米2月雇用統計、労働参加率は低下も失業率は上昇
「米2月雇用統計、高まる不確実性を示唆」――米カンファレンス・ボードが掲げた評価だ。
米2月雇用統計を振り返ると、非農業部門就労者数(NFP)は前月比15.1万人増と、前月の12.5万人増(14.3万人増から下方修正)を上回ったが、市場予想の16万人増を下回った。
家計調査をみると、雇用形態別ではフルタイムが同122万人減だった一方で、パートタイムが同61万人増、複数の職を持つ者が同9.6万人増とあって、労働市場の質の低下は否めない。
なお、1月にフルタイムが急増したが、これは人口推計の変更に伴うものだ。
チャート:雇用形態別で、フルタイムのみ急減
米労働市場の「変曲点」の接近も、確認できた。
労働参加率が62.4%と2023年1月以来の水準に落ち込んだ一方で、失業率が前月の4.0%→4.1%に上昇。
労働参加率の低下は職探しをする失業者の減少を示す場合が多いため、失業率もつれて低下する傾向があるが、今回は失業率が弱含んでおり、堅調だった米労働市場の明らかな変化と言える。
失業率が上昇した理由は、主に2つ。
1つは、失職者数(一時的な解雇ではなく再編やM&Aを含む会社都合での解雇者、派遣など契約が終了した労働者)の増加で、2月は前月比9.9万人増の250万人と2カ月連続で増加した。
もう一つは労働市場へ再参入した人々の間での失業者の増加で、前月比8.4万人増の221万人と21年9月以来の高水準だった。
トランプ政権下での関税のほか、税制改正法の延長などの行方が不透明な上、米景気が減速するなか、企業が徐々に人員を絞り、採用にも慎重となっている証左だ。
チャート:失職者数は2カ月連続で増加
チャート:再参入者の失業者も2カ月連続で増加
また、不完全雇用率(経済的な理由でフルタイムを希望するものの、パートタイムを余儀なくされている労働者など)が前月の7.5%から8.0%と、21年10月以来の水準へ急伸した。
家計調査の雇用形態別で、パートタイムと複数の職を持つ者が増加した結果と整合的だ。
チャート:不完全雇用率、2月に急伸
米労働市場、DOGEの存在が一段の逆風に?
米労働市場の逆風として、懸念されるのが政府効率化省(DOGE)の歳出削減とリストラだ。
DOGEがXに投稿した内容に基づいて試算するDOGEライブトラッカーによれば、3月10日時点での歳出削減は約1,050億ドル。
リストラ動向をみると、DOGEは郵政公社を除く米連邦政府職員、約230万~240万人に退職勧奨を行い、試用期間とみなされる勤務1-2年未満の職員約20万人のリストラにも着手した結果、ロイターによれば約10万人が米連邦政府を去ったという。
ただ、米2月雇用統計のNFPでは、DOGE効果は限定的に見える。
政府の雇用は前月比1.1万人増で、これは州・地方政府が同2.1万人増だったためだが、米連邦政府は同1.0万人減にとどまった。
従って、2月に限っていえば米連邦政府の雇用削減が失業率を押し上げたとは言い難い。
2023年以降の失業率上昇局面を振り返ると、就業者とのバランスもあり、失業者が平均で前月比20.3万人増となった場合に失業率を押し上げてきた。
2月の家計調査では、就業者が同58.8万人増のところ、失業者が同20万人増となり、2023年以降のトレンドと一致する。
つまり、米連邦政府の職員の減少のみで、失業率を押し上げるとは考えにくい。
チャート:失業率上昇局面での失業者の増加
トランプ政権下、政府機能の民間部門へのシフトで労働市場が「回復」も?
もちろん、米連邦政府の歳出削減やリストラが民間の下請け業者に影響し雇用削減が広がるリスクもある。
ただし、トランプ政権は政府機能を民間部門へ移行させる狙いがあるだけに、歳出全てが「蒸発」するリスクは小さいのではないか。
トランプ政権が税制改正法の延長を含めた減税に取り組んでいることも、忘れるべきではない。
米労働市場は確かに変曲点に近づきつつあるが、トランプ大統領が3月9日のFOXインタビューで語ったように「過渡期」の一環である可能性も捨てきれない。
足元が「過渡期」であれば、政府機能へのシフトが進んだ後に労働市場が明るさを取り戻す余地がありそうだ。

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株式会社ストリート・インサイツ代表取締役・経済アナリスト 安田佐和子
世界各国の中銀政策およびマクロ経済担当の為替ライターの経験を経て、2005年からニューヨークに拠点を移し、金融・経済の最前線、ウォール街で取材活動に従事する傍ら、自身のブログ「My Big Apple NY」で現地ならではの情報も配信。
2015年に帰国、三井物産戦略研究所にて北米経済担当の研究員、双日総合研究所で米国政治経済や経済安全保障などの研究員を経て、現職。
その他、ジーフィット株式会社にて為替アンバサダー、一般社団法人計量サステナビリティ学機構にて第三者委員会委員を務める。
NHK「日曜討論」、テレビ東京「モーニング・サテライト」の他、日経CNBCやラジオNIKKEIなどに出演してきた。
その他、メディアでコラムも執筆中。
X(旧ツイッター):Street Insights
お問い合わせ先、ブログ:My Big Apple NY
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