用語解説

経常収支とは|日本の推移や今後の見通しなどを詳しく解説


経常収支とは、一定期間における財やサービスなどの対外経済取引の記録で、「貿易・サービス収支」「第一次所得収支」「第二次所得収支」で構成されます。

本記事では、経常収支の意味や推移、よくある質問を詳しく解説していきます。

経常収支とは

経常収支の意味と、貿易収支との違いについて説明します。

  • ・意味
  • ・貿易収支との違い

意味

経常収支は、国際収支統計の構成項目の1つです。

財やサービスなどについて、一国の外国とのやり取りを記録しています。

国際収支統計には「3本柱」があります。

  • ・経常収支
  • ・資本移転等収支
  • ・金融収支

3本柱の1つである経常収支は、以下の3つの収支の合計です。

  • ・貿易・サービス収支
  • ・第一次所得収支
  • ・第二次所得収支

国際収支統計の項目

国際収支の項目の中でも、経常収支は特に重要な項目として注目されます。

貿易収支との違い

貿易収支は、経常収支の一部です。

経常収支は「貿易・サービス収支」「第一次所得収支」「第二次所得収支」から成り、貿易収支は「貿易・サービス収支」に含まれます。

経常収支の内訳

経常収支の内訳について解説します。

  • ・貿易収支・サービス収支
  • ・第一次所得収支
  • ・第二次所得収支

貿易収支・サービス収支

貿易収支とは、財貨(物)の輸出入の収支を示し、居住者と非居住者の間での取引のことを指します。

サービス収支とは、サービス取引の収支を表します。

輸送(国際貨物、旅客運賃の受け取り・支払いなど)や旅行(旅行者の宿泊費や飲食等の受け取り・支払いなど)、知的財産権などの使用料、その他手数料などを指します。

貿易収支は有形財(モノ)の取引、サービス収支は無形財(サービス)の取引にあたります。

第一次所得収支

第一次所得とは、雇用者報酬(労働の対価としての報酬)と、投資収益のことです。

投資収益には「直接投資収益」「証券投資収益」「その他投資収益」があり、それぞれの内容は以下の通りです。

  • ・「直接投資収益」=親会社・子会社間の配当金や利子の受け取り・支払い
  • ・「証券投資収益」=株式配当金や債券利子の受け取り・支払い
  • ・「その他投資収益」=貸付・借入・預金などに係る利子の受け取り・支払い

第二次所得収支

第二次所得とは、無償で提供された経済価値のことです。

例えば、官民の無償資金協力、寄付や贈与の受け払いの計上にあたります。

日本の経常収支の概要

経常収支の概要は、毎月財務省によって発表されています。

下図は、2024年7月時点の経常収支の概要です。

日本の経常収支の概要
参考:財務省(※画像は弊社で作成)

日本の経常収支の推移

日本の経常収支の推移は、下図の通りです。

2007年(平成19年)をピークに、2014年(平成26年)まで減少傾向にありましたが、2015年(平成27年)以降は回復し、概ね同水準で推移しています。

日本の経常収支の推移

日本の経常収支の見通し

財務省「国際収支から見た日本経済の課題と処方箋」(2024年3月26日)を参考に、日本の経常収支の現状と見通しをまとめます。

サマリーは以下の通りです。

  • ・経常収支:経常収支黒字が縮小または赤字化する見通し
  • ・貿易収支:2011年以降、黒字と赤字を行き来している
  • ・サービス収支:恒常的な赤字
  • ・第一次所得収支:黒字は一貫して増加

経常収支

経常収支は、1996年以降黒字で推移しています。

2023年については、「貿易赤字の縮小(背景には資源高の一服)」「サービス赤字の縮小(背景には過去最大の旅行収支黒字)」「過去最大の第一次所得収支黒字(背景には海外金利上昇等)」を背景に、経常黒字が拡大しています。

中長期的には、高齢化が進展する中で、貿易・サービス収支の赤字が定着・拡大し、経常収支黒字が縮小または赤字化する見通しです。

貿易収支

貿易収支は、2010年以前は恒常的に黒字だったものの、2011年以降黒字と赤字を行き来し、近年は貿易赤字傾向です。

自動車等の輸送用機器は一貫して大幅黒字ですが、原油などの鉱物性燃料が一貫して大幅な輸入超過。

電気機器は2023年に初の輸入超過を記録しています。

資源価格が上昇した年は、貿易収支が悪化する傾向にあります。

生産拠点の海外移転、自動車を除くと軸となる輸出産業が不在、資源を輸入に依存といった理由が、近年の赤字傾向の要因と考えられ、これが今後も継続しそうな見通しです。

サービス収支

サービス収支は恒常的な赤字です。

特に、デジタル分野は赤字が拡大しています。

一方、2023年には好調なインバウンドを背景に、旅行収支の黒字が過去最大規模になっています。

とはいえ、旅行収支が黒字になっていても、デジタル関連の赤字が拡大しており、サービス収支の恒常的な赤字は継続しそうな見通しです。

第一次所得収支

第一次所得収支は、黒字が一貫して増加し、2021年以降で毎年過去最高を更新しています。

ただし、2010年以降は円安で円建ての金額が増加している点に注意が必要です(増加の6割は為替要因)。

対外直接投資残高が拡大していく中で、2018年以降、対外直接投資収益が証券投資収益を上回っています。

対外直接投資収益の半分は海外で留保されています。

為替要因が大きいことに注意が必要ですが、第一次所得収支の黒字が継続しそうな見通しです。

経常収支に関するQ&A

経常収支に関してよく見られる疑問点は、以下の通りです。

  • ・経常収支が赤字だとどうなりますか?
  • ・国際収支統計とは何ですか?
  • ・日本の経常収支は黒字ですか?

経常収支が赤字だとどうなりますか?

経常収支の黒字(赤字)は、有形財・無形財の取引による収支の結果です。

日本の場合、一般的に需給の面から、経常黒字=円高、経常赤字=円安になりやすいと言われています。

経常収支が黒字ということは、取引の結果が支払いよりも受け取りが多いということになり、手元には外貨が残ります。

外貨を国内に持ち帰る際に円に換えるため、「円買い・外貨売り」が起きやすくなります。

赤字の場合は逆に、支払いのための外貨を準備するため、「円売り・外貨買い」が起きやすくなります。

ただし、実際には全ての収益を国内に持ち帰る(国内から支払う)わけではないため、経常黒字=円高(赤字=円安)と決定づけることはできません。

国際収支統計とは何ですか?

国際収支統計とは、IMF(国際通貨基金)が2008年に公表した「国際収支マニュアル第6版」に準拠する形で、一定期間の対外経済取引(日本と諸外国の経済取引)の全てを記録したものです。

外国為替及び外国貿易法に基づく各種報告を基礎資料とし、財務大臣から委任を受けて日本銀行が作成しています。

その国際収支統計の一部に、経常収支が含まれます。

日本の経常収支は黒字ですか?

2023年度の日本の経常収支は、25兆3390億円の黒字で、過去最高を記録しています。

また、2024年度の経常収支も黒字が予想されており、2年連続で過去最高を更新する見通しです。

日本の経常収支は以下のグラフの通り、1996年以降一度も赤字になったことがありません。

日本の経常収支の推移

しかし、今後は原油価格や円安などの様々な不安定要素による影響で、経常赤字国になる可能性も指摘されています。

【まとめ】経常収支とは|日本の推移や今後の見通しなどを詳しく解説

経常収支は、国際収支を構成する指標の1つで、財やサービスなどについて、一国の外国とのやり取りを記録しています。

日本は長期間にわたって経常収支の黒字が継続しています。

2024年にも黒字が予想されていますが、今後は経常赤字国となる可能性も指摘されています。

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