありません。投資方針、投資タイミング等は、ご自身の責任において判断してください。本サービスの情報に基づいて行った取引のいかなる損失についても、当社は一切の責を負いかねますのでご了承ください。また、当社は、当該情報の正確性および完全性を保証または約束するものでなく、今後、予告なしに内容を変更または廃止する場合があります。なお、当該情報の欠落・誤謬等につきましてもその責を負いかねますのでご了承ください。