米国で大学新卒が就職難に直面、夏場の失業率上昇をもたらすか

マーケットレポート

米成長率は堅調でも、労働市場の減速が高学歴を直撃

日本の1~3月期実質GDP成長率は、前期比年率2.0%減と2四半期ぶりにマイナスだった。
しかし、2024年卒の新社会人は、賃上げの恩恵を受けている。
日本製鉄は、4月に入社した大学卒の総合職の初任給を4万1,000円、全日空は2年続けて新卒社員の初任給を改定し、客室乗務員で1万6,000円引き上げた。

大企業だけでなく、日本商工会議所の調査では、新卒の採用活動を行った中小企業などの50.2%が初任給を引き上げたと回答したという。
日銀の内田副総裁は2月、講演で「人手不足経済」に言及、4月に公表された日銀短観でも人手不足感の強まりを示していた。

米国はというと、過去2四半期に潜在成長率2%超えを経てQ1に前期比年率1.6%増とプラス成長したにもかかわらず、労働市場は減速の兆しをみせる。
米4月雇用統計では、非農業部門就労者数が前月比17.5万人増と6カ月ぶりの低い伸びとなり、失業率は3.9%と2月に並び、2022年1月以来の高水準だった。

また、米3月雇用動態調査(JOLTS)では採用者数が同550万人と、コロナ禍で経済活動が停止した2020年4月以来の低水準に。
パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長が5月14日、「労働市場は非常に強い」と発言しつつも、段階的に冷え込みと労働需給のリバランスに言及したことが思い出される。

チャート:米JOLTS、採用者数は3月に2020年4月以来の低水準
チャート:米JOLTS、採用者数は3月に2020年4月以来の低水準

米労働市場の「調整」、高学歴を直撃

その「労働市場のリバランス」の打撃を受けている一角に、高学歴が挙げられる。
米4月雇用統計で、25歳以上の大卒以上の労働参加率は72.8%と、6カ月ぶりの水準へ改善した。

一方で、大卒以上の失業率は2.2%へ上昇、特に大学院卒の場合は2.3%と8カ月ぶりの水準へ上昇。
予防的利下げを3回行った2019年平均の2.0%をも上回った。
2024年だけでも、アップルを始めマイクロソフトやアルファベットなどテクノロジー企業から、電気自動車メーカーのテスラやリビアン、ソフトウェア大手のセールスフォース、コンサルティング大手のマッキンゼー、その他金融など高学歴を必要とする大手企業がリストラを発表。
高学歴の失業率を押し上げてきた。

チャート:大卒以上の失業率、足元は労働市場の改善に合わせ弱含み
チャート:大卒以上の失業率、足元は労働市場の改善に合わせ弱含み

求人情報サービス大手グラスドアが発表した従業員信頼感指数では、未経験レベルの従業員を対象とした信頼感指数は3月に46.1%と2016年にデータ発表を開始して以来最低だった。
4月は46.5%と小幅改善した程度で、2023年4月からの1年間では4.4ポイント低下し、取締役以上の従業員信頼感が1.5ポイント低下、中間管理職の従業員信頼感が3.9ポイント低下したのに比べて最大に。
グラスドアによれば「ここ1年の採用活動の鈍化を受け、新入社員の入社が困難」な状況を表すという。

米失業率は夏場に上昇する傾向、今年はどうなる!?

米労働市場の調整という波は、2024年卒の米国の大学生に襲い掛かっている。
彼らは、コロナ禍に入学し、大学生活のほとんどをリモートで過ごし、ようやく社会に飛び立とうとするなか、就職難という壁にぶつかる状況だ。
就職・転職向けソーシャルネットワークのリンクトインによれば、2022年には応募者1人に対して求人が1つあった。
現在、2024年には1人の求職者に対して2人の応募者が存在する。

また、就職までの平均期間は、2023年の5.5カ月から6カ月に伸びた。
ヴェリス・インサイツの調査でも、2024年卒業の大学生で内定を得た割合は2月時点で24%と、2023年の34%を下回る。

米国では、大学の卒業式は5月から6月初めが一般的だ。
従って、大卒以上の労働参加率と失業率は、夏場にかけて上昇してもおかしくない。
大学新卒を含まないデータながら、興味深いことに25歳以上の大卒以上の失業率は1月と比較し、コロナ前の2019年以降、夏場に上昇してきた。

2019年から2024年までの1月の大卒の失業率平均2.45%に対し、6月は3.28%、7月は3.2%。
大学院卒以上も1月の平均2.13%に対し、6月は3.08%、7月は3.46%と上回る。

チャート:25歳以上の大卒以上の米失業率、6月と7月に上昇する傾向
チャート:25歳以上の大卒以上の米失業率、6月と7月に上昇する傾向

全米の失業率も、夏場にかけ上昇するトレンドが確認できる。
1月平均が5.6%に対し、6月は6.0%、7月は5.9%と上回った。

一因として教育関連における春休みや夏休みの影響が挙げられるが、それでも仮に2024年もこうした流れを受け継ぐなら、失業率は夏場に上昇しかねない。
ウォラーFRB理事やアトランタ連銀総裁はインフレ率次第で10-12月の利下げに言及していたが、米労働市場が予想外に大幅減速すれば、9月という選択肢も現実味を帯びる。

チャート:全米の失業率、5月を始め夏にかけ上昇する傾向
チャート:全米の失業率、5月を始め夏にかけ上昇する傾向

株式会社ストリート・インサイツ代表取締役・経済アナリスト 安田佐和子

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株式会社ストリート・インサイツ代表取締役・経済アナリスト 安田佐和子

世界各国の中銀政策およびマクロ経済担当の為替ライターの経験を経て、2005年からニューヨークに拠点を移し、金融・経済の最前線、ウォール街で取材活動に従事する傍ら、自身のブログ「My Big Apple NY」で現地ならではの情報も配信。
2015年に帰国、三井物産戦略研究所にて北米経済担当の研究員、双日総合研究所で米国政治経済や経済安全保障などの研究員を経て、現職。
その他、ジーフィット株式会社にて為替アンバサダー、一般社団法人計量サステナビリティ学機構にて第三者委員会委員を務める。
NHK「日曜討論」、テレビ東京「モーニング・サテライト」の他、日経CNBCやラジオNIKKEIなどに出演してきた。
その他、メディアでコラムも執筆中。
X(旧ツイッター):Street Insights
お問い合わせ先、ブログ:My Big Apple NY


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