賭けの考え方・勝ち組ポーカープレイヤーの思考習慣

目次
第1章 はじめに

第2章 賭けの考え方
～プレイヤーとして成功するために必要なポーカーの思考習慣～
2-1 ポーカーのさまざまな現実を理解し受け入れる
2-2 長期的視野でプレイする
2-3 金を儲けることよりも正しい決断を下すことを優先させる
2-4 金への執着を捨てる
2-5 自尊心を持ち込まない
2-6 あらゆる感情を決断から排除する
2-7 分析と改善のサイクルを継続的に繰り返す
2-8 まとめ

第3章 本能を乗り越える
～あなたの本能と人生経験はポーカーでは役に立たない？～
3-1 作用と反作用
3-2 目標を設定する
3-3 「平均」でも問題ないか？
3-4 リスク嫌い
3-5 欲
3-6 筋の通らない考え
3-7 まとめ

第4章 バッドビートとビッグポットを逃すこと
～ビッグポットを逃すことやバッドビートの対処法～
4-1 ビッグポットを逃すと何が起こる？
4-2 ビッグポットを逃したことへの反応
4-3 賭けの考え方を適用する
4-4 バッドビート
4-5 まとめ

第5章 ダウンスイング
～ダウンスイングとは何か。
その対処法と避けるべき落とし穴～
5-1 流れが悪い
5-2 ダウンスイングのさまざまな現実
5-3 よく見られるダウンスイングへの悪い反応
5-4 ダウンスイングの対処法
5-5 平静を保つ
5-6 ダウンスイングと賭けの考え方
5-7 腕を磨く
5-8 ダウンスイングとバンクロール
5-9 まとめ

第6章 ティルト
～ティルトを見分け、コントロールし、タイプ別に予防する～
6-1 ティルトとは何か？
6-2 なぜプレイヤーはティルトになるのか？
6-3 さまざまなタイプのティルト
6-4 ティルトに備え予防する
6-5 ティルトを検知する
6-6 ティルトと闘う
6-7 トーナメントでのティル
6-8 まとめ

第7章 バンクロール管理
～心理学的見地からのバンクロールの考察～
7-1 ポーカーでの最大のミス
7-2 バンクロールの必要条件を決める
7-3 なぜプレイヤーは間違った方向に進んでしまうのか？
7-4 リミットを上げる
7-5 リミットを下げる
7-6 キャッシュアウトの戦略
7-7 まとめ

第8章 対戦相手の心の中へ
～対戦相手の傾向や動機、思考レベルを評価する～
8-1 観察の大切さ
8-2 相手を分類する
8-3 プレイヤーのさまざまなタイプ
8-4 相手の頭の中に入り込む
8-5 思考のレベル
8-6 まとめ

第9章 応用編
～ポーカー心理学に関する上級編～
9-1 やめどき
9-2 アップスイングは？
9-3 ティルトと相手の思考習慣
9-4 最適未満が最適になるとき
9-5 アクションにおける確率
9-6 インターネットとライブの違い
9-7 プロとしてのポーカー
9-8 利益以外の動機
9-9 まとめ

第10章 ポーカーと人生
～ポーカーとその他の人生との融合～
10 -1 賭けの考え方に欠けている要素
10 -2 ポーカーの先の人生
10 -3 バンクロールを切り離す
10 -4 感情を切り離す
10 -5 ポーカーから学べることは？
10 -6 まとめ


ポーカーの技術面を教える書籍は、市場に山ほど出回っている。それら書籍では、どういったハンドをプレイし、それらをどのようにプレイし、またどのようにフォールドすべきかを解説している。ポットオッズやブラフ、バリューベット、セミブラフ、そのほかたくさんのことが扱われている。実際、素晴らしい本が多い。
しかしながら、このゲームのより人間的な側面については、ほとんどのポーカー関連書籍が表面的にしか扱っていない。ポーカーは、ロボットではなく人間がするゲームだ。人間にはさまざまな感情や動機、気分があり、ゆえに時に予想外の非理論的な行動をとる。
本書では他のポーカー書籍が扱わないことを拾い上げている。いつベット、レイズ、コール、もしくはフォールドすべきかということは、実際の重要度にかかわらず扱っていない。代わりに、ほかの重要な問題に焦点を当てている。
例えば、

・ポーカーに対する正しい「賭けの考え方」とは何か？
・大きなポットをいくつか逃し、不運が続いたときはどうすればいいのか？ティルトの正体は何であり、どうやったら防げるのか？
・ほかにも利益率を上げたり下げたりする心理的要素はあるのか？

ポーカー書籍の著者は自分の本こそが、あらゆるポーカー書籍の中で一番重要だと謳うたうものだ。しかし、私たちはもっと謙虚だ。本書は「２番目に」重要なポーカー書籍だと提言しよう。一番重要な本は、正しい技術的プレイを教える本であり、ほかには替え難い。
本書はそれら書籍の補完的役目として、収益を最大化し、多くのプレイヤーが抱える自己破壊的な傾向を予防する方法を紹介する。
ポーカーの精神的、感情的、そして心理的側面がポーカー関連書籍で扱われることはまだ少ない。だが、実際は非常に重要なのだ。ポーカープレイヤーは皆、負ける必要のない金を失っているが、それは知識やゲームに対する理解が不足しているからではない。心構えが間違っている、意志が弱い、ひどい反応をしている、適当に考えている、といった理由が原因なのだ。
普段の生活ではとても穏やかで理性的な人でも、ポーカーテーブルでは感情に流されたり、非論理的になったり、いろいろなものに惑わされたりするものだ。ポーカーは、日常生活では経験することのない状況に直面し、普段とは全く違う思考プロセスに追い込まれるゲームだ。実際、ポーカーで最高のプレイをするためには、本能とは全く逆のプレイが求められることもある。
本書では、ポーカーの心理学的側面を細かく解説していく。最初に、ポーカーに取り組む際の正しい賭けの考え方の概要を述べる。賭けの考え方は本書の土台であり、繰り返し登場するテーマだ。
次に、大きなポットを逃すこと、ダウンスイングへの対処、そして、ティルトになること、といった個別の問題をひも解いていく。
これら基礎が置かれた後に、適正なバンクロール管理の重要さ、対戦相手の研究、そしてそのほかのより高度な話題について解説する。
最終章では、ポーカーがあなたの人生に及ぼす影響、そしてその逆について述べる。

○本書のターゲット
いままでに負けた金額を少しでも取り戻したいと願う完全な初心者であれ、ポーカーで年間６桁を稼ぐプロであれ、あらゆるレベルのプレイヤーにとって本書は役に立つはずである。
初心者は、これまで多くのプレイヤーが身につけるのに苦労した知識や技術を会得できるはずだ。ポーカーのいくつかの厳しい現実を紹介しつつ、それらへの対処法をアドバイスしていく。
中級者は、いままでポーカーテーブルで分からなかったことを発見できるはずだ。負け組か良くてトントンだったプレイヤーは、勝ち組になれるかもしれない。
上級者はいままで自分の利益率を制限していた障壁を乗り越える術を学ぶだろう。トップレベルでは、ほとんどのプレイヤーが技術面にぬかりはない。ポーカーの人間的要素を完全にマスターしたプレイヤーこそが、成功者となれるのだ。
本書ではあらゆるポーカーゲームのなかでも、とりわけホールデムに偏っている。その理由は、ホールデムが現在一番人気があり、かつほとんどの読者が簡単に理解できるゲームだからである。しかしながら、本書のコンセプトはスタッドやオマハ、その他のあらゆるポーカーにも等しく当てはまる。純粋に、より多くの人に理解してもらうためにホールデムのハンド例を用いている。
最後に、本書ではプレイヤーについて触れるときに男性名詞（彼、彼らなど）を使うことが多い。これはあくまで読みやすさを求めたためであり、けっして女性ポーカープレイヤーへの偏見を意図してのものではない。実際、ポーカーの素晴らしいことのひとつには、男女が平等な条件で競い合い、成功の可能性が等しく与えられていることが挙げられる。
『賭けの考え方』が、老若男女や初級者、上級者の別を問わず、プレイヤーのレベルの向上に役立つことを願っている。読み進むにつれ、ポーカーというゲームの全く新しい見方が見つかるはずである。


第２章賭けの考え方
～プレイヤーとして成功するために必要なポーカーの思考習慣～
The Poker Mindset
Identifying the core mental attitudes a poker player needs to succeed. 経験を積むごとに、勝ち組プレイヤーたちはポーカーの技術的スキルの持ち駒を増やしていく。ハンドを読む技術、正しいプリフロップのプレイ、ブラフ／セミブラフ、そしてバリューベットの技術など。これらスキルによって、テーブルで最善の決断が下せる可能性が最大化する。同様に、勝ち組プレイヤーたちは正しい賭けの考え方―技術面を補完してくれる心理学的な道具箱―を充実させていくことで、さらに利益を享受することができる。
本章では、あなたがその思考習慣を身につけるための手始めとして、まずその道具箱とは何かを解説する。これから、全てのポーカープレイヤーがゲームやリミットの種類、実力のレベルにかかわらず習得すべき７つの賭けの考え方からなる「ポーカーの思考習慣」の概要を述べる。それらはあなたがポーカーで長期的に成功するために向き合うべき現実であり、身につけるべき考え方である。
技術的スキルと同様、賭けの考え方は、テーブルでより良い決断を下す際に役に立つ。ターンでのレイズにはどのような場合にフォールドすべきか、といったことほど明確ではないが、長期的に稼げる金額を増やすようにできている。実際、「勝兵は先ず勝ちてしかる後に戦いを求め、敗兵は先ず戦いてしかる後に勝ちを求む」―孫子『孫子の兵法』よりいくつかの状況下では、技術的な問題よりも心理的な問題こそが、多くの金を失う原因となる。心理的側面が重要ではないと思っているプレイヤーは、実に愚かだ。
この章では、賭けの考え方を細かく掘り下げていく。以下、賭けの考え方の諸相をひとつずつ、その重要性と、それを無視した場合に陥る落とし穴を説明しながら紹介していく。では、論理的順番に沿って、最も基本的なことから始めよう。

❖２-１ポーカーのさまざまな現実を理解し受け入れる

そもそもポーカーとはどんなゲームだろうか？
ポーカーをブラックジャックに例える人がいる。どちらもカジノで金を賭けて遊ぶ、運と技術の要素が混じったゲームだ。どちらも戦略の熟知が有利に働き、上手いプレイ≒最適なプレイとなる。
それでもポーカーはブラックジャックとは全く異なる。
まず、ブラックジャックでは主にハウスを相手にプレイするのに対し、ポーカーでは他のプレイヤーを相手にプレイする。そして、相手のプレイヤーもあなたと同じルールでプレイする。
また、ポーカーのほうが戦略の及ぶ範囲がはるかに広い。記憶力の良い人なら、比較的少ない勉強量で効率的に完璧なブラックジャックプレイヤーになれるが、完璧なポーカープレイヤーなど存在し得ない。
ポーカーをチェスに例える人もいる。どちらも奥深い戦略があり、成功するには徹底的な分析が必要だ。そしてどちらも、技術的要素と人間的要素の両方を鑑み、相手を出し抜くことを求められる。
それでもポーカーはチェスとも全く異なる。
チェスは完全情報のゲームだ。互いのプレイヤーは常にゲームの正確な状態を把握しており、相手を騙すことや、読み違いをするといった余地はほとんどない。他方、ポーカーは不完全情報のゲームである。それぞれのプレイヤーは、対戦相手が何を持っているかを見抜こうとしなければならない。
また、チェスには短期的にも運の要素が一切ない。結果は完全に、どちらのプレイヤーが最高の手を打ったかによる。ポーカーでは短期的には何も保証されていない。相当数のハンドに及ぶまで運の要素が支配し、上手くプレイしたのに負けることもあれば、下手なプレイをして勝つこともある。
ポーカーを理解するためのカギは、ポーカーがどうチェスと似ており、どうブラックジャックと似ており、でも実際は両方に全然似ていないことを認識することだ。ポーカーというゲームを根本的に誤解しているために成功できないプレイヤーがどれだけ多いことか。
これから述べることは、志の高いポーカープレイヤーならば知っておかなければならない。私たちはそれらを「ポーカーの５つの現実」と呼んでいる。本書で述べられるあらゆることは、そこから派生している。

１．ポーカーは技術と運が共存するゲームである
ポーカーコミュニティでは、ポーカーははたして技術のゲームなのか運のゲームなのか、ということがよく議論される。実質的には、カードが配られるたびに毎回新しいスタートとなるのだから、理論上は、勝つためには全てのハンドを勝ちにいけばいいようにも思える。
しかし、ひとつのハンドの勝者は、現実にはランダムに決まる。どんなハンドでも、あなたが受け取る手札はランダムであり、対戦相手が受け取る手札もランダムであり、あらゆるコミュニティカードもまた、ランダムである。技術的に優れているプレイヤーでも、対戦相手をフォールドさせる以外に、ハンドの勝率を上げることはできないのだ。
しかし、より深く洞察すれば隠れた技術的要素が見えてくる。ポーカーは、より多くのハンドを勝利しにいくゲームではない。より多くの金を勝ち取りにいくゲームなのだ。実際全てのハンドを勝ちにいくことは、このゲームの構造上、賢明ではない。
それぞれのハンドの勝者はたった１人。ゆえに、ここぞというスポットを選んで勝てる見込みのあるハンドだけで勝負したほうが儲かるのだ。全てのハンドを勝とうとするプレイヤーは、その過程で多くの金を失うことになる。
つまりはこうだ。強いプレイヤーの傾向としては、勝利するハンド数はほかのプレイヤーより少ないが、勝ち取る金額 はほかよりも大きい 。勝利数の一番少ないプレイヤーが最高のプレイヤーであるなどほかのゲームでは考えにくい。この独特の真実が、ポーカーを運のゲームのように見せるのである。
しかし同時に、技術的要素も多分に含まれている。さまざまなポイントで、プレイヤーはベッティングの決断を求められる。プレイヤーは、与えられたヒント（自分の手札やコミュニティカード、そして対戦相手のベッティングの仕方など）を分析したうえで、ベストなベッティングの決断を下すべく、自分で判断をしなければならない。判断が必要ならミスを起こす可能性があり、ミスを起こす可能性があるのなら、当然、技術的要素が入り込む余地があることになる。

２．短期的には運が物を言う
ポーカーが技術と運が両立するゲームだといっても、短期間内では技術的要因を見つけることすら大変な場合もある。ポーカーでポットを勝ち取るためには、ショーダウンでベストハンドを持っているか、全ての対戦相手をフォールドさせるしかない。
ショーダウン前に、より多くのプレイヤーをフォールドさせて勝率を上げることはできても、いざショーダウンになれば、勝負の分け目は誰が最高の技術を持っているかではなく、誰が最高のカードを持っているかである。全ての対戦相手を .これは一般的には正しいが、かなりルーズなプレイでの勝ち組プレイヤーも見かけることがある（普通はノーリミットホールデムにて）。フォールドさせてポットをいくつか勝ち取ることもあるだろうが、それはもちろん相手が誰も良いハンドを持っていない場合にのみ可能だ。つまり、ポーカーでの個々のハンドの勝敗は運に大きく左右されるのである。
前節で触れたように、ポーカーでの技術とは、負けているハンドでより小さく負け、勝っているハンドでより多くの金額を勝ち取ることである。だが、このことさえも、１ハンドという期間内では不正確な科学にすぎない。 例えば、あなたがノーリミットホールデムをプレイしていて、ＡＫのような強いハンドで、７２のような弱いハンド相手にオールインしたとしよう。リバーでＡＫがベストハンドであるオッズは２対１（２/３の勝率）程度しかない。これはかなりのア優位性ドバンテージではあるが、勝利が確約されているわけではない。あるハンドで良い決断を下しても罰を受けることもあるのだ。また、見方を変えれば、悪い決断を下しても報われることもあるということだ。
もう少し長い期間で見ても、技術的に優れているプレイヤーにとって全てが上手くいくとは限らない。優れたプレイヤーでも、悪いカードが続く、バッドビートを受ける、単純に平均以上の確率で相手にドローを引かれる、といったことが組み合わさって相当な期間にわたり流れが悪くなることもある。
個々のハンドには、運の要素が多分に含まれている。これら個々の運勢が集合体として、あるプレイヤーにとっての良い流れなり悪い流れになることは、たとえそれが一見相当なハンド数においても、よくあることだ。 分かりやすく例えると、あなたが１週間プレイするうちにフラッシュドローに100回遭遇するとしよう。ホールデムでは、フロップ時点でのフラッシュドローがリバーまでに完成する可能性はおよそ１/３であるから、この100ハンドでフラッシュは33回完成するはずだ。ツキが良い場合は40回完成し、ツキが悪い場合は25回しか完成しないとしよう。そして対戦相手のフラッシュドローにも同じ条件が適用されるとしよう。
あなたと相手を組み合わせた短期的な運勢は、１週間の成績に大きな違いをもたらすことになる。ツキが悪ければ、あなたは平均の期待数33－25＝８回分ポットを損することになる。もし対戦相手のツキが良ければ、相手は平均よりも40－33=７回分のポットを得することになる。これらを合計すれば平均して勝っていたはずのポット数よりも、15回分を損していることになる。15ポット分ともなれば大きな金額になる。
そしてこれはフラッシュドロー―テーブルで遭遇する何百とあるランダムな組み合わせの中のひとつ―のケースにすぎない。
あなたのポケットペアは、何回セットを完成させるだろうか？
ＡＱのようなハンドが、ＡＫに何回遭遇するだろうか？
フロップでツーペアを完成させるも、相手がより良いハンドを完成させている確率は？
どれだけ上手くプレイするかは関係ない。こういった統計は短期的には全てのポーカープレイヤーに影響を及ぼし、ポーカーの技術的要素を曇らせてしまう。

３．長期的には、実力が物を言う
勝者にとっての良い知らせは、十分に長くプレイすれば、運に左右されなくなるということだ。
数学者ならば直感的に分かることだが、それほど数学に詳しくない我々は、コイントスを想像するとしよう。個々のコイントスには、表が出る可能性が50パーセント、裏が出る可能性が50パーセントある。コインを10回投げれば、表が５回、裏が５回出ると大体予測される。表が特定の数だけ出る確率は以下のとおり（数値は四捨五入のため概数）。

予測したとおり５の確率が一番高く、４と６もかなり確率が高い。しかし、極端な結果になる確率もかなり大きい。表が７回以上出る確率が、約17パーセントもある。

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