日本は「緑のバケツ」の先頭?ブレトンウッズ体制の再構築とは

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ベッセント財務長官、狙いは中国の抜け穴を塞ぐ国際経済体制作り?

映画「The Bucket List(邦題:最高の人生の見つけ方)」といえば、余命6カ月を宣告された男性2人が、死ぬ前にやり残したことを実現すべく共に冒険に飛び出す作品で、大ヒットした。
原題を直訳すると「バケツ」のリストだが、諸説あるなか、バケツに棺桶との意味が含まれることから「kick the bucket=(死ぬ)」との英語表現に由来すると言われる。

しかし、ビジネス英語で「バケツ」になると別の意味をもち、整理や分析のために使用されるカテゴリーやグループを指す。
ベッセント財務長官は、関税をめぐり各国・地域を「緑のバケツ」、「黄色のバケツ」、「赤いバケツ」の3つに分類するのも、そのためだろう。

トランプ政権といえば、相互関税を世界秩序の転換を図る上で、各国との交渉カードとして活用したと、過去のコラムで指摘した。
特に相互関税については、中国包囲網を構築する上での「踏み絵」と位置づけていたのだろう。
その流れで、ベッセント財務長官が4月24日に行った国際金融協会(IIF)の講演は、3月6日の講演に続き重要だ。
主なポイントは、以下の通り。

  • ・私の目標は、国際金融システムの均衡を回復させる青写真を策定すること
  • ・(トランプ政権の関税措置)よりバランスの取れた国際システムを構築するため
  • ・「アメリカ・ファースト」は「アメリカ孤立主義」を意味せず、むしろ、それは貿易パートナー間でのより深い協力と相互尊重を求める呼びかけ
  • ・「アメリカ・ファースト」はIMFや世銀のような国際機関における米国のリーダーシップの拡大を目指す
  • ・IMFは、中国のように数十年にわたり世界経済をゆがめる政策や不透明な為替政策を追求してきた国々を批判すべき
  • ・世銀が、世界第2位の経済規模を誇る中国を「発展途上国」として扱うことは荒唐無稽

画像:トランプ政権の経済政策を取り仕切るベッセント氏
画像:トランプ政権の経済政策を取り仕切るベッセント氏
(出所:Treasury Secretary Scott Bessent/X)

日経新聞は、ベッセント氏のIIF講演について「ブレトンウッズ体制の再構築」と解釈した。
仮にその通りであれば、ベッセント氏が3月6日の講演で開始を宣言した「国際経済体制の再構築プロセス」は、米国主導のブレトンウッズ体制の再構築に他ならない。
そして、新自由主義体制で中国が最大の受益者となったような抜け穴を塞ぐ意思を明確化したと言えよう。

日本、「緑のバケツ」の先頭を切るのか否か

では、話をバケツに戻そう。
ベッセント氏は、関税をめぐり各国・地域を緑、黄、赤のバケツに分類するが、概して緑は同盟国、黄色は友好国でも敵対国との関係を持つ国、赤は敵対国を指す。
さらに、緑のバケツを定義する上で、①価値観の共有、②経済の共有、③防衛の共有、④通貨目標の共有――が可能な国と定義する。

緑のバケツは、日本や英国、豪州、韓国などが考えられる。
その中で、まずトランプ政権が先行して日本と通商交渉を開始し「最優先」と位置づけたのは、ベッセント氏がいう、①価値観の共有、②経済の共有、③防衛の共有、④通貨目標の共有――に最も該当する国と認識されたためではないか。

もっとも、ベッセント氏は加藤財務相との日米財務相会談前の4月23日に「通貨目標を求めない」と説明した。
G7合意の順守を求めた程度であり、G7合意と言えば、2013年2月にG7財務相・中央銀行総裁による緊急声明で盛り込まれた「為替は市場で決定されるべき」との原則を視野に入れたものだろう。
従って、日米間で「プラザ合意2.0」のような為替水準を視野に入れた取りまとめができるとは考えづらい。

ただ、当時の声明に従えば「為替市場における行動に関して緊密に協議すべき事を再確認」が盛り込まれた。
ここで思い出されるのが、ウクライナ戦争後の対ロシア包囲網だ。
2022年2月、米国を始め西側諸国は、ロシアの複数銀行を国際決済システム「SWIFT」から切り離すことで合意した。
過去を振り返ると、米国は2018年にもイランをSWIFTから排除してきた。
仮に、米中貿易戦争が苛烈さを増し、制御不能となって中国が南シナ海での軍事的脅威を強め、台湾有事に発展するリスクが生じるなら、米国は中国をSWIFTから締め出すシナリオを想定しても、不思議ではない。

チャート:国際決済で最も使用される通貨は、引き続きドルが2025年3月に49%
チャート:国際決済で最も使用される通貨は、引き続きドルが2025年3月に49%

あくまで最悪のシナリオであり、ブルームバーグが4月25日に中国政府は米国に対する125%の報復関税について、米国からの一部輸入品を対象から除外することを検討中と報じたように、動向は流動的だ。
ただ、ベッセント財務長官が「国際貿易システムは軍事、経済、政治という複雑な関係の網で構成される」と明言済み。
果たして日本は、そこまで「価値観を共有」し、緑のバケツのグループとして先陣を切ることができるのか。
日米交渉の進展を待ちたい。

株式会社ストリート・インサイツ代表取締役・経済アナリスト 安田佐和子

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株式会社ストリート・インサイツ代表取締役・経済アナリスト 安田佐和子

世界各国の中銀政策およびマクロ経済担当の為替ライターの経験を経て、2005年からニューヨークに拠点を移し、金融・経済の最前線、ウォール街で取材活動に従事する傍ら、自身のブログ「My Big Apple NY」で現地ならではの情報も配信。
2015年に帰国、三井物産戦略研究所にて北米経済担当の研究員、双日総合研究所で米国政治経済や経済安全保障などの研究員を経て、現職。
その他、ジーフィット株式会社にて為替アンバサダー、一般社団法人計量サステナビリティ学機構にて第三者委員会委員を務める。
NHK「日曜討論」、テレビ東京「モーニング・サテライト」の他、日経CNBCやラジオNIKKEIなどに出演してきた。
その他、メディアでコラムも執筆中。
X(旧ツイッター):Street Insights
お問い合わせ先、ブログ:My Big Apple NY


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