トランプ氏が相互関税の導入を表明、日本は「為替」と「消費税」で対象に?
トランプ氏は2月14日、貿易相手国と同率の関税を課す「相互関税」の導入に向け、米商務省や米通商代表部(USTR)など関係省庁に調査を行うよう指示する覚書に署名した。
相互関税をめぐる調査の期限は、4月1日となる。
なお、覚書とは根拠法を示さず、ガイドラインや指示として機能し、官報に記載されない。
一方で、米大統領令(行政令)は根拠法を示す必要があり法律と同等にみなされ、官報に記載される。
直前の報道通り、市場が懸念していた即時発動は回避したが、トランプ氏は「公平を期すために、相互関税を課す方針」と発言。
貿易赤字の削減を狙い、貿易相手国の関税に加え、幅広い措置を対象とする方針を明確化した。
ラトニック商務長官が「各国と個別に交渉していく」と説明したように、適用する製品や関税率などは対象国の調査結果次第となる。
チャート:相互関税に関する覚書、調査要件
このうち、②についてトランプ氏は「付加価値税(VAT)を関税と呼ぶ、本質的には同じだ」と位置づけた。
欧州連合(EU)の加盟国が全ての輸入品に対するVATを導入しているだけに、同地域に照準を当てた要件ととらえられよう。
もっとも、日本の消費税は輸入品を含め国内で販売される商品全てに課されるが、米国で連邦消費税が導入されていないため日本の対米輸出品に課されない、との指摘もある。
③の補助金を含めた非関税障壁は、中国が意識されているかのようだ。
④の為替レートの観点でいえば、中国だけでなく、日本を念頭に入れていてもおかしくない。
⑤の不公平な市場アクセス制限や構造障害でいえば、グーグルなど米企業の進出を阻止する中国のほか、日本も対象となりかねない。
このうち、日本の消費税がVATと位置付けられるかが、物議を醸している。
EUのVATとの決定的な違いは、輸入品と国内生産品全てに課すという点だ。
ただ、全米では州ごとに消費税が課されており、これは日本の消費税と同様のものだが、トランプ政権がどのように判断するかは不透明である。
世界銀行が公表する単純関税率中央値の2022年ベースで、日本は2.0%と、米国の2.7%を下回る。
ナバロ大統領上級顧問が、記者団に「日本の関税は比較的低いが、高い構造的障壁がある」と言及するなか、加藤財務相は15日、日本政府として相互関税の対象外となるようトランプ政権と意思疎通を開始したと表明した。
チャート:世銀ベースの単純関税率中央値、日本は米国より下だが他のベースでは小幅に上回る場合も
自動車関税も導入か?トランプ政権の真意とは
トランプ2.0では、一律追加関税の導入が懸念されていたが、トランプ氏は1月27日に国家安全補保障上で重要な「半導体、医薬品、鉄鋼・アルミ」の3分野に関税を課す方針を表明。
トランプ氏はまず、2月10日に鉄鋼・アルミ追加関税25%を課す米大統領令に署名した。
その3分野以外の自動車にも、トランプ関税の矛先が向けられつつある。
相互関税の覚書署名に合わせた2月14日の記者団との会見で、トランプ氏は自動車関税について「恐らく4月2日頃になるだろう」と言及した。
エイプリル・フールにあたるためジョークとみなされない意識が働いたほか、相互関税の調査期限の4月1日と歩調を合わせる狙いがあったと考えられる。
日本の対米輸出のうち、金額ベースで最大は自動車(トラック・バスを含む)で2024年は速報値ベースで6兆261億円、28.3%を占めた。
日本は米国産の自動車に関税を課さないが、米国はピックアップトラックなどを除き2.5%を賦課する状況で、仮に関税率をマッチさせる上では相互関税の対象となるようには見えない。
もっとも、日本の自動車については1期目から不公平性を主張しつつ、追加関税が見送られた。
今回も日本が対象外となるかは、相互関税全体を含め4月1日の調査期限までに「ディール」にこぎつけられるかがカギとなりそうだ。
チャート:日本の対米輸出、品目別シェア
トランプ政権、関税は中国の迂回輸出封じ込めが狙いも?
トランプ政権は、関税について①貿易不均衡の是正(貿易赤字縮小)、②歳入の増加、③外交など交渉カード――と位置付けてきた。
日本が自動車や相互関税の対象とならないようにするためには、①か③で解決の糸口を探す必要があるだろう。
解決の糸口のひとつに相互関税の調査要件があり、そのなかに「為替と賃金抑制、輸入規制」が挙げられている。
ベッセント財務長官は14日、FOXとのインタビューで「為替操作も(調査の)念頭に入れている」と発言。
米国は強いドル政策を採用する一方、「他国が通貨安政策を講じることを意味しない」と釘を刺していた。
ベッセント氏が日米首脳会談前に植田日銀総裁とオンライン会談を行っていた事情に加え、一連の発言内容(前回のレポートをご参照)を踏まえれば、日本に金利正常化と円安の是正を促していると考えるのが自然だろう。
チャート:ベッセント発言、関連ニュース一覧
とはいえ、相互関税や自動車関税、鉄鋼・アルミへの25%追加関税(3月10日発動予定)について、日本のような同盟国を狙った貿易不均衡是正だけが狙いかと言えば、疑問が残る。
例えば、鉄鋼・アルミ関税でいえば、中国は世界の粗鋼生産量の約50%を占める世界1位。
同時に、鉄余りの状況で、各国に安価で鉄を大量に輸出しているとされ、内需低迷にあえぐ中国の鉄鋼輸出は2024年に1億1,072万トンと、同じく経済冷え込みを受け人民元切り下げを余儀なくされた2015年の1億1,240万トンに次ぎ、過去2番目の高水準だ。
米国の鉄鋼輸入量の国別ランキングをみると、1位はカナダ、2位はブラジル、3位がメキシコ、4位は韓国、5位はベトナムで、中国は10位である。
ベトナムに至っては2021年の9位から、2024年には5位へ急伸した。
その陰で、ブラジルとベトナムは、中国からの鉄鋼輸入比率(金額ベース)がそれぞれ2021年の39%→51%、30%→46%へ急伸。
中国からの迂回輸出が影響していたとしてもおかしくない。
チャート:米国の鉄鋼輸入量、2024年の国別ランキング
チャート:各国別の鉄鋼輸入額、中国の割合
もうひとつ、自動車でいえば、メキシコにも中国からの迂回輸出疑惑が生じている。
トランプ氏が米大統領選挙中、問題視していたのは、メキシコを経由した中国による米国への迂回輸出だ。
特に、メキシコは2020年から中国に対し自動車関税を20%から0%へ引き下げ、中国からの自動車輸入が指数関数的に急増。
メキシコにおける2017年の中国の自動車関連の輸入のシェア(金額ベース)は2017年の0.5%から、2023年に26%と、米国を抜いて首位に躍り出た。
チャート:メキシコの自動車関連輸入の国別割合、2023年に中国が米国を抜いて首位
以上の数字を踏まえれば、トランプ政権の相互関税や自動車関税は、中国による迂回輸出の封じ込めが真の狙いで、関税はその手段と解釈できるのではないか。
日本が相互関税の対象外となる上で、①金利の正常化と円安是正、②中国迂回輸出をめぐる対応策での米国との協調――がカギを握ると考えるのは早計だろうか。
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株式会社ストリート・インサイツ代表取締役・経済アナリスト 安田佐和子
世界各国の中銀政策およびマクロ経済担当の為替ライターの経験を経て、2005年からニューヨークに拠点を移し、金融・経済の最前線、ウォール街で取材活動に従事する傍ら、自身のブログ「My Big Apple NY」で現地ならではの情報も配信。
2015年に帰国、三井物産戦略研究所にて北米経済担当の研究員、双日総合研究所で米国政治経済や経済安全保障などの研究員を経て、現職。
その他、ジーフィット株式会社にて為替アンバサダー、一般社団法人計量サステナビリティ学機構にて第三者委員会委員を務める。
NHK「日曜討論」、テレビ東京「モーニング・サテライト」の他、日経CNBCやラジオNIKKEIなどに出演してきた。
その他、メディアでコラムも執筆中。
X(旧ツイッター):Street Insights
お問い合わせ先、ブログ:My Big Apple NY
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