国債はどのように誕生したのか?オランダやイギリスの歴史から解説
国債とは国が借金をするためのひとつの手段であり、国が債券を発行することにより資金調達をするものです。資金の貸し手とすれば、確実に利子が支払われ、最終的には投資資金が返済されることが重要となります。そのために最も重要となるのが信用です。国債に対する信用はどのように編み出されたのでしょうか。それを知るためには金融の歴史を紐解く必要があります。
人類史上、大きな発明のひとつが貨幣です。古代中国やインドでは貨幣として貝が使われ、ほかの国では骨や、家畜、毛皮、穀物、塩なども使われていました。その後、商工業などの発達や、銅や銀の産出や加工といった技術の向上により、金属貨幣が幅広く使われ始めました。古代メソポタミアでは銀を貨幣の代わりとしたとの記録があります。
経済の発展とともにお金を介した取引が活発化し、さらにお金そのものの貸し借りも行われるようになります。お金を融通し合うという意味の金融取引が開始されたのです。ただし、国そのものが借金をする仕組みが整うためにはまだまだ時間が必要となりました。たとえば、古代ローマではローマ水道などのインフラの建設は税収のみで賄っていました。
しかし、属州からの税だけでは巨大な軍事費や貿易に関わる費用などは補いきれなくなり、この不足分はスペインの銀山から産出される銀に頼っていたのです。
中世ヨーロッパの国王は、領地などを担保に商人たちからお金を借り入れていたのですが、それが王位継承などにおいてデフォルト(債務不履行:元本の償還や利子の支払いが契約通りに行われないこと)されることも多く、国王の借金は商人の借金よりも高い金利が求められるほどだったのです。
政府による本格的な債務の調達
12世紀に入り、ベネチア、ジェノバなど北イタリア諸都市は、レヴァント貿易と呼ばれる東地中海の沿岸諸地域との貿易により国際的な商工業都市を形成しました。ベネチアでは、政府が交易で富を蓄積した商人たちから資金調達をするようになりました。その手段のひとつが十字軍遠征などの戦費調達のため市民からの強制借入であり、そのかわり市政府が利子を払うという貸付債券という仕組みが生まれました。
この貸付債券は市場で価格が形成されるなど投資対象としての信用度も高かったのです。また、ジェノバでは議会が元利返済のため税収を他の歳入から分離しシンジケート団に預け、その徴税権を担保に出資債券を発行して国に融資するという手段を講じました。このようにベネチア、ジェノバなど北イタリア諸都市において、本格的な政府による債務の調達が開始されたのが国債の起源と言われます。
これは債券さらには有価証券そのものの起源とも言えるものです。しかし、ベネチアとジェノバは幾度となく戦争を起こし、その結果、戦費拡大によって発行された債券がデフォルトを起こすなどしたことや、イタリア諸都市群の経済衰退により、政府の信用度が低下していきました。
オランダで形成された国債発行制度
16世紀に現在のオランダで国債の発行制度が形成されました。ハプスブルグ家のカール五世はフランスとの戦争のために巨額の資金が必要となり、領地であったネーデルランド連邦ホラント州の議会に元利金の返済のための税収を与え、その議会への信用を元にして国債の発行制度を確立したのです。
国王や皇帝に直接、お金を融資するにはリスクが伴います。借金を踏み倒される恐れや、国王には寿命もあるため、債務が引き継がれるのかどうかもわからないためです。その点、議会ならば永久機関であり、国王などよりも信用が高くなっていたのです。
貿易などによってネーデルランド、つまり現在のオランダの国民は豊かとなっており経済も発展していたことから、発行された国債を家計が購入するという資金の流れが確保できていたことも手伝い、オランダで国債の管理制度が整ってきました。
17世紀はじめのオランダは、商人が世界各地に進出し、ヨーロッパで最も経済が発達した国となりました。オランダでは株式会社に加え、銀行、複式簿記、為替手形、そして証券市場などが発達し、商業資本主義の基礎を築き上げたのです。1609年に市の条例で設立されたアムステルダム振替銀行の高い信用などを背景に、外国為替の割引も活発に行われました。
1530年に設立されたアムステルダム取引所では商品、為替、株式、そして債券などあらゆる種類の金融商品などが売買されていました。世界最初の株式会社であるオランダ東インド会社の設立も大きく影響し、アムステルダム取引所では多くの株式が集められ、その現物株式に加え、すでに株の先物やオプションの取引も行われたのです。
国債制度を確立させたイギリス
金融経済の中心地となっていたオランダの地位を奪い取ったのが、イギリスのロンドンです。1688年、カトリック国教化をはかるジェームズ二世の専制に対し、イギリス議会はオランダからオレンジ公ウィリアム三世を招請しました。オランダ軍を率いてイギリスに上陸したウィリアム三世はジェームズ二世をフランスに追放し、妻メアリ二世とともに王位につきました。いわゆる名誉革命です。これにより、権利章典が定められ、立憲君主制の基礎が確立されました。
ウィリアム三世はイギリスに渡る際にオランダの最先端の金融知識を有する金融業者を連れてきたことにより、英国で金融改革が進むこととなったのです。名誉革命により予算に関する議会の干渉と統制が強化されました。そして、課税や法制定には議会の承認が必要であると決められました。フランスとの戦争の費用調達に苦慮していた当時の政府は特定の税を担保とする借入、つまり国債発行を承認することとなり、1692年に国債発行に関する法律が議会を通過しました。
これにより法律に基づいて議会の保証が付与された国民の債務であるところの国債が発行されたのです。現在の国債制度がここで誕生したのです。将来にわたる利払いを確実にするため、国債が発行されるごとにその利払いに充当される新税が設けられ、これにより国債の元利金支払いの確実性が増したことで、大量の国債発行も可能になっていきました。この結果、名誉革命後のイギリスでは一度もデフォルトを起こさなかったこともあり、イギリス国債の信用力が高まることで、政府の資金調達が容易となったのです。
当初、イギリスの国債の保有者はごく一握りの特権会社に限られていました。イングランド銀行、東インド会社、そして南海会社です。ところが南海バブルの崩壊によって、この図式が崩れ、幅広い投資家を対象とした体制への変化が求められました。このため本格的な国の予算管理なども整えられ、さらなる流動性の確保などが進められていったのです。
国債の発行総額と期間をその都度、事前に明らかにし、割当請負制度を導入し、一回あたりの発行額を増加させ、毎回の発行形態を統一することで流動性を向上させました。特に流動性を向上させたことで、換金性の高い金融商品となり、国債が投資家にとり魅力ある金融商品となったのです。
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本記事の監修者・久保田博幸(くぼた・ひろゆき)
慶応義塾大学法学部卒業後、国内の証券会社に入社。1986年から14年間以上にわたり、債券現物・先物のディーリングを担当する。債券市場のホームページの草分け
「債券ディーリングルーム」を開設。また、幸田真音著『日本国債』(講談社)の登場人物のモデルとなる。専門は日本の債券市場の分析。特に日本国債の動向や日銀の金融政策に詳しい。現在、金融アナリストとしてヤフーニュース(個人)に記事を配信している。また「牛さん熊さんの本日の債券」というメルマガを配信中。日本アナリスト協会検定会員。主な著書に『日本国債先物入門』(パンローリング)、『債券の基本とカラクリがよーくわかる本』(秀和システム)、『中央銀行と金融政策がよくわかる本』(秀和システム) など多数。
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