ハリス氏が全米世論調査でリードでも、油断できない理由

マーケットレポート

激動の2024年米大統領選、ハリス氏が世論調査でリード

2024年の米大統領選は、6月27日の米大統領候補TV討論会後に数多くの劇的な事件や出来事が発生し、ニュースヘッドラインをセンショーナルに飾ってきた。
7月13日には、共和党のトランプ候補に対する暗殺未遂事件が発生し、7月21日はバイデン氏が米大統領選からの離脱を表明。
8月2日にハリス副大統領が電子投票で民主党の正式指名に必要な過半数を確実とし、8月22日の民主党全国大会の最終日に指名受諾演説を行った。
同日には、無所属で出馬していたロバート・F・ケネディ・ジュニア氏が米大統領選からの撤退を発表。
翌23日には、トランプ氏がアリゾナ州で開催した選挙集会で、トランプ支持の演説を行った。
26日には、2020年の米大統領選に民主党下院議員として立候補し、その後、民主党から離党し無所属となったトゥルシー・ギャバード氏がトランプ支持を表明。
まさに激動の2カ月と言えよう。

米世論調査結果は、ハリス氏の登場により一気に形勢が逆転しハリス氏がリードしている。
リアルクリアポリティクスが算出する米世論調査平均値は、ハリス氏が8月5日に逆転してから優勢を維持し、8月26日時点でも48.3%と、トランプ氏の46.6%を1.7ポイント上回る。

ハリス氏はジャマイカ系の父とインド系の母を持ち、夫はユダヤ系で黒人、アジア系、女性として初の副大統領で、かつ民主党が掲げる「多様性、公平性、包摂性(DEI)」の権化のような人物とあって、CNNやニューヨーク・タイムズ紙など、主流メディアは「喜び(joy)」に溢れた候補ともてはやす。
ハリス氏が副大統領に就任してから約3年半でスタッフの92%が辞職したとの報道や、バイデン氏の選挙戦撤退後にNYT紙の記者やコラムニストが民主党の大統領有力候補としてハリス氏が最低点だった記事など、まるで忘れたかのようだ。

激戦7州では、僅差でトランプ氏がリード

米大統領選投票日の11月5日まで約2ヵ月近く、戦況が益々ヒートアップするなか、選挙は水物なだけに、米世論調査結果通り、勝利の女神がハリス氏に微笑むのかは不透明だ。
今後を占う上で、重要なのはやはり激戦州と言えよう。
リアルクリアポリティクスの激戦7州(ラストベルト=さびれた工業地域とされるペンシルベニア、ミシガン、ウィスコンシンの他、ノースカロライナ、ジョージア、アリゾナ、ネバダ)の世論調査平均をみると、8月27日時点て7州のうちトランプ氏が5州でリードする。
逆に、ハリス氏は労働組合が強いラストベルトのミシガンとウィスコンシンで優勢だ。

チャート:8月26日時点での激戦7州の動向
チャート:8月26日時点での激戦7州の動向

2016年の米大統領選、米世論調査と逆の結果に

「過去を振り返るのは、未来を作るためだけに」――とする、米国の詩人で小説家のシルビア・プラスの言葉に従い、2016年の米大統領選の動向を確認してみよう。
2016年と比較する理由は、①トランプ氏と女性候補の戦い、②2020年の米大統領選はコロナ禍の非常時だった――という事情を加味した。

まず、2016年の米大統領選を振り返ると、全米世論調査ではリアルクリアポリティクスや、その他の選挙情報サイトのファイブサーティエイトで、民主党のクリントン候補が優勢だった。
ニューヨーク・タイムズ紙は米大統領選まで21日を残すところ、クリントン候補の勝率が91%と推測していた。
気になる激戦州についても、ワシントン・ポスト紙が2016年10月16日、激戦15州のうちペンシルベニアやミシガンを含む9州でクリントン氏が上回ると伝えていた。
蓋を開けてみると、2016年の米大統領選ではトランプ氏が選挙人の過半数270人を超える306人を獲得し、勝利した。
ただ、同氏の得票数は約6,298万票と、クリントン氏の約6,585万票に届かず、全米世論調査結果について言えば、あながち間違いではなかったともいえる。

第3候補の存在、2016年米大統領選では民主党候補にとって不利に

もうひとつ、2016年と比較すべきは第3候補の存在だ。
緑の党のジル・スタイン氏が、激戦州の一角を成すウィスコンシンで出馬できる運びとなった。
同州の最高裁が8月27日、民主党の異議申し立てを却下したためだ。
過去6回の大統領選のうち4回が5,700票から約2万3,000票の差で決着してきたウィスコンシン州では、投票用紙に無所属や第3党の候補者が存在することが決め手となりうる。

今回のウィスコンシン州最高裁の判断でスタイン氏の名前が投票用紙に記載される公算が大きい一方で、同州の第三者候補の届出期限は9月3日であり、現時点で出馬できるとは断言できない。
ただし、ラストベルトの激戦州で最大の選挙人を抱えるペンシルベニアの他、ミシガンはスタイン氏の出馬が確定している。

そこで、2016年米大統領選のウィスコンシン州の結果を振り返ると、スタイン氏は3万1,072票を獲得した。
これは、トランプ氏の得票数とクリントン氏の得票数の差である2万2,748票を上回る。
しかも、ラストベルトに含まれるウィスコンシンを始めペンシルベニア、ミシガンでの結果が命運を分けた。
ペンシルベニアでのスタイン氏の得票数は4万9,941票に対し、トランプ氏とクリントン氏の得票差は4万4,292、ミシガンでもスタイン氏の得票数が5万1,463票に対し、トランプ氏とクリントン氏の得票差は1万704と、いずれもスタイン氏の得票数が上回った。
民主党の中には、2016年の米大統領選でトランプ氏の勝利の手助けをしたのは、スタイン氏の存在との忸怩たる思いもあり、ウィスコンシン州での同氏の出馬阻止を試みたのだろう。

チャート:2016年の米大統領選、スタイン氏の得票数はラストベルトの激戦3州でトランプ氏とクリントン氏の得票差を上回る
チャート:2016年の米大統領選、スタイン氏の得票数はラストベルトの激戦3州でトランプ氏とクリントン氏の得票差を上回る

加えて、前述したように撤退する直前まで米世論調査で4%程度の支持率を有していたRFKジュニア氏がトランプ支持にまわった。
民主党から離党したトゥルシー・ギャバード氏の支持表明も、わずかながらトランプ氏に追い風となってもおかしくない。
その反面、一連の影響は軽微で、そもそもRFKジュニア氏やギャバ―ド氏の支持層はもともとトランプ寄りとの分析もある。

今年は、2016年の焼き直しとなるのか、あるいは新たな風が吹くのか。
少なくとも、9月10日の米大統領候補TV討論会が戦況に影響を与えることは間違いない。

株式会社ストリート・インサイツ代表取締役・経済アナリスト 安田佐和子

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株式会社ストリート・インサイツ代表取締役・経済アナリスト 安田佐和子

世界各国の中銀政策およびマクロ経済担当の為替ライターの経験を経て、2005年からニューヨークに拠点を移し、金融・経済の最前線、ウォール街で取材活動に従事する傍ら、自身のブログ「My Big Apple NY」で現地ならではの情報も配信。
2015年に帰国、三井物産戦略研究所にて北米経済担当の研究員、双日総合研究所で米国政治経済や経済安全保障などの研究員を経て、現職。
その他、ジーフィット株式会社にて為替アンバサダー、一般社団法人計量サステナビリティ学機構にて第三者委員会委員を務める。
NHK「日曜討論」、テレビ東京「モーニング・サテライト」の他、日経CNBCやラジオNIKKEIなどに出演してきた。
その他、メディアでコラムも執筆中。
X(旧ツイッター):Street Insights
お問い合わせ先、ブログ:My Big Apple NY


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