CPI(米消費者物価指数)が注目を集める理由やマーケットに与える影響を解説
このところ、米雇用統計以上に市場の注目を集めているのが、米消費者物価指数(CPI=Consumer Price Index)です。
実際に、指標発表後の値動きの大きさを見てみましょう。
画像:変動幅の違い
図では過去2年間の、指標発表後の値動きの大きさを比べました。
指標発表直前のドル円レートとその日のNY終値を比較しています。
ブルーの棒グラフが米CPI、オレンジが米雇用統計です。
両指標ともに、2022年夏頃まで値動きはあまり大きくなかったのですが、7月の指標(発表は8月)以降、値動きが大きくなっています。
目を引くのが米10月CPI(発表は11月11日)後の3.51%という大きな値動きです。
この日のドル円は高値146.59円、安値140.20円、6円39銭もの大きな値幅を伴い急落し、結果的にドル円が天井を付けた大きなシグナルとなりました。
2022年7月、8月、10月、11月のCPIは雇用統計を大きく上回る値動きになりました。
市場が物価の動きを景気よりも重要とみなしたからでしょう。
CPIの詳細については、以下の記事をご参考下さい。
>CPI(消費者物価指数)とは?計算方法やアメリカCPIとの違いを解説
物価の動きがなぜマーケットに影響を与えるのか
コロナという未知のウイルスへの対応、ウクライナにおける戦争等々、様々な要因で、米国は1980年台前半以来という、40年ぶりの高い物価上昇に見舞われています。
画像:米CPI対前年比
米国の中央銀行である連邦準備制度理事会(FRB)には、達成しなければならない「2つのマンデート(責務)」があります。
それは「物価安定」と「最大雇用」です。
「物価安定」に関しては、2%という明確な物価安定目標があります。
物価が2%を優に超えて上昇するならば、それを抑えるには金融政策を引き締めなければなりません。
為替市場には、米金利が上昇すればドルが上昇するという因果関係があります。
逆に、将来十分に米インフレ率が低下したならば、おそらくFRBは金融緩和に動き、最大雇用実現を目指すでしょう。
為替市場には、米金利が低下すればドルが下落するという因果関係があります。
ここで因果関係と書いたのは、理論的に明確な関係性があるからです。
しかし、実際のマーケットでは、必ずしもそのような結果にならない時もあります。
実際にどのように推移してきたか、見てみましょう。
インフレ率、米政策金利、ドル円はどのように推移してきたか
画像:ドル円と金利の関係性
緑のラインが米CPIの動きです。
2021年初頭から上昇を開始し、5月には5%台に乗せ、2022年初めには7%台に達しました。
インフレ率が上昇するのは、将来の金融引き締めが予想されます。
ドル円相場は、将来のFRB利上げを見越したことと、2月24日にロシアがウクライナに侵攻したこともあり、3月から上昇開始し始めました。
FRBによる政策金利の上昇は2022年3月からであり、遅きに失した感があります。
それまで「量的緩和政策」も同時に進めていたので、まず資産購入をゆっくりと中止するプロセス(テーパリング)を行ったことで、金融引締が遅れた面もありますが、当初、パウエル議長はインフレを「一時的」と考えていましたことが、対応の遅れを招いたといえます。
2020年夏のジャクソンホールでは、インフレは一時的で、中央銀行は過剰反応すべきでないというスピーチをしました。
本来、インフレ上昇⇒FRB金融引締⇒ドル円上昇、というプロセスのはずですが、FRBの金融引締(政策金利の上昇)を先取りする格好でドル円は上昇を開始しました。
そして、米CPIの上昇は2022年6月でピークを迎えました(6月数字が発表されるのは、翌7月)。
インフレがピークを打てば、米金利も低下し、ドル円も下がることです。
しかし、インフレがトップを打ったと断言するのは、難しいところがあります。その後の指標をいくつか見て、初めて結論できることです。
結果的には2022年6月のCPIが天井でしたが、この結論にたどり着くまでには、その後のCPI発表を見定めなければなりません。
10月のCPIは予想7.9%のところ7.7%と発表されました。
僅かな違いですが、ドル円の天井を確信させる数字でした。
インフレがピーク⇒米金利低下⇒ドル円下落、というのがセオリー的に正しい動きですが、いずれ米金利は下落するのを前提に、2022年10月のドル円は大きな調整となりました。
おそらく、今後も米CPIは雇用統計とともに、最も重要な経済指標の一つとして、注目を集め続けることになるでしょう。
なぜなら、2%という米インフレ目標まで、まだまだ長い道のりだからです。
米消費者物価指数 (CPI:Consumer Price Index) | |
発表日時 | 毎月第2~第3週 (夏時間)21時30分 (冬時間)22時30分 |
発表内容 | ・消費者物価指数(対前月比、対前年比) ・コア指数(変動の激しい食品とエネルギーを除いた数字、対前月比、対前年比) |
発表機関 | 米労働省労働統計局 (US Bureau of Labor Statistics) |
URL | https://www.bls.gov/cpi/ |
次回以降は、消費者物価指数を構成する個々の数字について深掘りしていきたいと思います。
記事執筆者:志摩力男(しまりきお)
慶應義塾大学経済学部卒。
ゴールドマン・サックス、ドイツ証券などの大手金融機関でプロップトレーダー(自己勘定トレーダー)を歴任。
その後、香港でマクロヘッジファンドマネージャーを務める。
独立後も世界各地のヘッジファンドや有力トレーダーと交流し、現在も現役トレーダーとして活躍中。
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