前回衆院選の結果を的中させた朝日新聞、自公の過半数は「微妙な情勢」
朝日新聞は10月20日、「自公過半数、微妙な情勢」と報道し衝撃が走った。
10月27日に投票日を迎える衆議院総選挙での議席獲得見通しは自民が200議席、公明が25議席、非公認の自民の議員が5議席で、合計230議席と報道。
石破首相が掲げる「与党で過半数233議席」以下になるという。
朝日新聞は、全国約36万人の有権者を対象に電話とネットを使った調査であるだけに、情勢を把握する上で金融市場関係者を始め重要視される。
英系証券のチーフエコノミストによれば、「前回2021年の衆院選を唯一的確に予測した実績がある」ためだ。
当時、首相が菅氏→岸田氏に交代してまもない時期で、自民党が苦戦する見通しだったが、朝日新聞は自民党が251〜279議席で過半数を上回ると予想、実際の議席数は見事に予想レンジの中央値付近の261議席に至った。
終盤の情勢も、自民への逆風を感じさせる。
読売新聞が10月24日に世論調査結果に全国の総支局の取材を加え報じたところ、自民候補266人のうち、優位な候補者は序盤の102人から87人に減少、接戦も増えた。
比例選の獲得議席は、前回2021年の72から50台に減らす可能性があり、単独過半数獲得の公算は極めて低い。
加えて、公明党も公示前の議席を減らしかねない情勢。
受け皿となっているのは、立憲民主や国民民主で、それぞれ公示前の議席数を上回る見通しだ。
日本維新の会は関西圏で優勢を確保する程度で、公示前の議席数を維持できるか不透明だという。
選挙直前の10月23日、共産党機関紙の「しんぶん赤旗」が飛ばしたスクープも、戦況に影響すること必至だ。
裏金問題を抱え自民党が非公認とした12人のうち、8人が代表を務める政党支部にまで、2,000万円を配っていた事実が発覚。
石破首相は「政党支部に出しているのであって、非公認候補に出しているのではない」と弁明したが、公認料の500万円と活動費1,500万円と同額なだけに、国民民主の玉木雄一郎代表は「ステルス公認」と糾弾した。
自民は、衆院選の公約に「日本を守る。成長を力に。」を掲げ、石破首相は「ルールを守る」と宣言していたが、有権者への約束を守らなかったと批判されかねない。
支払われた側として、裏金問題を受け衆院選で非公認となった萩生田光一氏は「ありがた迷惑な話だ」と憤慨するが、有権者の投票行動で審判が下るのだろう。
自公過半数割れなら、日銀の追加利上げに不透明感
自民と公明の与党は公示前に279議席を有していたため、47議席以上を失えば過半数の233議席割れとなる。
当初は自公が過半数を維持するとの見方が強かったが、足元では、日本テレビが「自公過半数はギリギリの情勢」と報道するように、選挙後の政界の見通しは不明瞭だ。
チャート:公示前の議席数
自公が過半数割れとなれば、政局の波乱懸念からロイターは「株安やリスク回避の円高が急速に進むのでは」との見方を伝える。
これまで選挙結果はほぼ無風だったが、「今回は違う」展開を迎えてもおかしくない。
仮に自公が過半数割れとなれば、2つのシナリオが見込まれる。
1つは、立憲民主が多数派に出る場合だが、足元の議席数が98とあって、現実的とは言い難い。
むしろ、2つ目の連立拡大が視野に入る。
その場合は、最大野党の立憲民主ではなく、対象は維新の会か国民民主となりそうだ。
どちらの代表も、足元では連立入りの可能性に否定的だが、絶対ないとは言い切れない。
その際、留意すべきは維新の会と国民民主のマニフェストだ。
維新の会は、「日銀法を改正し日銀の目的として物価の安定・雇用の最大化・名目経済成長率の持続的な上昇の3点を明記」すべきと主張する。
国民民主は「高圧経済によって経済低迷の原因である賃金デフレからの脱却」を掲げる。
チャート:主な野党の金融政策などに係るマニフェスト
維新の会の音喜多政務調査会長は7月31日、日銀の追加利上げ決定に対しX(旧ツイッター)にて「賃上げも不透明なこのタイミングでの利上げには疑問が残る」と批判。
国民民主の玉木代表も、9月に米連邦公開市場委員会(FOMC)が0.5%利下げを決定した9月19日に「日銀にも、マーケットと丁寧に対話しながら、賃上げに最大限配慮した対応を期待したい。
今は、追加利上げを急ぐべきではない」と主張していた。
ブルームバーグが10月、エコノミスト53人を対象に調査したところ、追加利上げの時期について「12月」が53%、「2015年1月」が32%で、合計85%が年明け1月までの利上げを予想していた。
しかし、連立拡大で日銀の追加利上げ期待がはく落すれば、短期的に政治波乱を嫌気しドル円が下落しても、一時的にとどまりうる。
今回の衆院総選挙後に、ドル円が乱高下するリスクに留意すべきだろう。
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株式会社ストリート・インサイツ代表取締役・経済アナリスト 安田佐和子
世界各国の中銀政策およびマクロ経済担当の為替ライターの経験を経て、2005年からニューヨークに拠点を移し、金融・経済の最前線、ウォール街で取材活動に従事する傍ら、自身のブログ「My Big Apple NY」で現地ならではの情報も配信。
2015年に帰国、三井物産戦略研究所にて北米経済担当の研究員、双日総合研究所で米国政治経済や経済安全保障などの研究員を経て、現職。
その他、ジーフィット株式会社にて為替アンバサダー、一般社団法人計量サステナビリティ学機構にて第三者委員会委員を務める。
NHK「日曜討論」、テレビ東京「モーニング・サテライト」の他、日経CNBCやラジオNIKKEIなどに出演してきた。
その他、メディアでコラムも執筆中。
X(旧ツイッター):Street Insights
お問い合わせ先、ブログ:My Big Apple NY
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