日銀が発表する「当面の金融政策運営について」「議事要旨」など5つの文書の詳細を解説
日銀が発表する文書
米金融当局(FRB)の場合、年に8回FOMCが開催され、声明文を発表、議長会見が行われます。
3ヶ月に1度、同時にSEP(Summary of Economics Projection 経済見通し)も発表されます。
そしてFOMCのより詳しい内容であるFOMC議事要旨が3週間後に発表されるという流れです。
すなわち、声明文、経済見通し、議長会見、議事要旨、この4つが重要です。
日銀の場合はFRB同様、年に8回金融政策決定会合が開かれ、その結果が「当面の金融政策運営について」と題され発表されます。
金融政策決定会合の結果が発表された後、午後3時半からは総裁定例記者会見があります。
会合の1週間後、各位委員の発言要旨が「主な意見」として発表され、約2ヶ月後により詳しい内容が「議事要旨」として発表されます。
さらに、日銀は3ヶ月に一度、「展望レポート(経済・物価情勢の展望)」を発表し、その中で経済見通しを詳細に提示しています。
日銀では上記で説明した「当面の金融政策運営について」、「総裁定例記者会見」、「主な意見」、「議事要旨」、「展望レポート」の5つが重要です。これらはすべて日銀のホームページに一覧でまとまっています。
https://www.boj.or.jp/mopo/mpmsche_minu/index.htm「当面の金融政策運営について」について
基本的には、金融政策決定会合で決まったことが書いてあります。
決定内容、各委員の賛否、開催時間、出席者等です。
他国の中銀と大きく違うのは、政府関係者が2名参加していることです。
参加している政府関係者は財務省と内閣府。
決定前に一時退席し、所属省庁に電話連絡を取ります。
「当面の金融政策運営について」の発表に際していつも問題になるのは、発表のタイミングが毎回違うことです。
発表時間が決まっていない中銀は他にはありません。
二日目の会合は9時スタートですが、終わる時間はバラバラです。
議論を尽くしていると言えば聞こえは良いですが、発表時間を決めて貰いたいというのが、市場参加者の正直な気持ちといえます。
一般的に、終了時刻が遅くなると、
「長時間議論している⇒政策変更の可能性が高い」という連想から、マーケットが先取りする動きを見せることがあります。
しかし、この1年ぐらいの会合終了時間と政策はあまり強い関係性があるようには見えません。
最もサプライズと言われたのが、2022年12月会合でYCCのバンド幅拡大に動いたときですが、その時は12時01分と普通の時間に発表されています。
ただ、過去の重要な政策発表において、
いわゆる「バズーカ1」では13時35分、「バズーカ2」では13時39分と遅めの時間ではありました。
過去の終了時刻一覧
2023年7月 | 12時28分 | YCC修正に動く |
6月 | 11時47分 | 政策変更なし |
4月 | 13時00分 | 政策変更なし、植田新総裁初会合 |
3月 | 11時30分 | 政策変更なし |
1月 | 11時40分 | 政策変更なし |
2022年12月 | 12時01分 | YCCを±0.5%へ拡大 |
10月 | 11時50分 | 政策変更なし |
過去の重要政策変更時の発表時間
2016年9月 | 12時58分 | YCC導入「長短金利操作付き、量的質的緩和」 |
2016年1月 | 12時31分 | マイナス金利導入 |
2014年10月 | 13時39分 | 追加金融緩和決定(いわゆる、バズーカ2) |
2013年4月 | 13時35分 | 量的・質的金融緩和導入(いわゆる、バズーカ1) |
2013年1月 | 12時42分 | 2%物価目標導入、政府との共同声明(白川総裁) |
「金融政策決定会合における主な意見」
「主な意見」は、参加した各委員の発言内容が網羅されています。
ただ、各委員がどのような発言をしたのかはわからないようになっています。
速報性が高い点は良いのですが、過去の例を考えると、政策予想の参考になるかと言えば、ほとんどならないといえます。
2023年7月28日、日銀はYCC(イールドカーブ・コントロール)の修正に動きました。
しかし、その前の回の「主な意見」においてYCC(イールドカーブ・コントロール)の見直しを主張した意見は一人だけで、他の多くの委員は全くYCC見直しを主張していませんでした。
一人の委員はYCCの歪みが解消され、市場機能改善も進んだので、YCCを見直す必要は無いとまで語っていました。
主な意見を参考にしても、7月28日のYCC修正のヒントは全く得られていません。
日銀の政策は、基本的に総裁と副総裁2名、そして日銀執行部との協議で基本的な政策が決まると言われています。
そして日銀執行部が各政策委員へ「ご説明」に行くことになっています。
他国の中央銀行の政策予測では、一人一人の各委員の意見が重要です。
どの委員がどの程度「タカ派」か「ハト派」であるか、そこを掴むことが大事で、タカ派の委員の数が多くなれば、政策が引き締められるヒントになります。
しかし、日銀においては、基本的な政策は総裁と副総裁と執行部で決まるので、各委員の見方はあくまで参考程度です。
「議事要旨」
「議事要旨」は米国のFOMC議事要旨と同様の内容といえます。
会合の内容が非常に詳しく書き記されています。
最初に日銀執行部が経済情勢・金融市場の動向が、その後、各委員の意見と検討の概要が書かれています。
ただ、FOMCの参加者は18名程度と多いので(投票権のある委員は11名ほど)、ある意見に対して何人が同意しているのか、その数が重要です。
日銀の場合、全体で9名と少ないので、意見がバラバラと書かれているだけです。
また、発表は約2ヶ月後となるので、次の会合には間に合いません。
よって、この内容はあくまで参考にする程度で問題ないでしょう。
「総裁会見」
「総裁会見」は声明文(当面の金融政策運営について)と同じ程度重要といえます。
声明文の不明点をマスコミ各社の記者が質問するので、明快です。
大体3日後にホームページに会見の文字起こしが発表されますが、市場への影響を考えると3日後では情報が遅いといえます。
そのため、ネット上に総裁が話したことの文字起こしをしているサイト等があるので、それを参考にして市場を確認するのが良いと思われます。
また会見はYouTubeや様々な動画メディアで中継されるので、それを見直すのもよいでしょう。
マスコミのリーク報道について
ここまで、声明文(当面の金融政策運営について)、主な意見、議事要旨、総裁会見について解説しました。
しかし、それらをしっかり読んだからと言って、次の日銀政策決定会合の内容を予想できるかというと、それはかなり難しいといえます。
また、日本の金融政策は、良い言い方をすれば「最先端」、悪い言い方をすれば、あまりにも「実験的」であり、特にYCCの修正は市場に察知されると投機筋からのアタックを受け、必要以上に損失を被る可能性があるので、事前周知が難しいという弱点があります。
そのため、前回の会合内容を見ても参考になりません。
政策変更は、誰もが予想していない突然の瞬間でなければできない性質のものです。
それもあって、事前に内容を予想するには限界があります。
しかし、政策変更を予想するうえで何かヒントがあるとすれば、マスコミからのリーク報道でしょう。
7月28日の日銀政策決定会合前、午前2時に日経新聞が「日銀、金利操作を柔軟運用 上限0.5%超え容認案」との報道が流れました。
午前2時という時間のリーク発表には面食らいましたが、大事なリーク報道は、他の報道が一通り出た最後に日経新聞から流される傾向があります。
つまり、産経新聞、読売新聞、朝日新聞、毎日新聞等のといった各紙から流れてくるリーク報道は今ひとつ納得し難いものがありますが、日経サイドからのリークであれば、比較的信頼できる情報であるといえます。
「議事録」について
これまで声明文や主な意見、議事要旨と解説してきましたが、日銀による政策決定会合のすべてを見るには、10年後に発表される「議事録」を参考にするのが重要になってきます。
この「議事録」には、発言等すべてが記録されます。
一字一句間違いのない書き方をし、参加者の息遣いまで伝わる内容です。
時間がある時に議事録を読むことをおすすめします。
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志摩力男(しまりきお)
慶應義塾大学経済学部卒。
ゴールドマン・サックス、ドイツ証券などの大手金融機関でプロップトレーダー(自己勘定トレーダー)を歴任。
その後、香港でマクロヘッジファンドマネージャーを務める。
独立後も世界各地のヘッジファンドや有力トレーダーと交流し、現在も現役トレーダーとして活躍中。
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