出来高・価格分析の実践チャート入門|FX中級者向け書籍
出来高と価格を元に分析
この書籍は、アナ・クーリングによる「出来高価格分析の完全ガイド」の続編で、実践版のような位置づけのもので、実際の事例を元に詳しく解説されています。
「市場は大口投資家によって操作されている」という前提で、価格の動きと出来高を用いて大口投資家がどのような行動をとっているかを推測する方法を紹介しています。
大口投資家がどのようなタイミングで「アキュミレーション(買い集め)」や「ディストリビューション(売り抜け)」を行っているかを探ることで、相場の転換点に気づきやすくなるかもしれません。
ちなみに、FX市場では出来高のデータがないため、ティック(価格の更新頻度)を代用して分析を行います。
本ホームページに掲載されている事項は、投資判断の参考となる情報の提供を目的としたものであり、投資の勧誘を目的としたものではありません。投資方針、投資タイミング等は、ご自身の責任において判断してください。本サービスの情報に基づいて行った取引のいかなる損失についても、当社は一切の責を負いかねますのでご了承ください。また、当社は、当該情報の正確性および完全性を保証または約束するものでなく、今後、予告なしに内容を変更または廃止する場合があります。なお、当該情報の欠落・誤謬等につきましてもその責を負いかねますのでご了承ください。
目次
監修者まえがき
アナ・クーリングによる序文
はじめに
セクション1――そのあと何が起こったか
2016年に個人トレーダーと投資家向けに行ったプレゼンテーションのなかで紹介した株式の週足チャートと、それを2017年の終わりまで示した月足チャートを見ていく。すべての銘柄はアメリカの主要な市場のなかから選んだものだ。
セクション2――株式の月足チャート
アメリカ市場の株式の月足チャートに焦点を当てる。
セクション3――その他の市場で、その後、何が起こったか
ここで紹介するチャートは2016年にロンドンで個人トレーダーと投資家向けに行ったプレゼンテーションからのもので、セクション1とセクション2とは違うコモディティ、株価指数、債券、通貨先物市場について見ていく。セクション1と同様、週足チャートと月足チャートを比較しながら見ていく。
セクション4――日足チャートでのトレード
株式に焦点を当てるが、ここでは日足チャートについて見ていく。
セクション5――投機市場
最後のこのセクションではコモディティ、債券、指数、通貨先物の日足チャートの例を見ていく。
おわりに
監修者まえがき
本書は、アナ・クーリングの著した“Stock Trading & Investing Using Volume Price Analysis : Over 200 Worked Examples”の邦訳である。クーリングの訳書としては、2014年に刊行された『出来高・価格分析の完全ガイド――100年以上不変の「市場の内側」をトレードに生かす』(パンローリング)がすでにあり、価格と出来高の関係を理解する解説書として好評を得ている。これから出来高を使った市場分析を始めようとする読者は、まずここから読み始められることをお勧めする。本書は前著の事例集といった位置づけにあり、205のチャートについて1つひとつ読み方が解説されている。
一般に市場価格の動きと出来高との関係は非線形であり、簡単なモデル式で記述することはできない。そして、すでに出来高の変化を市場の理解に役立てている実務者ですら、その知識は認知的暗黙知の形で頭の中にとどまっており、明示的かつ体系的にそれを示すことはかなり難しい。したがって、この分野を学ぼうとする者は、実際に数多くのパターンに接して帰納的にルールを学ぶしかない。本書はその学習を大いに助けることになるだろう。
さて、クーリングによる解説は前著に引き続き、「市場は大口投資家によって操作されている」という前提で行われている。それゆえ、時としてその主観的な理解による文章はエキセントリックな表現を伴うことになり、それが読み手に違和感を与えることがあるかもしれない。だが、出来高の解釈はもともと客観的な科学ではなく、それだけで市場の動きをすべて包括的にとらえられると思うのは早計である。これはあくまで市場で生き残るための智恵や手掛りの1つであり、優れたヒューリスティクスとして使うべきものだ(また、本書における術語の使い方もかなり曖昧なものだが、個人投資家の書き手にそのあたりの精緻さを求めるのは酷と言うものだ。大目に見るべきだろう)。
思えば、旧来のテクニカル分析のほとんどが、今世紀に入ってその欺瞞をあばかれ、消えていったなかにあって、本書にあるような価格の変化を出来高との関係に基づいて解釈する分析法はいまだにその命脈を保っている。これは、出来高の変化が市場参加者の行動を反映したものであり、したがってその分析が市場において一定の説明力を持つことから、投資やトレードにおいて実際のものの役に立ってきたからだ。金融市場における時系列方向の解析の有効性に懐疑的な読者の方におかれても、この分野は研究してみることを推奨する。
翻訳にあたっては以下の方々に心から感謝の意を表したい。翻訳者の山下恵美子氏は大変読みやすい翻訳を、そして阿部達郎氏は丁寧な編集・校正を行っていただいた。また本書が発行される機会を得たのはパンローリング社社長の後藤康徳氏のおかげである。
2020年6月
長岡半太郎
アナ・クーリングによる序文
出来高・価格分析の世界へようこそ。本書を堪能し、役立ったと思ってくれたら、私にとってそれほどうれしいことはない。本書を読む目的はいろいろあると思う。このアプローチに対する知識を補強することが目的の人もいれば、まったく新たな概念や手法として取り入れることが目的の人もいるだろう。
本書の目的は、長期の週足チャートや月足チャートから短期の日足チャートまでいろいろなチャートと、いろいろな市場やいろいろな時間枠の実例を使って、できるだけ多くの出来高・価格分析の概念を提供することにある。本書ではいかなる種類のインディケーターも使わずに、出来高と価格との関係に焦点を当てている。ご存知のように、出来高・価格分析には支持線、抵抗線、ローソク足、ローソク足パターンも含まれるが、本書では出来高と価格との関係そのものに焦点を当てて、各実例はシンプルな説明を心掛けた。
また、このアプローチが長期スイングトレーダーや長期トレンドトレーダー、さらには長期投資家にも同じように適用できることを示したかった。事実、セクション1の例はS&P500を構成する株式の週足チャートから取り上げている。各ページには1つのチャートを提示し、その下にキーポイントを説明している。チャートは市場ごとまた時間枠ごとにグループ分けしているが、出来高・価格分析の概念はどんな市場やどんな時間枠にも当てはまる。したがって、週足チャートでの試しやアキュミュレーション(買い集め)やディストリビューション(売り抜け)の例を示していたら、その同じ原理は異なる市場の5分足チャートや時間足チャートにも同じように当てはまるということになる。
これらの実例をじっくり学んでもらいたいが、もしこのアプローチのことをご存じない方は私の最初の本『出来高・価格分析の完全ガイド』(パンローリング)を読んでもらいたい。同書ではこれらの概念やアイデアを詳しく説明しているので、同書を読めば本書の実例をより深く理解できると思う。
本書ではマーケットメーカー、インサイダー、ビッグオペレーターという言葉を使っているが、これらはすべて同じ意味である。つまり、市場を操作することができるインサイダーグループの人々という意味である。
本書には主要なアメリカの指数からの実例を含んでいるが、さらなる実例については私の個人サイト(https://www.annacoulling.com/)から入手可能だ。私のサイトでは私が定期的にブログに書いている投資対象についての実例を見ることができる。株式市場は2009年から大きなブル相場にあったが、そのときS&P500は666の安値を付け、ダウ平均は7000ドルを試し、ナスダック100は1100水準を試していた。これらのチャートはFTSE100などのほかの指数同様、出来高・価格分析の典型的な例であり、「他人が恐れているときだけ貪欲になれ」というウォーレン・バフェットの有名な言葉を実証するものでもある。2007年から2008年にかけての金融危機のときはトレーダーも投資家も恐れおののいたが、2009年3月には典型的な出来高・価格分析シグナルが現れて新たなブル相場が始まった。ブル相場が始まったのは人々が悲観主義になり絶望を感じていた時期であり、このときに出来高・価格分析シグナルはチャート上にはっきりと現れた。
2009年以降の時期を、アナリストや評論家たちは「グレートショート」と呼んだ。株価指数が大幅に上昇し、もうじき天井を付けると彼らは思ったのである。しかし、私は彼らの意見には反対だった。私の考え方や分析についてはブログを参照してもらいたい。私が彼らの意見に反対だったのは、「ビッグショート」を保証するほどの出来高・価格分析シグナルは出ていなかったからである。しかし、ビッグショートの時代はやがては到来する。出来高・価格分析は金融危機のあとの回復を予兆したように、その到来も予兆するだろう。
本書ではすべての実例はそれぞれ1つのチャートに基づいているが、値動きと出来高分析を長期にわたって見るためには複数の時間枠で見てみることをお勧めする。
さらにこれらの市場の多く、特に株式市場では、さまざまなファンダメンタルズ的な要素だけでなく、主要な指数やセクターが長期的な方向性に影響を及ぼす。しかし、出来高・価格分析は長い時間枠でも短い時間枠でもメジャートレンドについてのヒントを与えてくれる。関係分析もまた重要な役割を果たし、関連市場における出来高・価格分析は市場の3次元的な見方を提供してくれる。
これはいくら強調してもしたりないくらいだが、出来高・価格分析に熟練するには、時間と努力と練習が必要だ。どういった市場でも練習には5分足チャートや15分足チャートといった短い時間枠のチャートを使うことをお勧めする。こうした時間枠のチャートを使うことでリアルタイムでの学習が可能になるだからだ。出来高・価格分析から得られる教訓は普遍的なもので、どんな市場にも適用することができる。本書にはいろいろな市場の実例が含まれているが、これはそのためだ。アマゾンのレビューを読めば、出来高・価格分析がいかにして多くのトレーダーや投資家たちの人生を変えたかが分かるはずだ。もがき苦しみ前に進めないでいた人々が、私の最初の本を読むことで彼らのトレードや投資に大改革がもたらされたのである。そしておそらくもっと重要なのは、これらのトレーダーや投資家は彼らが今使っているアプローチにこのアプローチを加えただけだということである。このアプローチを加えることでインサイダーの視点から市場を見ることができるようになり、それによって自信を高め、チャートを読む腕も向上した。あなたにも彼らの仲間になってもらいたい。新米トレーダーや投資家であろうと、長年の経験を持つ熟練したプロであろうと、出来高・価格分析には学ぶものが必ずあると私は信じている。
すべてのトレーダーや投資家が成功して大きな富を築くことを祈っている。本書を読むことで、出来高・価格分析があなたのアプローチの土台になることを願ってやまない。
アナ・クーリング
はじめに
多くのトレーダーや投資家にとっては価格と価格チャートがテクニカル分析のすべてである。こういったトレーダーや投資家をプライスアクショントレーダーと言う。なぜなら彼らが見るのは価格だけであり、ほかのものは何も見ないからだ。しかし、私やほかの多くのトレーダーに言わせれば、価格だけを見る彼らのアプローチは価格と出来高とのロジカルな関係を無視している。価格を出来高と関連づけて見ることで初めて価格データの裏にある真実が分かってくるのである。
一般的な説明によれば、テクニカル分析は市場センチメントはシンプルな価格チャートにすべて含まれているという原理に基づく。つまり、価格チャートにはいかなるときもすべての市場参加者の考え方が反映されているということである。さらに、テクニカル分析は単なる価格分析であり、トレーダーは価格の過去の位置を分析することで将来的な方向性を予測することができるという考え方もテクニカル分析の背景にはある。
もちろんこれは正しいが、テクニカル分析のこの一般的な説明のなかには、どの市場でもどの時間枠でも発生する市場操作という概念が欠如している。市場の内側を見るための、そしてインサイダーやマーケットメーカーが何をしているのかを見るためのツールが私たちにはある。それは瞬時にして彼らの行動を明らかにするツールで、それが出来高だ。出来高は触媒のようなもので、価格と組み合わせて使うことで出来高・価格分析という礎石となるものだ。
この手法を最初に開発したのはテクニカル分析の父と呼ばれるチャールズ・ダウで、1世紀以上も前のことだ。そのあと史上最高のトレーダーの1人であるリチャード・ワイコフによってさらに発展した。ジェリー・リバモアやリチャード・ネイといった象徴的トレーダーも同じアプローチを使った。彼らには共通点が1つあった。それは彼らがみんなティッカーテープを使っていたということだ。価格と関連する出来高を読み、出来高と価格のプリズムを通して将来的な方向性を予測したのである。
そしてリチャード・ワイコフが1930年代の講座の序論で書いたように、「テープやチャートからは、数としては比較的少ないがいくつかの事実を引き出すことができる。その事実とは……値動き、トレードの強度、値動きと出来高の関係、すべての動きがそれぞれの経路をたどるのに必要な時間だ」。
このテクニカル分析の考え方は非常にシンプルだ。それは次の考え方に基づくものだ。「すべての市場は操作されている、そしてこの事実を受け入れることで、マーケットメーカー、インサイダー、ビッグオペレーターたちは市場を次にどこに導いているのかを知っていると結論づけることができる。もしそうなら、私たちがトレーダーや投資家として成功するためにやるべきことは、彼らのあとに付いて行くことである。つまり、彼らが買うときに買い、売るときに売り、彼らが市場に参加していないときは市場に参加しないということである」。これがこのテクニカル分析の基本的な考え方だ。そして、彼らが市場に参加しているのかしていないのかは、価格と出来高のプリズムを通してすべて明らかになる。価格と出来高のプリズム、それが出来高・価格分析だ。略してVPAと言う。
私の最初の本『出来高・価格分析の完全ガイド』で説明した概念にすでに詳しい人にとって、本書の実例はさらなる洞察を得て、これらの基本的な概念をさらに発展させるのに役立つはずだ。しかし、この概念は初めてで、おそらくは長期投資家で、これらの概念を今までに使ったことがない人もいることだろう。そんな人たちのために用語とこの手法の基礎となる概念について簡単に説明しておこう。
まず、出来高・価格分析を行うということは、すべての主要な市場はインサイダー(内部の人間)たちに操作されているという考えを受け入れることを意味する。株式市場のインサイダーはマーケットメーカーで、彼らは「マーケットをメーク」することを仕事とするため、市場の両サイドを見ることができ、需要と供給のバランスを取ることができる。私はよく彼らを卸売業者に例える。彼らは株の入った倉庫を持っていて、倉庫を満杯にしては空っぽにするを繰り返す。マーケットメーカーの目的はただ1つ。それはお金を儲けることである。彼らは市場の両サイドを見ることができるという特権的立場にあるため、お金を儲けるのは比較的簡単だ。結局、買いと売りの方程式の両側を見ることができるので、倉庫が空になって再び倉庫を満杯にしたければ、市場にパニックを引き起こして投資家たちをふるい落とし、そこでありがたく市場に参入して買えばよい。ここで彼らが利用するのは、1日24時間センチメントを引き起こす絶え間ないニュースの流れだ。
彼らは市場の真ん中の暗がりに身を隠すことができるが、彼らが隠せないものが1つだけある。それが出来高だ。マーケットメーカーは基本的にはサイズが巨大なので、彼らが市場に参入しているか参入していないかは一目瞭然だ。価格が多くの出来高を伴って動けば、彼らが動きに参加していることを示している。逆に、値動きが大きいのに出来高を伴わなければこれは彼らのワナで、彼らは価格を動かしてはいるが市場には参加していない。彼らが動きにかかわっているかどうかは1つのインディケーターを分析することで明らかになる。そのインディケーターが出来高だ。出来高と価格を組み合わせることで、マーケットメーカーが何をしているのか、それはなぜなのかを正確に知ることが可能だ。そしてこの分析を通して、市場がどこに向かっているのかを明らかにすることができる。 この手法はリチャード・ワイコフの3つの法則によって表すことができる。第一法則が「需要と供給の法則」、第二法則が「原因と結果の法則」、第三法則が「努力と結果の法則」だ。
第三法則は努力と結果は一致していなければならないことを言ったものだ。つまり、出来高(努力)は値動き(結果)と一致していなければならないということである。出来高が多ければ、価格も大きく動くとが期待できる。もしそうなら努力と結果は一致する。そうならなければ、それはアノマリーであり、何かが間違っていることを知らせてくれている。価格と出来高のアノマリーからは、マーケットメーカーがその時点で買っているのか、それとも売っているのかを知ることができる。
ワイコフの第二法則は原因と結果の法則に時間的概念を含めたものだ。この法則は原因が大きければ、結果も大きくなければならないことを言ったものだ。つまり、マーケットメーカーによるキャンペーン(仕掛け)の次のフェーズに行くまでの時間が長ければ、それは値動きにも反映される、つまり値動きにも時間がかかるということである。これはぜんまい仕掛けのおもちゃに例えることができる。ぜんまいを巻けば巻くほど、蓄えられるエネルギーは大きくなり、おもちゃの動く距離は長くなる。これが原因と結果の基本的な原理だ。 最後はワイコフの第一法則で、これは需要と供給の法則だ。これは供給が需要を上回れば価格は下落し、需要が供給を上回れば価格は上昇することを言ったものだ。
絶えず動く価格の流れ、あらゆる時間枠で弱気から強気へ、そして強気から弱気へと動く絶え間ない価格の動きはこれら3つの法則によって説明することができる。価格の動きは1分足チャートだろうと月足チャートだろうと、類似性があり、同じパターンをたどる。そして売りのクライマックスから買いのクライマックスへと動き、そして再び買いのクライマックスから売りのクライマックスへと動くサイクルでサイクルは完了する。私たちは常にマーケットメーカーの視点で出来高と価格を見ることができる。売りのクライマックスとはマーケットメーカーが上昇の天井で売っているところであり、買いのクライマックスとは彼らが下落の底で買っているところである。これはトレーダーや投資家の考えとは逆だ。トレーダーや投資家のほとんどが買いのクライマックスで売り、売りのクライマックスで買うのはそのためだ。
売りのクライマックスでは市場は大きく上昇してくるため、神経質な投資家やトレーダーはもうこれ以上待てない状態にある。大きな動きを逃すのではないかという恐怖は徐々に高まり、結局は天井で買わされてしまう。そこでマーケットメーカーは弱まっていく市場で売る。そしてクライマックス的な値動きがボラティリティとニュースを使って作られる。マーケットメーカーは在庫を売りさばき、キャンペーンの次のフェーズに向けての準備を始める。価格は下落し、彼らの次のフェーズに向けての準備が整う。弱い手に買わせるのに使われる感情は見逃すかもしれないという恐怖だ。これは非常にパワフルな感情で、マーケットメーカーやインサイダーはこの感情を効果的に使う。
買いのクライマックスは、マーケットメーカーが空っぽになった倉庫を再び満たそうとするときに発生し、この場合、損をするのではないかという恐怖が引き金になってトレーダーや投資家に株を売らせる。市場には通常、ニュースによってプライスウオーターフォールが発生する。投資家たちはパニック売りし、そこへマーケットメーカーが参入して投資家たちが売った株を買い、市場の下落を引き止める。クライマックスはボラティリティの高い値動きと出来高の急騰によって特徴づけられる。買いのクライマックスが完了するとマーケットメーカーの倉庫は再び満たされ、キャンペーンの次のフェーズが始まる。
これは市場は上昇する速度よりも下落する速度のほうが速い理由でもある。マーケットメーカーは市場を上昇させるときには時間をかけて上昇させ、利益を最大化する。市場を引き下げるときは急いで引き下げ、倉庫を再び満杯にする。こうしてプロセスは繰り返される。これはイギリスで古くから親しまれているスネークアンドラダー(蛇と梯子)ゲームで考えると分かりやすい。梯子を上るときはゆっくりで、下りは蛇なので素早い。アメリカではシュートアンドラダーと呼ばれている。
本書の実例ではキャンペーン(仕掛け)という言葉をよく使うが、これはマーケットメーカーの計画を正確に表すものだ。彼らは軍事作戦のように緻密に計画し、成り行きに任せることなどあり得ない。キャンペーンが始まると、彼らにとって最悪なことは、増加する売りや買いに圧倒されて、新たなトレンドが突然止まってしまうことだ。ここで重要なのが試しだ。
買いのクライマックスでアキュミュレーションが終了すると、キャンペーンが始まる前にマーケットメーカーやインサイダーは売り圧力が完全に吸収されたことを確認するために試しを行う。これは強気トレンドがゆっくりと着実に形成され、残った売り手が市場を下落させる可能性がないことを探るためだ。ローソク足が始値近くで引け、出来高が少ないことが確認できれば試しに成功したことになる。これを供給の試しと呼ぶ。少ない出来高で試しに成功したら、キャンペーンがスタートする。
同様に、ディストリビューション(売りのクライマックス)が終って、弱気トレンドが形成される前に需要の試しが行われる。マーケットメーカーは価格を引き上げ、そこで需要がほとんどあるいはまったくなければ、価格は始値近くで引け、出来高は少ない。これが確認されれば試しは成功で、キャンペーンがスタートする。
出来高・価格分析は、まずはすべての市場は操作されていることを認めることから始まる。これが第一の原理だ。第二の原理は、マーケットメーカーが買っているのか売っているのか、あるいは動きに参加しているのかいないのかを見極めることである。これは価格と出来高を長期にわたって別々に観測し、価格と出来高が一致しているかどうかで確認することができる。価格と出来高が一致していれば、マーケットメーカーが動きに参加していることになる。価格と出来高が一致していないとき、彼らが買っているのか売っているのかについて論理的な結論を導き出すことができる。また、彼らがどれくらい買っているのか売っているのを知るには、前の値動きを見ればよい。
価格チャート上で最も重要な領域は保ち合い相場だ。市場は70%から80%の時間帯で保ち合いになり、トレンド相場になるのはわずか20%である。理由は簡単だ。保ち合い相場はトレンドが生まれる場所で、マーケットメーカーやインサイダーがキャンペーンの次のステージに向けて準備している場所だ。売りのクライマックスや買いのクライマックスのような重要な領域になることもあれば、市場がメジャートレンドの途中で小休止し、反転して、再びメジャートレンドになるマイナーな領域のこともある。
保ち合いフェーズと支持線・抵抗線を理解することは出来高・価格分析の重要な要素だ。多くのトレーダーや投資家はこれを理解していないか、常にトレンド探しに夢中になって無視するかのいずれかだ。事実、出来高をアプローチに含めないトレーダーや投資家はブレイクアウトトレードを無益でリスキーだとして非難することが多い。ブレイクアウトが発生すると、その動きが本物なのかダマシなのかは出来高で確認することができる。これほど明確でシンプルなものはない。価格に基づく従来の支持線や抵抗線は出来高・価格分析の一部だが、私は出来高、価格、時間を分析に使う。これはボリュームポイント・オブ・コントロールと呼ばれ、出来高をY軸(価格軸)のさまざまな価格水準にヒストグラムとしてプロットしたものだ。これは公正価格はチャート上の出来高が最も集中しているところに現れるというマーケットプロフィールという概念に基づくもので、出来高と価格の関係のなかに時間という概念を導入したものである。つまり、市場が一定の価格水準に長くとどまれば、そこが出来高が集中している場所であり、強気センチメントや弱気センチメントがシフトすれば、価格は動き続ける。
これをボリュームポイント・オブ・コントロールと呼ぶのは、これは株価のバランスが取れた支点だからである。つまり、強気センチメントと弱気センチメントのバランスが取れた場所ということである。高い価格や低い価格のところにハイボリュームノード(出来高の多いところ)やローボリュームノード(出来高の少ないところ)が形成され、これらのノードは抵抗線や支持線になることが多い。つまり、出来高の少ないところでは値動きを小休止するほどの売買高はないため、市場は比較的素早く動くということである。さらに、市場がこの領域を過去にあまり重要ではなかったと判断すれば、現在あるいは将来的にも重要な領域になる可能性は低い。同様に出来高の多い領域では逆のことが予想される。つまり、市場は小休止し保ち合いに入るということである。価格チャートのY軸にプロットした出来高を用いることで、支持線や抵抗線の2つの見方を与えてくれる。1つは価格に基づく従来的な見方で、もうひとつはボリュームポイント・オブ・コントロールインディケーターを使った出来高に基づく見方である。
最後に出来高の意味について簡単に見ておこう。
株式やETF(上場投信)の場合、これは取引所を通じて報告される出来高を意味する。先物の場合、先物の出来高を意味し、直物為替の場合はティックの動きによるプロキシボリュームが使われる。最近では仮想通貨取引というものも出てきたが、この取引は正式な取引所はなく、さまざまな取引所で扱われている。仮想通貨の出来高は市場にいる買い手と売り手の数を表し、ワイコフの第一法則(需要と供給の法則)が反映される。これについては私の最近の著書の1つである『インベスティング・アンド・トレーディング・クリプトカレンシー・ユージング・ボリューム・プライス・アナリシス(Investing & Trading Cryptocurrencies Using Volume Price Analysis)』で詳しく説明しているので参照してもらいたい。同書はアマゾンで入手可能だ。
出来高を含む価格チャートがあれば、この手法はどんな投資対象でもどんな時間枠でも適用することが可能だ。しかし、出来高は取引時間のなかでも季節のなかでも常に相対的なものである。例えば、ある季節では出来高が減少し、休日の市場が閉じているときも出来高は少ない。
出来高は値動きの裏にある真実をあぶりだすものだ。マーケットメーカーやインサイダーが次に何をしようとしているのかや、仮想通貨の買いや売りを、出来高は正確に教えてくれる。トレーダーや投資家として私たちが本当に知りたいのは、市場が次にどのように動くのかだけである。この問いにある程度の自信をもって答えることができれば、あなたの投資やトレードを次のレベルに引き上げることができるだろう。トレードでは新しいことは何ひとつないということを覚えておこう。このアプローチは100年以上前から存在し、時の試練を経たものであり、過去の偉大なトレーダーたちも使ってきた。
私はこのアプローチを使い始めて20年以上になる。私にとって出来高のないチャートはストーリーの半分しか語ってくれないに等しい。そしてもっと重要なのは、今使っているアプローチがあるのであれば、それらを変更する必要はまったくないということである。あなたのツールキットにVPAを加えるだけで、あなたの投資やトレードは格段に向上するだろう。
本ホームページに掲載されている事項は、投資判断の参考となる情報の提供を目的としたものであり、投資の勧誘を目的としたものではありません。投資方針、投資タイミング等は、ご自身の責任において判断してください。本サービスの情報に基づいて行った取引のいかなる損失についても、当社は一切の責を負いかねますのでご了承ください。また、当社は、当該情報の正確性および完全性を保証または約束するものでなく、今後、予告なしに内容を変更または廃止する場合があります。なお、当該情報の欠落・誤謬等につきましてもその責を負いかねますのでご了承ください。