FX自動売買基礎と応用

通貨相関、金利、コモディティ等によるFX市場データ分析


この記事では、FX市場の特徴を理解するために、いくつかの視点でデータをまとめます。

● 通貨の相関
● 金利の影響
● コモディティとの関係性
● 値決めの影響

これらについて、市場の傾向を経済的な背景も考慮して調査し、結果をトレードに活かすためにはどうすればいいのかについても考察します。

通貨の相関

FXで取引される様々な通貨には、連動しやすい組み合わせや、そうでない組み合わせが存在します。

クラスターマップによる可視化

図は2020年以降のFXデータを用いて作成した、USDを基にした15通貨の関係性を可視化したクラスターマップです。
クラスターマップは、相関係数から求めた距離行列を示しているため、事実上は相関係数の高いペアは色が明るく、相関係数の低いペアは暗く表示されます。

クラスターマップによる可視化

クラスターマップを見ると各国の通貨には、欧州通貨と資源国通貨の2つの大きなセクターがあることがわかります。
次いでアジア通貨とエマージング通貨にも相関関係が見られます。
ここでTRYはどのセクターにも当てはまらず例外的な傾向です。

t-SNEを用いた可視化

次に、t-SNEを使って、相関行列を2次元データに変換してみます。
t-SNEは、高次元データを元のデータの傾向を維持したまま、2次元や3次元に次元を削減するためのアルゴリズムです。
ここでは15通貨を扱うため、相関行列の列数は15になりますが、この相関関係の情報を維持しつつ2次元まで削減します。
2次元に削減することで、2次元のグラフ上に全体の相関関係を可視化することが可能になります。

2次元に削減することで、2次元のグラフ上に全体の相関関係を可視化

上図が、2次元に変換したグラフです。
色分けは、相関行列を基にクラスタリングした結果を示しています。
それぞれの通貨の相関に基づいた類似度合いが、通貨同士の距離として反映されています。
NOK(ノルウェークローネ)は、欧州通貨の中でも資源国通貨に近い位置にありますが、ノルウェーの経済は天然ガスや原油の輸出に大きく依存していることもあって、資源国通貨としての一面もあると考えられます。
CHF(スイスフラン)は、欧州通貨に属しつつもJPY(日本円)との距離が近いです。
これは、CHFとJPYがどちらも低金利通貨であることから、低金利通貨が買われやすい・売られやすいような局面で、似たような動きをするのではないかと推測できます。
SGD(シンガポールドル)について注目すると、データ駆動でのクラスタリングで欧州通貨に選別されており、アジアの国でありつつも、通貨の動きは欧州の通貨に近い動きをしていることがわかります。

トレードに活かすためには

取引対象の通貨の相関構造を把握することで、今持っているポジションが偏ったリスクの取り方になっていないかの判断に繋がります。
例えば、AUDとNZDに対してどちらにも買いポジションを持っていても、類似した動きをするため分散効果はあまり期待できないということがわかります。
また、普段の値動きが類似したもの同士を比較して相対的に価格を判断することで、ペアトレードなど様々な戦略に応用できる可能性があります。

FX市場の金利差の影響

金利差は、為替の水準を決める大きな要素であることがよく知られています。
ここでは、FX相場の変動と金利の変化に、どのような関係性があるのかを調査していきます。

政策金利とFXリターン

FXでよく利用される8国(日本、アメリカ、欧州、イギリス、スイス、オーストラリア、ニュージーランド、カナダ)の政策金利の推移をグラフにしています。

政策金利の推移をグラフ

ここで、対象国の中で最も金利が高い通貨と、最も金利が低い通貨をグラフ化します。

対象国の中で最も金利が高い通貨と、最も金利が低い通貨をグラフ化

低金利通貨は、長期間にわたって日本円かスイスフランのどちらかとなっています。
高金利通貨は、2022年まではオセアニア通貨か米ドルでしたが、2022年は世界的に多くの国でインフレ対策の利上げが実施されたため、最も金利が高い通貨が短期間で入れ替わっています。

ここで、最も政策金利の低い国の通貨を売り、最も政策金利の高い国の通貨を買うキャリートレードの対数リターンを重ねて表示します。

最も政策金利の高い国の通貨を買うキャリートレードの対数リターンを重ねて表示

低金利通貨が売られやすく、高金利通貨が買われやすい現象は、2010年代にはあまり確認できませんが、世界的に金利差が拡大する局面(2022年)はよく機能していることがわかります。
逆に、金利差が縮小する局面(2008年や2020年)では、高金利通貨が売られて低金利通貨が買われるような傾向が見られます。

実質金利とFXリターン

次に、実質金利とFXリターンの関係性について調査します。
実質金利は、金利とインフレ率を考慮したもので、より通貨の価値を反映したデータとなる可能性があります。
下図は、各国の対米実質金利差と、FXリターンを示します。

各国の対米実質金利差と、FXリターンを示します

縦軸はFXの対数リターン、横軸は各国の実質金利で、2023年と2022年を並べて表示しています。
赤のラインは単回帰分析による回帰直線です。
2023、2022年ともに回帰直線は右肩上がりとなっているので、全体的にはFXリターンと実質金利は連動する傾向にある可能性はありますが、ばらつきも大きく明確な傾向とは言い難いような結果です。
2023年と2022年を比較すると、大きな金融政策の変更があった2022年は連動する傾向が強いことが見て取れます。
市場参加者の金利やインフレ率への関心が高い2022年のような時期には、実質金利の差が為替相場の動きを説明するうえで重要となると考えられます。

トレードに活かすためには

政策金利との結果をみると、金利差が縮小する時期は低金利通貨が買われ、金利差が拡大する時期は高金利通貨を買う流れを確認できます。
世界的な金融政策のレジームチェンジの時期は、金利の流れに逆らわないことが重要となる可能性も考えられます。
2022年は世界的な金融引き締めが起こり、株に投資している者にとっては厳しい環境でした。
しかし、仮に金融のレジームチェンジの時期に利益を出せるようなFX戦略があれば、一般的な投資対象(株、債券、金など)とは異なる特性を持つと考えられるため、ポートフォリオのリスク分散に役立たせる期待があります。

コモディティとの関係性

為替はトレード目的以外にも取引されており、例えば各国の貿易では為替決済を行う必要が生じます。
原油が取れない国は、産油国からエネルギー資源を輸入する必要がありますが、この際に自国通貨を売り輸入先の産油国通貨を買うと考えられます。
このような理由で、通貨と貿易品目には何かしらの関係性が発生する可能性があります。
ここでは、通貨リターンがコモディティとどのような関係性があるか可視化して、貿易決済の影響について考察します。

相関ヒートマップ

USD(米ドル)を基にした主要8通貨と、コモディティCFDのリターンに相関係数があるかどうかを確認するため、ヒートマップに表示していきます。

ヒートマップに表示

はじめに通貨と穀物の相関を示しました。
全体的に相関係数は低いですが、SOYBEANS(大豆)はこの中では高めの数値が出ています。
大豆と資源国通貨は少し相関関係にあるようで、とくにNOK(ノルウェークローネ)やCAD(カナダドル)といった産油国の数値が高めです。

NOK(ノルウェークローネ)やCAD(カナダドル)といった産油国の数値が高め

次に、通貨とエネルギー系のコモディティの相関です。
NOKやCADといった産油国通貨は、相関係数が高い様子が目立っています。

NOKやCADといった産油国通貨は、相関係数が高い様子が目立っています

最後に、通貨と貴金属(銅、銀、金)の相関です。
全体的に高い数値ですが、とくにAUD(オーストラリアドル)は銅、銀、金とも他の通貨よりも高水準です。
また、金はCHF(スイスフラン)とJPY(日本円)との相関係数が高いことがわかります。
金と低金利通貨は、どちらもリスクオフで買われやすいと言われることがありますが、そういった現象によるのかもしれません。

主な輸出入品目

ここまでの相関ヒートマップの結果を踏まえて、いくつかの国の輸出品目と輸入品目に注目していきます。

相関ヒートマップの結果を踏まえて、いくつかの国の輸出品目と輸入品目に注目

これはカナダの主な輸出入品目です。
エネルギー資源が豊富なカナダは、輸出品目の中でも原油が大きな割合を占めています。
先ほどの相関ヒートマップでCAD(カナダドル)とUSOIL(WTI原油)は、その他と比較しても高い相関係数でしたが、このような背景が影響していると考えることができます。

次に、AUD(オーストラリアドル)が様々なコモディティとの相関係数が高かったことに注目して、オーストラリアの主な輸出入品目を見ていきます。

オーストラリアの主な輸出入品目を見ていきます

AUDは穀物、エネルギー、貴金属のどのコモディティに対しても高めの相関係数が出ていましたが、オーストラリアの輸出品目に注目すると鉱産資源が豊富にあることがわかります。

最後に、金との相関係数が最も高かったCHF(スイスフラン)に注目し、スイスの輸出入品目を確認します。

金との相関係数が最も高かったCHF(スイスフラン)に注目し、スイスの輸出入品目を確認

スイスは、金の貿易が輸出入ともに大きな割合を占めています。
スイスは金の産出量が多いわけではありませんが、重要な国際金融市場として知られていて、金取引も盛んに行われています。
CHFと金の相関係数が高い背景には、こういった理由が考えられます。

トレードに活かすためには

通貨間の相関と同じように、金の買いポジションを持ちつつ、CHFも買っているようなときはリスクが偏っている可能性があるため、注意が必要になることもあります。
また、ペアトレードのような戦略に利用できる可能性もあります。
原油価格を用いて為替レートを予測する研究を、ひとつ紹介します。
Karlsen JLS, Mjøen MB (2015) Forecasting The Norwegian Krone Exchange Rate Using The Oil Price ( https://ntnuopen.ntnu.no/ntnu-xmlui/handle/11250/2382625 )
この論文は、原油価格からNOK(ノルウェークローネ)を予測する試みをしています。
ノルウェーはブレンド原油の産油国なので、NOKの一時的な買われすぎ・売られすぎは、原油との相対的な価格が反映されている状況もあり得ると考えられます。
実際は、NOKはトレードするにはスプレッド等のコストが高いですが、同様の現象がCAD(カナダドル)と原油、CHF(スイスフラン)と金などの組み合わせにもないかどうかは、研究の余地があるかもしれません。

値決めの影響

東京仲値やロンドンフィキシングなどの値決めは、FX市場に影響を与える可能性についても、よく言及されているトピックです。
Ingomar Krohn,Philippe Mueller, Paul Whelan (2020) Foreign Exchange Fixings and Returns Around the Clock ( https://papers.ssrn.com/sol3/papers.cfm?abstract_id=3521370 )
この論文では、値決め(東京仲値、ECBフィキシング、ロンドンフィキシング)の時間に近づくにつれて米ドルが買われて、値決め後は米ドルが売られる傾向について考察しています。
ここでは、過去3年のデータを使ったUSDに対する平均的なリターンを用いて、東京仲値、ECBフィキシング、ロンドンフィキシングの影響を調べていきます。

東京仲値

東京仲値は、日本時間9:55です。
下グラフは、複数の通貨の影響を見やすく整理するため、資源国通貨、欧州通貨、エマージング通貨、アジア通貨の4つに分けて表示しています。

アジア通貨の4つに分けて表示

右下の日本円は東京仲値前に売られて、東京仲値後に買われる傾向が確認できます。
USDJPYとして考えると東京仲値前に買われ、東京仲値後に売られる傾向となることに注意してください。
さらに、資源国通貨にも同じような傾向があることがわかります。

ECBフィキシング

ECBフィキシングは、現地時間で14:15です。

ECBフィキシングには、目立った傾向は確認できません

ECBフィキシングには、目立った傾向は確認できません。
14:30に目立つ反応がありますが、サマータイムずれの影響による一部の時期を除いて、米国の経済指標の発表時刻になるため、ボラティリティの跳ね上げがグラフに影響していると考えられます。

ロンドンフィキシング

ロンドンフィキシングは、現地時間で16:00です。
8:00にもフィキシング(通称ロンパチ)がありますが、ここでは16時のフィキシングを扱います。

ロンドンフィキシングは、明確に値動きに影響していると断定できませんが、一部で反転しているような現象を確認

ロンドンフィキシングは、明確に値動きに影響していると断定できませんが、一部で反転しているような現象を確認できます。
欧州通貨に関しては、ロンドンフィキシング付近で全体的に買われていました。

NYカット

NYカットは、通貨オプションの期限となる時間帯です。
値決めではありませんが、オプションが権利行使される時刻はFX市場に影響を与える可能性があるので、同様に可視化していきます。

NYカットは、全体的に目立った傾向を確認

NYカットは、全体的に目立った傾向を確認できます。
特に、NYカット直前に米ドルが買われ、直後に米ドルが売られていたような結果となっています。

上記の値決めについてのグラフは、目立った傾向が確認できるところは、必ずしも買われやすい、または売られやすい傾向を示すものではなく、ボラティリティの高騰を示唆していることもあるため注意してください。

トレードに活かすためには

東京仲値は、貿易決済が持ち込まれることや、ゴト払いの慣習がある背景から、日付を五十日に絞って取引戦略に利用されることがあります。
ただし、日付やその他条件に制限をかけることで、戦略にするとどうなるかについては、研究する価値があるかもしれません。
今回は、買われやすいか、売られやすいかに注目しましたが、反転しやすい傾向があるのかなどといった視点で調査しても、トレードのタイミングとして利用できる可能性があります。

本記事の執筆者:藍崎@システムトレーダー

               
本記事の執筆者:藍崎@システムトレーダー 経歴
藍崎@システムトレーダー個人投資家としてEA開発&システムトレード。
トレードに活かすためのデータサイエンス / 統計学 / 数理ファイナンス / 客観的なデータに基づくテクニカル分析 / 機械学習 / MQL5 / Python

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