米国の中央銀行(FED・FRB)の仕組み|連邦準備銀行とは
米国の中央銀行であるFederal Reserve System(連邦準備制度・FED・FRS)は、「雇用の最大化」と「物価の安定」を法的使命とし、金融政策を行います。
FEDの中心的な機関であるFederal Reserve Board(連邦準備制度理事会・FRB)は、全米12地区の地区連銀を監督し、年8回開催されるFOMCは金融政策を決定する役割を担います。
FOMCで発表される経済見通しや政策金利は、相場に大きな影響を与えます。
本記事ではFEDやFRBの仕組み・相場に与える影響について解説します。
目次
- 1.米国の中央銀行(FED・FRB)とは
- 2.米国の金融政策の決定方法
- 3.FOMCが相場に与える影響
- 4.米国の中央銀行(FED・FRB)に関するQ&A
- 5.【まとめ】米国の中央銀行(FED・FRB)の仕組み|連邦準備銀行とは
米国の中央銀行(FED・FRB)とは
ここでは、米国の中央銀行の概要を以下の内容に分けて解説します。
- ・FED(連邦準備制度)とは
- ・FRB(連邦準備制度理事会)とは
- ・FRB(連邦準備銀行)とは
- ・FOMC(連邦公開市場委員会)とは
FED(連邦準備制度)とは
FED(Federal Reserve System)とは、米国の連邦準備制度のことを指します。
連邦準備「銀行」ではなく、連邦準備「制度」であるのは、複数の組織から成り立っているからです。
米国が建国以来、分権主義を標榜し、中央集権的な組織に対して抵抗感があったため、地方分権主義の名残が残っています。
その制度の中でも、金融政策の基本方針決定に中心的な役割を果たす組織が、FRB(連邦準備制度理事会)です。
FEDの主な役割は、「国の金融政策の策定」「金融機関の監督・規制」「金融システムの安定性の維持」「政府・海外公的機関等への金融サービス提供」などです。
FRB(連邦準備制度理事会)とは
FRBとは「Federal Reserve Board」の略で、米国の金融政策を策定する連邦準備制度理事会のことです。日本における日本銀行と同様に、金融機関の監督機能などを担っています。
FRBは7名の理事から構成されます。
その理事の中から1名のFRB議長、2名(うち1名は金融機関監督担当)のFRB副議長が任命されます(下図参照)。
理事の任期は14年で、議長、副議長の任期は4年です。
いずれも大統領により指名された後、上院で承認され、正式に就任します。
FRBメンバーの交代は、市場に影響を及ぼすことがあります。
2024年9月時点におけるFRBのメンバーは、以下の通りです。
役職 | 氏名 | 任期(期限) |
---|---|---|
議長 | ジェローム・H・パウエル | 2028年1月31日(理事)
2026年5月15日(議長) |
副議長 | マイケル・S・バー | 2032年1月31日(理事) 2026年7月13日(副議長) |
フィリップ・N・ジェファーソン | 2036年1月31日(理事)
2027年9月7日(副議長) |
|
理事 | ミシェル・W・ボウマン | 2034年1月31日 |
リサ・D・クック | 2038年1月31日 | |
アドリアナ・D・クーグラー | 2026年1月31日 | |
クリストファー・J・ウォーラー | 2030年1月31日 |
FRB(連邦準備銀行)とは
連邦準備制度理事会をFRBとして解説しましたが、連邦準備銀行(Federal Reserve Bank)を指す場合もあります。
連邦準備制度理事会の監督のもと、全米12の地区ごとに置かれる連邦準備銀行(地区連銀)は、それぞれが独立した株式会社です。
12地区のFRBを一覧にすると、以下の通りです。
地区 | 銀行名 |
---|---|
第1地区 | ボストン連邦準備銀行 |
第2地区 | ニューヨーク連邦準備銀行 |
第3地区 | フィラデルフィア連邦準備銀行 |
第4地区 | クリーブランド連邦準備銀行 |
第5地区 | リッチモンド連邦準備銀行 |
第6地区 | アトランタ連邦準備銀行 |
第7地区 | シカゴ連邦準備銀行 |
第8地区 | セントルイス連邦準備銀行 |
第9地区 | ミネアポリス連邦準備銀行 |
第10地区 | カンザスシティ連邦準備銀行 |
第11地区 | ダラス連邦準備銀行 |
第12地区 | サンフランシスコ連邦準備銀行 |
12の地区を地図上で表すと、下図の通りです。
東から順に1〜12の地区が割り振られています。
地区連銀の構成には、米国の地方分権主義の流れが色濃く残っています。
民間の銀行は、所轄の地区連銀に準備預金を積み立てる義務と、そこから借り入れを受ける特権を有していることから、全ての民間銀行は実質的に地区連銀の管轄下にあります。
公定歩合の変更は、各地区の連邦準備銀行が個別に理事会に申請する形をとっています。
また、地区連銀の総裁は地区の代表としてFOMCに出席することになっています。
FOMC(連邦公開市場委員会)とは
FOMC(連邦公開市場委員会)とは、日本の日銀金融政策決定会合に相当します。FOMCは年に8回、約6週間ごとにワシントンの理事会会議室で開催されます(※新型コロナウイルス感染拡大時のロックダウンなど、緊急時には電話会議となることがあります)。
金融調節の代表的な手段の1つである公開市場操作の基本方針は、FOMCで決定されます。
FOMCは以下の12名のメンバーによって構成されています。
- ・FRB議長・理事:7名
- ・ニューヨーク連邦準備銀行総裁:1名
- ・残りの11名の連邦準備銀行総裁から:4名
2024年9月時点での12名のメンバーは、以下の通りです。
氏名 | 役職 |
---|---|
ジェローム・H・パウエル | FRB議長 |
マイケル・S・バー | FRB副議長 |
フィリップ・N・ジェファーソン | FRB副議長 |
ミシェル・W・ボウマン | FRB理事 |
リサ・D・クック | FRB理事 |
アドリアナ・D・クーグラー | FRB理事 |
クリストファー・J・ウォーラー | FRB理事 |
ジョン・C・ウィリアムズ | ニューヨーク連邦準備銀行総裁 |
トーマス・I・バーキン | リッチモンド連邦準備銀行総裁 |
ラファエル・W・ボスティック | アトランタ連邦準備銀行総裁 |
メアリー・C・デイリー | サンフランシスコ連邦準備銀行総裁 |
ベス・M・ハマック | クリーブランド連邦準備銀行総裁 |
連邦準備銀行総裁4名の任期は1年で交代制です。
「現在のFOMC参加メンバー」は、こちらの記事で詳しく解説しています。
また、今後のFOMCの日程やFX相場に与える影響などは、以下の記事で詳しく解説しています。
米国の金融政策の決定方法
FOMCの議長はFRB議長が務め、副議長はニューヨーク連銀総裁が務めます。議決は、投票権を有する参加者の計12名の単純多数決で決定されます。
決定した公開市場操作の基本方針は、実際の執行機関であるニューヨーク連銀に向けて指令されます。
FOMCの開催予定
米国の金融政策は、年8回のFOMCにて決定されます。
会合は2日間開催され、2日目の会合終了後には、現地時間の午後2時に声明文が公開、その30分後に記者会見が行われます。
また、経済見通しの発表は声明文と併せて公表され、議事録は約3週間後に公表されます。
経済見通しの発表は、2回に1回のペースで行われます。
※FOMC開催日程イメージ
正確なスケジュールは「FRBのウェブサイト」で確認できます。
FOMCが相場に与える影響
FOMCが相場に与える影響について、以下の2つに分けて解説します。
- ・金利の引き上げ・引き下げによる影響
- ・QE(量的緩和)による影響
金利の引き上げ・引き下げによる影響
FOMCは、金利の引き上げや引き下げで、経済や物価、雇用などを調整します。
経済成長のスピードが速すぎれば金利を引き上げ、経済成長に陰りが見えたり、景気後退に陥ったりすれば金利を引き下げます。
FF金利の誘導目標を設定することで、市場の金利を市場操作します。FF金利とは、民間の銀行が連邦準備銀行に預ける準備金(フェデラル・ファンド)が不足している際などに、他の銀行から資金を借りる際の金利のことです。
FF金利を上げると、銀行は市場に融資するより、準備金が不足している他の銀行に融資する方が利益が出る、というケースが増える傾向があります。
これによって市場への融資が減ると、市場でお金を借りるのが難しくなり、市場での金利も上がります。
こうして金利を引き上げると、銀行の貸出金利が上昇することで消費が抑えられ、経済成長が抑制されます。
逆に金利を引き下げると、銀行の貸出金利が低下することで消費が促され、企業の借り入れコストが低下し経済成長が促されます。
金利が上昇すると米ドルが買われやすくなり、円安ドル高に繋がる傾向があります。
逆に、金利が低下すると米ドルが売られやすくなり、円高ドル安に繋がる傾向があります。
QE(量的緩和)による影響
量的緩和(Quantitative Easing)とは、マネタリーベース(市場に供給されるお金)の「量」を操作目標として、市場に大量の資金を供給する金融緩和政策のことです。
QEにより、金融市場の安定化や経済の活性化を狙います。
FEDが債券を買い入れることで長期金利を引き下げ、これにより相対的に米ドルの価値が下がり売られやすくなります。
米国の中央銀行(FED・FRB)に関するQ&A
ここでは米国の中央銀行に関して、よくある疑問点に回答します。
- ・デュアルマンデートとは?
- ・FOMCは日本でいうと何ですか?
- ・連邦準備制度と日本銀行の違いは何ですか?
デュアルマンデートとは?
デュアルマンデートとは、FRB・FOMCに対して課せられている法的使命のことです。
デュアルは「2つの」、マンデートは「任務・義務」の意味を持つため、デュアルマンデートは「2つの使命」と訳されます。
2つの使命とは「雇用の最大化」と「物価の安定」のことです。
FOMCが毎回発表する声明文には、下図の一文が入ります。
FEDは、この文言からも分かる通り、金融政策を行うにあたって「雇用の最大化」と「物価の安定」という2つの責務を負っています。
FOMCは日本でいうと何ですか?
米国の連邦公開市場委員会(FOMC)は、日本でいうと日銀金融政策決定会合に該当します。
いずれも金融政策を決定する会合のことを指します。
日銀金融政策決定会合はFOMCと同じく年8回、各会合とも2日間開催されます。
展望レポート(経済・物価情勢の展望)も、FOMCと同様に年4回公表されます。
主に話し合う内容(議案事項)は、以下の4つです。
- ①:金融市場調節方針
- ②:基準割引率、基準貸付利率および預金準備率
- ③:金融政策手段(オペレーションにかかる手形や債券の種類や条件、担保の種類等)
- ④:経済・金融情勢に関する基本的見解等
連邦準備制度と日本銀行の違いは何ですか?
連邦準備制度と日本銀行の違いは「中央銀行の業務を1行で担うか、複数行で担うか」という点です。
日本銀行は1行で担い、連邦準備制度では12行の地区連銀で担います。
FEDと日本銀行は、責務にも違いがあります。
FEDの責務は先述の通り「雇用の最大化・物価の安定」という「デュアルマンデート」です。
一方、日本銀行の責務は「物価の安定」1つで「シングルマンデート」を採用しています。
【まとめ】米国の中央銀行(FED・FRB)の仕組み|連邦準備銀行とは
米国の中央銀行にあたる連邦準備制度(FED)は、金融政策の基本方針決定に中心的役割を果たす組織である連邦準備制度理事会(FRB)と、全米12の地区ごとに置かれている連邦準備銀行(同じくFRB)、そして政策金利等を決める連邦公開市場委員会(FOMC)など複数の組織から成り立つ制度です。
中心的な役割を果たすFRBは、議長と副議長を含めた7名の理事で構成されています。
FOMCは、理事会から理事全員(7名)、地区連銀から総裁5名(1名はニューヨーク連銀総裁が常任、4名はその他11地区の連銀総裁が1年交代の輪番で務める)の計12名の単純多数決で、金融政策を決定します。
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