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米国雇用統計とは?現役トレーダー志摩力男氏が徹底解説


米雇用統計は経済指標の花形です。

重要な経済指標は数多くあり、その時々で流行があります。
一時的に米雇用統計以上に注目度が高くなる経済指標もありますが、年に渡り、重要イベントとして注目され続けてきたのは、米雇用統計をおいて他にありません。

中には、発表にあわせてライブ配信を行うYouTuberの人もいて、それだけ注目度が高い経済指標です。

米雇用統計は注目度が高いのは、発表直後の値動きが大きいことが要因です。
さらに、その値動きが次のトレンドになることもあります。

例をあげると、2023年1月6日の米雇用統計後、ドル円は以下のように動きました(発表時間22時30分)。

2023年1月6日の米雇用統計後のドル円の動き

発表前までは134.50−134.70円前後だったマーケットが、発表のタイミングである22時30分をさかいに大きく動き、20分後の22時50分には133.30円に達しています。
発表後の僅かな時間で1円以上動いたのです。

発表時の22時30分のロウソク足を見ると、高値が134.70円辺り、安値が133.70円前後で1円ほどの開きがありました。
発表された数字を見て、134.70円を買った人もいれば、133.70円を売った人もいたことがわかります。

実際に私も発表の瞬間の値動きを見ていましたが、このロウソク足、同じ数字を見て、なぜ見方が分かれるのかを考察しました。
要因として、この発表直後の数字の解釈が(少し)難しかったからだと考えられます。
このとき発表された数字は以下の通りです。

                                                                                         
非農業部門雇用者数22.3万人(予想20.0万人)
失業率3.5%(予想3.7%)
平均時給(対前年比)+4.6%(予想+5.0%)
平均時給(対前月比)+0.3%(予想+0.4%)

米雇用統計は従来、非農業部門雇用者数が予想対比より大きいか、小さいかで、相場の方向性が決まっていました。
この時は予想20.0万人に対し、結果22.3万人という結果でした。

非農業部門雇用者数の次に重要とされますが失業率・失業率は事前の予想より0.2%低い3.5%でした。
この3.5%という数字は、コロナ発生直前2020年1月と同じレベルですが、それ以前に同水準の数字を探すと1969年11月まで逆上らなければなりません。
発表された3.5%は、それほどインパクトのある数字といえます。

非農業部門雇用者数と失業率の結果だけを見ると、従来であればドルは買われるように思えますが、実際にドル円は下落しました。

この時ドルが売られた要因は平均時給にあります。
平均時給の数字が、対前年比+4.6%と、予想の5.0%を下回りました。
対前月比も予想を少し下回る結果となり、この点がドル円下落の引き金と考えられます。

従来は非農業部門雇用者数や失業率の結果によってドル円が動くことが多かったにも関わらず、なぜ今回は平均時給の下落が上記の2つ以上に重要視されたのでしょうか。

昨今、人が取引をしているほかに、AI(artificial intelligence、人工知能)が自動売買を行っています。
AIが売買をどのように判断しているかは、外部からは誰もわからずブラックボックスですが、おそらく過去の統計の発表と値動きから判断していると推測できます。

過去の米雇用統計では非農業部門雇用者数の数字に合わせて売買していれば良かったので、この数字が事前予想の20.0万人を超えたことで、AIは発表直後、自動的に134.70円を買いに走ったと考えられます。

しかし、実際にドル円は下落しました。
この時のマーケットは何を見ていたのでしょうか。

この時の米経済最大の問題はインフレで、インフレ率を下げるのでFRBは急激に政策金利を引き上げざるをえない状況にありました。
インフレの要因には様々なものがありますが、コロナの影響で仕事を離れた人が多く、人手不足からくる賃金上昇もその大きな要因の一つでした。

平均時給が低下⇒インフレ圧力低下⇒FRBによる金融引き締め終了、金利低下、という連想が働き、ドル円が下落したといえます。

この一連の流れは重要なポイントです。
また、この部分がわかって初めて、ファンダメンタルズを理解しトレードで利益を出していけるといえます。

改めて、米雇用統計とはどのような経済指標なのか、基礎的な部分を確認していきます。
米雇用統計は米国労働省が発表する経済指標です。

米労働省労働統計局
U.S. Bureau of Labor Statistics (bls.gov)

実際の米雇用統計のニュースリリース(PDF)
The Employment Situation – December 2022 (bls.gov)

米雇用統計のニュースリリース

この発表資料には膨大な数の数字が含まれているので、まず以下の点を抑えるといいでしょう。

                                                 
米雇用統計
発表日時毎月第1金曜日
(夏時間)21時30分
(冬時間)22時30分
発表内容・非農業部門雇用者数
・失業率
・平均時給
・労働参加率  等々
発表機関米労働省労働統計局
(US Bureau of Labor Statistics)

非農業部門雇用者数

通常最も重要視される数字です。
農業部門を除く、民間企業や公的機関に雇用されている人の数、及びその増減を発表しています。
よく失業率の数字と矛盾する結果になることがありますが、この非農業部門雇用者数は事業者調査であり、家計調査である失業率とは異なる結果となるときがあります。

発表される数字は毎回改定されるので、その当月だけではなく、先月、先々月の数字がどのように改定されたか、合わせて判断することも重要です。

米国は毎年人口が増加します。
自然増+移民の数ですが、全人口が3億3328万人(2022年7月)なので、人口増が0.5%程度だった場合も160万人を超えた増加です。
毎月、15万人ぐらいの雇用増があって初めて失業率が一定に保たれます。

非農業部門雇用者数の最新データ

非農業部門雇用者数の最新データは、以下より確認できます。

失業率

米国内の失業者数を労働力人口(16歳以上の働く意思を持つ人達)で割った数字です。
非農業部門雇用者数と違い、家計調査から割り出される数字なので、非農業部門雇用者数とは違う結果が出ることも多くあります。
労働人口がダイナミックに変化するので、純粋な失業者数も重要ですが、コロナの影響で労働市場から退出する人が増える結果、失業率が低下する傾向もあります。

失業率の最新データ

失業率の最新データは、以下より確認できます。

平均時給

主要産業における1時間あたりの平均賃金の増減です。

平均時給の最新データ

平均時給の最新データは、以下より確認できます。

労働参加率

労働力人口を生産年齢人口(16歳以上のうち、高齢・疾病・犯罪等の理由で働けない人を除いた者)で割った数字です。
労働参加率は高齢化の影響で年々低下傾向にありましたが、コロナの影響で急低下しました。
この数字が回復しないことが、労働者不足を示しています。

労働参加率の最新データ

労働参加率の最新データは、以下より確認できます。


次回からは、個々の数字をさらに掘り下げて解説し、単純に市場予想を上回ったか下回ったか、だけではなく、数字の背景、過去の雇用統計で生まれた様々なドラマ等を解説していきます。
ファンダメンタルズを深く理解することで、マーケットに対応できる力を身につけていただけるようになっていただきたいと思います。

次回の記事は、以下からご確認下さい。
>米国雇用統計で取引を行う際の注意点を現役トレーダー志摩力男氏が徹底解説

記事執筆者:志摩力男(しまりきお)

慶應義塾大学経済学部卒。
ゴールドマン・サックス、ドイツ証券などの大手金融機関でプロップトレーダー(自己勘定トレーダー)を歴任。
その後、香港でマクロヘッジファンドマネージャーを務める。
独立後も世界各地のヘッジファンドや有力トレーダーと交流し、現在も現役トレーダーとして活躍中。


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