金価格と米国金利の関係|過去の歴史からセオリー通りにならない時期についても解説
1.金にはインカムゲインがない
金への投資には、配当も金利も付きません。
つまり、株式や債券の収益源ともなるインカムゲインがないわけです。
したがって、投資する際には、値上がり益(キャピタルゲイン)を得ることを考える必要があります。
富裕層のように、長期投資のポートフォリオのバランスを取る目的で金投資するのであれば、価格の変動をあまり気にする必要はありません。
株式や債券などとの保有比率を注視し、想定している投資配分のバランスがずれないかを確認することが重要な作業です。
しかし、単純に金価格の変動から利益を得ようとするのであれば、価格変動の要因をしっかりと理解し、ある程度売買タイミングを計ることも必要です。
その意味で重要なのが、金利との関係です。
2.金融市場はリンクしている
金利は、すべての経済活動に影響を与えます。
金に関しても同様で、金利が上昇すればインカムゲインのない金の価格は下落し、金利が低下すればモノとして価値のある金の価格は上昇します。
このような関係があるので、金へ投資する際には、金利動向は最も重視すべき要素であると考えたいところです。
金価格は米ドル建ての動きが重視されるので、米金利や米ドルの動きが重要です。
金利が変動すれば、為替が変動します。
変動した為替もまた金市場に影響を与えます。
このように、金利と為替がリンクし、それがまた金価格に影響を与えるという状況です。
つまり、金融市場における重要な要素は、すべてがつながっているといえるのです。
3.セオリーと、セオリーが通用しない時期
単純なセオリーとして、「金利上昇=金価格下落」「金利低下=金価格上昇」の逆相関の関係があるといわれます。
下の比較チャートは、青が金価格(右目盛り)、橙は米10年債利回り(左目盛り)です。
米10年債利回りは逆目盛りで表示しているので、金価格と同じ方向に動いているときが逆相関を意味します。
俯瞰して見ると、おおむね逆相関が続いている時期と、そうではない時期があることが分かります。
金価格と米10年債利回りの推移(米10年債利回りは逆目盛り)
歴史を振り返ると、2000年にドットコム・バブルがはじける直前まで、米金利は上昇し、金価格は下落していました。
価格下落の要因は、金利上昇の影響というよりは、欧州勢の売りだったといえます。
その後、バブル崩壊で株価が急落すると投資資金は債券市場に流入し、米金利は低下し始めました。
しかし、金価格は上昇せず、むしろ欧州勢の継続的な保有金売却の影響で下げ続けました。
2001年ごろには欧州勢の金売却が落ち着き、金価格は底打ちし上昇していきます。
一方の米金利は下落基調にあったものの、2003年半ばから上昇に転じました。
米金利は上昇し、金価格は依然として上昇基調を維持しました。
このように、上記のセオリーが通用しない時期もあるのです。
4.金価格と金利の歴史
2008年には、リーマンショックにより株価が急落し、債券も売られたことで、金利が上昇します。
一方の金も価格を大きく下げましたが、他の資産に先駆けて立ち直りました。
その後、2010年代には欧州債務危機が発生し、金利が上昇していく中で金価格も上昇し史上最高値(当時)の1920ドルを付けるに至りました。
しかし、これがピークとなり、その後に米金利が低下する影響を受けずに、金価格は下落することとなりました。
金価格の下落は2015年末に底打ちし、再び上昇に転じます。
一方の米金利は底打ちして上昇し始めていました。
2020年には、コロナショックの影響から金融緩和が行われ、金利は低下します。
一方の金価格は、2020年8月に史上最高値の2072ドルまで上昇しました。
また2022年には、ウクライナ危機に際して、金価格は史上最高値こそ更新できなかったものの、その水準まで上昇しました。
以上で見てきたように、米金利と金価格はセオリー通りになる時期もあれば、そうではない時期も多くあることが分かります。
セオリーはあくまでも基本であり、現在進行形の市場のテーマの方が重要です。
米国をはじめとする主要国の金融政策や経済情勢などを理解し、その時点で金価格形成に影響を与えるテーマの比重を考察すると良いでしょう。
Provided by
池水 雄一(Bruce Ikemizu)
1986年上智大学外国語学部英語学科卒業後、住友商事株式会社。
1990年クレディ・スイス銀行、1992年三井物産株式会社で貴金属チームを率いる。
2006年スタンダードバンクに移籍、2009年同東京支店支店長就任。
2019年9月日本貴金属マーケット協会代表理事。
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