カナダは利下げに一巡感、トランプ関税に備えか
トランプ次期大統領の就任を控え、カナダが金融政策の姿勢を変化させた。
カナダ銀行(中央銀行、BOC)は12月11日、前回の10月に続き0.5ポイントの利下げを行い、政策金利を3.25%に設定。
6月以降、5回連続の利下げとなる。
加11月雇用統計で失業率が前月の6.5%から6.8%と、コロナ禍の期間を除くと2017年1月以来の高水準を記録していたため、大幅利下げは市場予想通りだった。
ただし、声明文では「経済が概ね予想通り進展するなら、政策金利を一段と引き下げる」との文言を削除。
代わりに「6月から大幅に利下げを行った」と明記した上で、「今後は利下げの必要性を会合毎に評価していく」とし、利下げペースをゆるめる可能性を指摘した。
BOCのマックレム総裁も、会見で「政策金利は大幅に引き下げられた効果が経済に浸透するだろう」と言及した上で、「予想通りに経済が進展すれば、より緩やかな金融政策アプローチを予想する」と述べた。
BOCが利下げペースの減速を示唆した理由は2つ。
1つ目は、中立金利の上限に到達したことが挙げられよう。
10月公表の金融政策レポートによれば、カナダの中立金利の推定レンジは2.25-3.25%と試算されており、今回の利下げでレンジ上限に到達した。
2つ目は、インフレ再燃とトランプ2.0への対応が考えられる。
10月消費者物価指数は前年同月比2.0%と、前月の1.6%を上回りインフレ目標値へ戻した。
マックレム総裁は、米国の追加関税措置の影響に伴う「不確実性」にも言及した。
チャート:カナダCPI
ただし、カナダは利下げ方向から転換したわけではない。
マックレム総裁は7-9月期成長率が年率1%と、BOCが10月に公表した予測の1.4%以下だったと認めた。
さらに、10-12月期の成長率もBOC予想の1.8%以下となる公算と言及、移民受け入れ削減により2025年の成長も10月時点の予測値2.1%を下回る見通しに言及した。
実質金利でみれば、BOCには利下げ余地がある、10月のCPIは前年比2%が12月まで続いた場合、実質金利は1.25%と制約的な範囲にある。
チャート:カナダの実質金利
BOCの次回金融政策決定会合は、米国大統領就任式後の1月29日で、その日は金融政策レポートで新たな経済予測が発表される。
次回会合で0.25%利下げが予想されているが、成長率とCPIなどの見通し次第で、2025年の利下げ終着点を見極めることとなりそうだ。
豪は年明け2月にも利下げ転換か、ハト派寄り姿勢へシフト
豪準備銀行(RBA)は、12月10日に開いた金融政策決定会合にて政策金利を4.35%で据え置いた。
声明では、インフレと経済情勢に関する足元のデータについて、予想と整合性が取れており「理事会はインフレが持続的に目標に向かっていると、ある程度の確信を得つつある」と明記。
前回の「これにより、インフレ上昇リスクに対する警戒を続ける必要性が強調され、理事会は、どんな措置も排除せず、柔軟な対応を取る方針」、「政策は十分に抑制的である必要がある」との文言を削除した。
会合後の会見で、ブロック総裁のタカ派姿勢もトーンダウンした。
次回2月17-18日の金融政策決定会合で利下げに踏み切る可能性を質問された際に「分からない」と応じ、インフレや労働市場、消費関連の指標など「データを注視している」と述べた。
ただ、12月会合では利下げを検討しなかったと発言、経済指標が軟化したため、声明文を変更したと説明した。
豪7-9月期実質GDP成長率は前年同期比0.8%増と、前期の同1.0%増を下回り、コロナ禍の直撃を受けた2020年以来の低い伸びにとどまった。
一方で、インフレは明確に鈍化を示さず。
豪10月消費物価指数(CPI)は前年比2.1%上昇し、前月通りだった。
CPIトリム平均は3.5%と、むしろ伸びは加速した。
チャート:豪CPI
今回のRBAのハト派寄り姿勢への転換は、中国が12月9日に2025年に金融政策スタンスを従来の「穏健な」から「適度に緩和的」へ修正した後に決定された。
RBAが中国の景気刺激策を慎重にみている証左とも考えられよう。
その他、実質金利で豪とニュージーランドが逆転するシナリオも、ハト派寄りの姿勢をもたらした可能性がある。
豪のCPIが10月の2.1%、NZが7-9月期の2.2%で12月まで進んだ場合、実質金利で豪が2.25%とNZの2.05%を上回る見通し。
対NZドルでの豪ドル高の進行を回避する狙いがあったとしても、おかしくない。
チャート:豪とNZの実質金利
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株式会社ストリート・インサイツ代表取締役・経済アナリスト 安田佐和子
世界各国の中銀政策およびマクロ経済担当の為替ライターの経験を経て、2005年からニューヨークに拠点を移し、金融・経済の最前線、ウォール街で取材活動に従事する傍ら、自身のブログ「My Big Apple NY」で現地ならではの情報も配信。
2015年に帰国、三井物産戦略研究所にて北米経済担当の研究員、双日総合研究所で米国政治経済や経済安全保障などの研究員を経て、現職。
その他、ジーフィット株式会社にて為替アンバサダー、一般社団法人計量サステナビリティ学機構にて第三者委員会委員を務める。
NHK「日曜討論」、テレビ東京「モーニング・サテライト」の他、日経CNBCやラジオNIKKEIなどに出演してきた。
その他、メディアでコラムも執筆中。
X(旧ツイッター):Street Insights
お問い合わせ先、ブログ:My Big Apple NY
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