日米首脳会談「黄金時代」の同盟強化で合意、関税は課題残す

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日本への関税は当面回避か、鉄鋼・アルミ関税は1期目に約7割が除外も

「日本の石破、トランプ対応を学習した成果を会談で発揮(Japan PM Ishiba’s Donald Trump study sessions pay off at talks)」――日米首脳会談について、最も的を射たヘッドラインを掲げた海外メディアは、英BBCのヘッドラインではないだろうか。

トランプ大統領と石破首相は2月7日、会談を行った。
トランプ氏が大統領就任後、首脳とホワイトハウスで会談を行ったのは、イスラエルのネタニヤフ首相に続き、2人目となる。

日米共同声明では、「日米関係の新たな黄金時代を追求する決意を確認した」と明記された。
石破首相と言えば、安倍元首相のライバルと位置付けられてきたが、トランプ氏は「シンゾーから話を聞いている」と述べるにとどめ、「素晴らしい首相になるだろう」と称賛。
これも、恐らくトランプ対応に注力した政府関係者の賜物だろう。

トランプ氏は「関税男(タリフマン)」を自称するように、2期目に入り関税発動へ向け行動を起こし、違法薬物フェンタニルの生産地とされる中国に対して4日、10%の追加関税を発動した。
欧州連合(EU)への関税発動にも意欲も示す。
ただし、トランプ氏は日本を標的とした関税措置には言及しなかった。

チャート:日米首脳会談、主なポイント
チャート:日米首脳会談、主なポイント

その一方で、トランプ氏は今週中に「相互関税(貿易相手国と同率の関税をかける仕組み)」について明らかにする方針を表明。
石破首相は、これに対し「関税は互いの利益となるような形で設定されるべきもの」と言及したほか、仮に米国が関税を強化する場合、報復関税を講じるかとの問いには「仮定の質問には答えかねる」と回答。
トランプ氏や米メディアから称賛を浴びる場面を作ると共に、対日関税についての可能性について深入りを避けた格好だ。

トランプ氏は2月10日、鉄鋼・アルミに25%の関税を課す大統領令に署名した。
これまで、関税対象外とした国も「例外なく」対象にする方針だ。
日本も含まれる見通しだが、トランプ1期目では代替困難として、日本の鉄鋼・アルミの約7割が除外されていたが、今後については課題を残す。

日米首脳会談に話を戻すと、日本製鉄とUSスチールの買収案について、修正案として「投資」で合意したと明らかにした。
詳細については明らかにしていないものの、トランプ氏は10日に日鉄は過半数株を取得できないと発言。
今週予定の日鉄の幹部との会談で、「投資」に関する合意内容をつめていくのだろう。

トランプ氏は、対日貿易赤字が1,000億ドルにのぼると言及した上で、これを解消させると述べたが、「原油とガスだけで、すぐに解決できると思う」と付言した。
石破首相も米国の液化天然ガス(LNG)を始め、バイオエタノールやアンモニアなどの資源の輸入拡大を通じ、対日貿易赤字の縮小につながると説明しており、こうした交渉が日本への関税強化の回避を導いたと考えられよう。
なお、バイデン前政権は2024年1月にLNGの輸出審査を凍結したため、日本の輸入が抑えられていた事情がある。

加えて、石破氏は日本からの対米投資が2023年まで5年連続で1位だったと述べた上で、1兆ドルに拡大すると明言した。
2023年の7,833億ドルから拡大することになる。
2025年以降は、トヨタなど自動車メーカーの工場建設計画に加え、USスチールへの投資、ソフトバンクがリードするAI向けインフラ投資会社「スターゲート」への投資が含まれるだけに、さらなる拡大が見込まれる。

チャート:対米直接投資、日本は2019年から5年連続で1位
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為替は「財務省の間で協議」、ベッセント財務長官は貿易黒字で日本に釘

石破氏は、為替について「財務省の間で議論する」と発言した点は、注意すべきだろう。
1期目と同様に日米の財務相間で緊密な議論を継続させていくと説明したが、日米首脳会談前には、ベッセント財務長官と加藤財務相がオンライン会談を行っただけでなく、植田日銀総裁とも言葉を交わし「緊密な協力で一致した」という。

山崎元財務官は1月14日付け日経新聞で、トランプ政権と為替介入の理解を得たと発言していたが、為替介入は米国債保有高1位の日本が米国債を売却することにつながりかねない。
ベッセント氏は2月5日のインタビューで、トランプ氏と自分は米10年債利回りの低下を望むと明言したほか、翌6日には貿易黒字を抱える国に対し「為替レート」や「金利抑制が要因となっている国」があるとし、暗に日本を仄めかす発言を行っていた。
円安局面で米金利の上昇を連想させるような日本のドル売り・円買い介入を手放しで容認するとは考えづらく、介入の前提として、事前に日銀の追加利上げといった政策措置が求められたとしてもおかしくない。
ある意味、日本に釘を刺したと解釈できるのではないか。

とはいえ、全体的に今回の日米首脳会談は対日関税強化に加え、防衛費増額などは含まれなかった。
「黄金時代の同盟関係」の第一歩としては、上々の滑り出しではないだろうか。

チャート:米国債保有高、日本と中国の比較
チャート:米国債保有高、日本と中国の比較

もっとも、日鉄によるUSスチールへの「投資」や、トランプ氏が言及した「相互関税(貿易相手国が課す関税率と同水準の関税を米国が課す仕組み)」について、週内にも詳細が明らかになる。
ただ、関税率が高い国は新興国が多く、中国の迂回輸出封じ込めの狙いがありそうだ。

チャート:世銀による関税率の中央値
チャート:世銀による関税率の中央値

特に、後者の内容次第では不確実性拡大に伴うドル円の下落に留意しておきたいが、日本への影響は他国と比較し限定的と考えられる。
特に日本にとって懸案の自動車についていえば、日本は米国製の自動車に関税を賦課せず、逆に米国が2.5%を適用(ピックアップトラップ除く)する状況。
相互関税の対象外となる道筋を残す。

株式会社ストリート・インサイツ代表取締役・経済アナリスト 安田佐和子

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株式会社ストリート・インサイツ代表取締役・経済アナリスト 安田佐和子

世界各国の中銀政策およびマクロ経済担当の為替ライターの経験を経て、2005年からニューヨークに拠点を移し、金融・経済の最前線、ウォール街で取材活動に従事する傍ら、自身のブログ「My Big Apple NY」で現地ならではの情報も配信。
2015年に帰国、三井物産戦略研究所にて北米経済担当の研究員、双日総合研究所で米国政治経済や経済安全保障などの研究員を経て、現職。
その他、ジーフィット株式会社にて為替アンバサダー、一般社団法人計量サステナビリティ学機構にて第三者委員会委員を務める。
NHK「日曜討論」、テレビ東京「モーニング・サテライト」の他、日経CNBCやラジオNIKKEIなどに出演してきた。
その他、メディアでコラムも執筆中。
X(旧ツイッター):Street Insights
お問い合わせ先、ブログ:My Big Apple NY


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