3月FOMC:年内利下げ3回を示唆するか否か、それが問題だ

マーケットレポート

米2月物価指標は市場予想超え、やはり「ラストワンマイル」は最難関?

「米インフレ退治、『ラストマイル』が最難関」――ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)紙のFed番記者、ニック・ティミラオス氏が2023年7月に配信した記事のヘッドラインである。
その後、インフレ根絶に向け勝利宣言は時期尚早とし、2023年7月FOMCを控え利上げを行う方針との記事を執筆、観測記事通り、Fedは利上げを行った。
ただ、それ以降、Fedはインフレ鈍化を受けて据え置きを続けている。

あれから1年が経過しようとするなか、再び「ラストワンマイル」がFedに重く圧し掛かる。
米2月消費者物価指数(CPI)と米2月生産者物価指数(PPI)は、そろって市場予想を上回った。
ただ、厳密にいえば、米2月コアCPIは2021年5月以来の低い伸びとなり、鈍化トレンドは維持。

また、CPIの36%を占める住宅関連は下方向をたどり、住居費は前年同月比5.8%、家賃も同5.8%と、2022年夏以来の6%割れを迎え、着実に鈍化しつつある。

チャート:米2月CPI、前年同月比はコアが鈍化トレンドを維持
チャート:米2月CPI、前年同月比はコアが鈍化トレンドを維持

チャート:米住宅関連の物価はピークアウト
チャート:米住宅関連の物価はピークアウト

しかし、ウォール街の一部では足元のインフレ鈍化がまやかしに終わり、1970~80年代のようにインフレが再燃するのではとの見方も根強い。
米2月PPIの再加速は、そうした悪夢の再来を示唆しているようでもある。

チャート:1970~80年代型のインフレ再燃、時を超えて再現も?
チャート:1970~80年代型のインフレ再燃、時を超えて再現も?

仮に3月19~20日開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)で、インフレ再燃を懸念する声が強まるならば、年内の利下げ見通しが修正される余地が出てくる。
四半期に一度公表される経済・金利見通しとドット・プロットをめぐり、後者については前回2023年12月FOMCでの2024年FF金利予想・中央値は4.6%と年内3回の利下げを示唆していた。

筆者は、年内3回利下げ予想据え置きをメインシナリオに掲げるが、4.9%即ち年内2回の利下げへ修正されるリスクに留意しておいた方がよさそうだ。
なお、19名のFOMC参加者の内、2名がFF金利見通しを上方修正すれば、年内利下げ予想・中央値は3回から2回の利下げ示唆に転じる。

WSJ紙のFedウォッチャー、3月FOMC観測記事はハト派寄り

冒頭に紹介したWSJ紙のFedウォッチャー、ニック・ティミラオス記者の足元の配信内容を振り返ってみよう。
同氏は3月14日に、X(旧ツイッター)でブルッキングス研究所の試算を基に「移民の人口増加を受け、失業率を安定推移させる上で必要な非農業部門就労者数(NFP)の伸びは前月比20万人増」と投稿した。
失業率を上昇させない上では、NFPは従来想定された水準を超えた伸びが必要というわけで、これはハト派寄りと判断できる。

3月17日付けの3月FOMC前の観測記事でも、「積極的な引き締め後も米経済は堅調の議論は終焉に向かう」と報道。
これまではコロナ禍で成立した財政出動や、移民の増加が供給を拡大させ米経済を支えてきたが、今後は①高金利による利払い負担増に喘ぐ企業と家計、②コロナ前の水準以下となった中低所得層の貯蓄、③政府とヘルスケア以外の雇用が示すような労働市場の減速――を受け、どれだけの利下げが必要かを議論する見通しと示唆した。
米2月CPIなどインフレ再燃に軸足を置いた観測記事とは言い難い。

パウエルFRB議長は、利下げの条件にインフレ率の明確な鈍化を求めず?

肝心のパウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長の発言を振り返ると、3月6~7日に米下院金融サービス委員会と米上院銀行委員会で半期に一度の議会証言を行い、「年内いずれかの時点で利下げが適切」との見解を寄せた。
インフレについては物価目標2%への回帰にコミットしていると述べつつ、「これまでよりも良いインフレ指標を求めているわけではなく、ただ(利下げへの確信が)持てるように、多くのデータを求めているだけだ」と明言。利下げへの転換に、インフレ率の明確な鈍化を挙げていなかった。

また、イエレン財務長官も米2月CPI公表後の3月13日、住宅主導で「インフレは鈍化」、「毎月順調に進展すると考えていないが、トレンドとしては明らかに良好」と言及していた。

筆者が年内3回の利下げ予想据え置きをメインシナリオとする理由は、WSJ紙の3月17日の報道に加え、パウエルFRB議長やイエレン財務長官の発言に依拠する。
繰り返すがコアCPIについては鈍化トレンドをたどり、米2月PPIの上振れも原油高の影響が考えられる。
何より、前回のレポートで指摘したように、失業率の上昇には「一時的ではない解雇者」の増加が寄与していた。

バイデン大統領は3月8日、ペンシルベニア州で行った演説で「保証はできないが、金利がもっと下がるのは間違いない」と発言したが、こうした労働市場の変調もあって、政治的な利下げ圧力が強まりかねない。
FRBは政府から独立した機関だが、2019年7月にトランプ大統領(当時)の圧力に屈し、3回の予防的利下げを行ったことを、バイデン政権は忘れていないはずだ。

株式会社ストリート・インサイツ代表取締役・経済アナリスト 安田佐和子

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株式会社ストリート・インサイツ代表取締役・経済アナリスト 安田佐和子

世界各国の中銀政策およびマクロ経済担当の為替ライターの経験を経て、2005年からニューヨークに拠点を移し、金融・経済の最前線、ウォール街で取材活動に従事する傍ら、自身のブログ「My Big Apple NY」で現地ならではの情報も配信。
2015年に帰国、三井物産戦略研究所にて北米経済担当の研究員、双日総合研究所で米国政治経済や経済安全保障などの研究員を経て、現職。
その他、ジーフィット株式会社にて為替アンバサダー、一般社団法人計量サステナビリティ学機構にて第三者委員会委員を務める。
NHK「日曜討論」、テレビ東京「モーニング・サテライト」の他、日経CNBCやラジオNIKKEIなどに出演してきた。
その他、メディアでコラムも執筆中。
X(旧ツイッター):Street Insights
お問い合わせ先、ブログ:My Big Apple NY


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