米大統領選、1900年以降最も正確に勝者を選出した州はオハイオ
「米大統領選を控え、パニック障害に悩むアメリカ人も」――そんな見出しが、10月27日付けのウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)紙を飾った。
トランプ陣営は自身が選ばれないと第3次世界大戦が勃発するとの恐怖を植え付け、ハリス陣営は民主主義の危機だと煽る。
映画「マトリックス」で、目の前に青いピルと赤いピルを突き付けられ、仮想世界にとどまるか現実の世界に引きずり込まれるか、究極の選択を強いられた主人公ネオを思い出す有権者も少なくないのではないだろうか。
とはいえ、泣いても笑っても米大統領選の投票日、11月5日まで1週間。
運命の日はもうすぐだ。
そこで、過去の米大統領選アノマリーを振り返りながら、不確かな未来を覗いてみようではないか。
1900年以降、米大統領選は31回行われた。
そのうち、勝者を最も正確に選出した州は、さびれた製造業地域、すなわちラストベルトの一角を成すオハイオだ。
31回のうち、勝者を選出したのは28回で、勝率は90.3%に及ぶ。
1964年から2016年までの間は、14戦で全勝の快挙を遂げていた。
最後に同州が敗北したのは、バイデン氏が制した2020年である。
続いて、勝率の高い州はニューメキシコで、89.3%。
28戦のうち25勝してきた。
足元は民主党寄りへのシフトを鮮明にしている。
3位は31戦26勝のイリノイとミズーリで、勝率は83.9%だ。
一方で、2000年以降をみると、激戦7州(ペンシルベニア、ミシガン、ウィスコンシン、ノースカロライナ、ジョージア、アリゾナ、ネバダ)の全てが上位に食い込み、これらの州が米大統領選の行方を左右してきたことが分かる。
1位はオハイオとバージニア、フロリダ、コロラドに加え、今年の激戦州の一角を成すネバダが並び、6戦5勝で勝率は83.3%。
続いて、6戦4勝で勝率は66.7%の州は激戦州ペンシルベニアやミシガン、ウィスコンシン、ノースカロライナ、ジョージア、アリゾナの残り6州全て、そしてインディアナ、ニューハンプシャー、ニューメキシコが入る。
チャート:1900~2020年、2000~2020年の米大統領選、州別の勝率
今年の激戦7州のうち、1972年以降で最も勝率が高い州は、激戦州のなかでラストベルトの一角であり、選挙人が19と最大を誇るペンシルベニアに加え、ネバダで13戦11勝となる。
同じくラストベルトを成すミシガンとウィスコンシンも、10勝3敗と続く。
民主党のウォルズ副大統領候補は10月8日、選挙人制度(各州に人口を基に選挙人を割り当てた選挙人538人のうち、原則として勝者総どり方式で、過半数の分水嶺となる270人を獲得した候補者が勝利する)を廃止すべきと主張した。
一部の有識者は、中西部のグローバリズムから取り残された人々の票が、米大統領選を左右する状況を疑問視する。
とはいえ選挙人制度は、製造業地域やテクノロジー産業が盛んな州も含め、合衆国とされるアメリカらしい制度とも言えそうだ。
米大統領選、プロスポーツや映画賞のアノマリーも
アメリカといえば、年中プロスポーツを楽しむことができ、映画産業が盛んな国として知られる。
そのようなお国柄だからこそ、米大統領選とそれらを結びつけ、アノマリーとして話題にする人々も少なくない。
まずは、ナショナル・フットボール・リーグ(NFL)の頂上戦、スーパーボウル・アノマリーを紹介しよう。
米大統領選の年に開催されたスーパーボウルの覇者がアメリカン・フットボール・カンファレス(AFC)のチームならば、共和党候補が大統領選で勝利、ナショナル・フットボール・カンファレンス(NFC)のチームならば、民主党候補が制するというアノマリーであり、1972年以降で13戦8勝だ。
今年開催のスーパーボウルでは、歌姫テイラー・スウィフトの恋人のトラビス・ケルシー選手が属するカンザスシティ・チーフスが優勝した。
前回はバイデン氏に花を持たせたが、今年はどうなるだろうか?
チャート:スーパーボウル・アノマリー、今年はAFCのチームが優勝したが…?
大谷翔平選手が所属するロサンゼルス・ドジャースが進出したワールドシリーズにも、アノマリーがある。
ただし、スーパーボウルよりやや使える頻度は落ちる。
なぜなら、ワールドシリーズが7戦目を迎えないと、発動しないためだ。
7戦目を制したチームがアメリカン・リーグのチームなら共和党候補、ナショナル・リーグのチームなら民主党候補が勝利してきた。
1912年以降、10戦8勝。
ただ、最後に7戦目を記録した2016年、ナショナル・リーグのシカゴ・カブスが優勝を飾ったが、当時はトランプ氏が選出された。
チャート:ワールドシリーズ7戦目アノマリー、今年は発動なるか?
次に、映画の都ハリウッドに因んだアノマリーを紹介しよう。
アメリカが誇る二大映画賞といえばアカデミー賞とゴールデングローブ賞だが、それぞれの作品賞(ゴールデングローブ賞の場合はドラマ部門)が同じ映画であれば共和党候補、別々であれば民主党候補が勝利するというものだ。
1972年以降では、13戦11勝と、スーパーボウル・アノマリーより3勝多い。
2020年の米大統領選では、それぞれの賞レースで異なる作品が受賞するなか、バイデン氏が勝利し的中させた。
チャート:アカデミー賞、ゴールデングローブ賞の作品賞
ウォール街らしいアノマリーも存在する。
S&P500で10月末までの3カ月リターンが上昇ならば与党・現職が勝利、下落なら野党候補が選出されてきた。
1972年以降でみれば、13戦11勝で、2020年もバイデン氏の勝利を当てた。
チャート:S&P500の3カ月リターンのアノマリーは、ハリス氏勝利を示唆
その他、失業率アノマリーでいえば、過去のレポートで指摘したようにトランプ氏が再選される可能性を示す。
以上、スーパーボウル、ワールドシリーズ、映画賞、S&P500の3カ月リターン、失業率の5つのアノマリーに基づけば、スーパーボウルと映画賞、失業率でトランプ氏、S&P500でハリス氏に勝利のサインが点灯している。
果たして、勝利の女神はどちらに微笑むのだろうか?
Provided by
株式会社ストリート・インサイツ代表取締役・経済アナリスト 安田佐和子
世界各国の中銀政策およびマクロ経済担当の為替ライターの経験を経て、2005年からニューヨークに拠点を移し、金融・経済の最前線、ウォール街で取材活動に従事する傍ら、自身のブログ「My Big Apple NY」で現地ならではの情報も配信。
2015年に帰国、三井物産戦略研究所にて北米経済担当の研究員、双日総合研究所で米国政治経済や経済安全保障などの研究員を経て、現職。
その他、ジーフィット株式会社にて為替アンバサダー、一般社団法人計量サステナビリティ学機構にて第三者委員会委員を務める。
NHK「日曜討論」、テレビ東京「モーニング・サテライト」の他、日経CNBCやラジオNIKKEIなどに出演してきた。
その他、メディアでコラムも執筆中。
X(旧ツイッター):Street Insights
お問い合わせ先、ブログ:My Big Apple NY
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