ハリケーンなどで、米Q4経済指標は乱気流に突入か

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米新規失業保険申請件数、ハリケーンを一因に約1年ぶりの高水準

「世の中には3つの嘘がある。ひとつは嘘、次に大嘘。そして統計である」とは、ベンジャミン・ディズレーリ英首相の名言として知られる。
10月以降、ハリケーン「へリーン」と「ミルトン」の直撃に加え、米港湾労働者約4.5万人を抱える国際港湾労働者協会(ILA)やボーイングのストライキなどを受け、米国の経済指標は少なくとも、嘘のような乱高下を迎えそうだ。

その前哨戦として、10月5日週の米新規失業保険申請件数が25.8万件と2023年8月初め以来の水準へ急増し、マーケットを驚かせた。
前週比3.3万件増と、増加幅としては2021年9月以来の大きさとなる。

背景は2つで、1つはハリケーン「へリーン」の影響だ。
州別の新規失業保険申請件数(季節調整前)をみると、死者数が200人を突破するなか、そのうち3割と集中し被害が最も甚大だったノースカロライナでは、前週比8,534件、そのほか「へリーン」の影響を受けた南部のフロリダ、ケンタッキーやテネシーでも増加が顕著となった。

チャート:米新規失業保険申請件数、2023年8月初め以来の高水準
チャート:米新規失業保険申請件数、2023年8月初め以来の高水準

2つ目は、自動車関連のリストラだ。
欧州自動車メーカーのステランティスは9月に発表した決算で人員削減計画を発表しており、ミシガンやオハイオの工場の従業員が対象になったと想定される。
それが影響したのか、ミシガンの米新規失業保険申請件数は同9,490件と、全米50州のうち最大となり、オハイオも4,328件と増加が目立った。
そのほか、カリフォルニアでもクアルコムやシスコシステムズなどがリストラを発表するなか、同4,484件と増加しており、米景気減速に伴う不確実性を受けて、米企業が採用活動先送りから、解雇に転じ始めている様子が伺える。

チャート:10月5日週の米新規失業保険申請件数、州別ではノースカロライナなどで急増
チャート:10月5日週の米新規失業保険申請件数、州別ではノースカロライナなどで急増

米9月CPIの前年比は21年2月以来の低い伸びだが…

米9月消費者物価指数(CPI)は前年同月比2.4%と、市場予想の同2.3%を上回ったとはいえ、2021年2月以来の低い伸びだった。
ただし、米9月コアCPIは同3.3%と前月を上回り、インフレの火種を感じさせる内容だった。
前月比でも同0.3%と市場予想の同0.2%を上回ったが、輸送サービス関連の押し上げが影響した。
特に自動車保険は、サービス分野の物価押し上げ要因として指摘されてきただけに、再加速ならばインフレ高止まりを連想させる。
これらに加え医療サービスも押し上げ、Fedが注目するスーパーコアの前月比も0.4%上昇と、3カ月連続で加速した。

チャート:スーパーコアの前月比、3カ月連続で加速
チャート:スーパーコアの前月比、3カ月連続で加速

CPIも、ハリケーンだけでなく、米港湾ストライキ影響で一時的に上振れするリスクもあり得よう。
ホークルNY州知事は9月30日、翌日からの米港湾スト開始に先駆け「食料の供給は現時点で確保されている」と強調、コロナ禍でのような買いだめに走らないよう要請した。
それでも、X(旧ツイッター)を始め、スーパーマーケットの棚から食料が消える事態を迎えた。
実際、米9月CPIは前月比0.2%上昇し市場予想の0.1%を上回ったが、エネルギーの同1.4%の低下を、食品の0.4%や住居費の同0.2%などが相殺。
特に食品の伸びは豪雪の影響で強含んだ1月に並ぶ強さで、ハリケーンに加え米港湾ストの影響が意識される。

その一方で、住居費の伸び鈍化はFedを安堵させたに違いない。
前月比0.2%と3カ月ぶりの低い伸びだったほか、前年同月比でも4.9%と2022年3月以来の5%割れとなった。
そのうち帰属家賃も同5.2%、家賃も同4.8%と、それぞれ2022年5月と3月以来の低い伸びに。
住居費はCPIの36.5%を占めるため、鈍化トレンドが続けば、ハリケーンや米港湾ストの一時的な上振れが収まるとともにCPIは落ち着きを取り戻すと考えられる。

チャート:住居費の伸びは鈍化トレンド、Fedの安心材料に
チャート:住居費の伸びは鈍化トレンド、Fedの安心材料に

Fed、利下げペースを変化させるなら年明けか

データ次第の金融政策運営を豪語するFedだが、米経済指標が特殊要因で振れが大きくなったとしても、足元の利下げ継続路線を変更しそうもない。
そもそも、パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長は、9月の米連邦公開市場委員会(FOMC)後の会見で、足元の引き締め寄りの政策から「再調整(recalibration)」する段階にあると発言済みだ。

FOMCで副議長の役割を担うウィリアムズNY連銀総裁は10月10日、米9月コアCPIが再加速したものの「金融政策スタンスにつき、一段と中立方向へシフトさせる過程の継続が適切と考えている」と強調した。
ただ、比較的ハト派寄りとされるサンフランシスコ連銀は10月9日、「年内1回ないしは2回」の利下げに言及。
年内0.25%ずつ、2回の利下げにこだわっていない姿勢を示唆しており、今後の経済指標次第でFedの追加利下げの観測が揺れ動くこと必至だ。

9月FOMC議事要旨によれば、「大多数(substantial majority)」が0.5%利下げに支持を表明したものの、「一部(several)の参加者は、0.25%利下げを選好する漸進的な道筋に沿う」との見解を寄せていた。
Fedは利下げ路線を継続させるものの、ハリケーンの影響で10~11月分の経済指標は変動が激しくなり、乱気流への突入が予想される。
問題は年明け以降で、雇用と物価の動向次第では、9月FOMCで2025年1%(0.25%ずつなら4回)とする利下げのペースに変化が生じてもおかしくない。

株式会社ストリート・インサイツ代表取締役・経済アナリスト 安田佐和子

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株式会社ストリート・インサイツ代表取締役・経済アナリスト 安田佐和子

世界各国の中銀政策およびマクロ経済担当の為替ライターの経験を経て、2005年からニューヨークに拠点を移し、金融・経済の最前線、ウォール街で取材活動に従事する傍ら、自身のブログ「My Big Apple NY」で現地ならではの情報も配信。
2015年に帰国、三井物産戦略研究所にて北米経済担当の研究員、双日総合研究所で米国政治経済や経済安全保障などの研究員を経て、現職。
その他、ジーフィット株式会社にて為替アンバサダー、一般社団法人計量サステナビリティ学機構にて第三者委員会委員を務める。
NHK「日曜討論」、テレビ東京「モーニング・サテライト」の他、日経CNBCやラジオNIKKEIなどに出演してきた。
その他、メディアでコラムも執筆中。
X(旧ツイッター):Street Insights
お問い合わせ先、ブログ:My Big Apple NY


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