シルバーの需要と供給|需要を主要な分野ごとに詳しく解説
2. シルバーの需要
シルバーの需給と供給|鉱山生産やそのコスト、埋蔵量から詳しく解説であげた需給表をふたたびみてみましょう。今回は需要です。
最大の需要は工業用需要で16299トン、そのうち3267トンが近年最も伸びている太陽光発電です。工業用需要の次に大きいのが投資分野の7862トン、そして5734トンの宝飾品、1340トンの銀器と続きます。
シルバーの需要のうち約半分が工業用の需要であり、残りの半分の現物投資需要と宝飾品そして銀器需要は、幅広い意味でのシルバーをそのままの形でつかう「シルバー投資」と考えてよいでしょう。
この基準で考えると、ゴールドではその需要の9割が投資、工業用需要は1割であり、シルバーが「工業用メタル」であることがわかると思います。
(シルバー需給表)
a.工業用需要
シルバーの工業用需要(16,299トン)のメインは電子材分野です。
なかなか具体的に我々の目に直接入ってくるものではありませんが、例えば接点のような部品にシルバーは使われており、一台の自動車に使われるシルバーの部品は500個を超えると言われています。そういった意味ではあらゆるものにシルバーは使われていると言ってもいいでしょう。
その他具体的には、はんだに鉛の変わりに使われていたり、合成樹脂の材料となるエチレンオキシド製造の触媒としての利用されたり、近年最も伸びている太陽光パネルにぬられるシルバーペーストなど、その化学的特質を生かした利用先は増える一方です。
これらの新しい分野の利用が増えることにより、数十年前はもっとも大きな需要分野であったフィルム(感光材)が、デジタルカメラの登場により激減した分を補って余りある需要となっています。
(世界のシルバー工業用需要の分野別推移)
(地域別乗用車生産数推移)
b.太陽光(Photovoltaic)需要
脱炭素への動きが世界の潮流となっている現在、シルバー需要の最も伸びている分野が太陽光発電の分野(3,267トン)です。太陽光パネルにシルバーペーストが薄く塗られているのです。
現在、世界が「脱炭素社会」へと大きく舵を切る中、もっとも期待が大きく、また実際に伸びているクリーンエネルギーが太陽光です。30ヵ国以上が来る数十年の間にゼロカーボンを達成することを目標としており、太陽光パネルの設置は着実に伸びています。
2020年に世界での太陽光発電による発電量は130GWを超え、各国の発電量は18ヵ国が1GWを超えています。2010年にはこのレベルの国はわずか6ヵ国だけであったことを考えると、10年で3倍に伸びたこととなります。この結果、2021年にはこの分野のシルバー需要は3,267トンとなりました。
技術革新により「省シルバー化」、つまり太陽光パネル一枚当たりのシルバー使用量の減少が10年で8割も進んでいるのにも関わらず、シルバーの使用量総量は毎年13~14%の割合で増大しています。これはいかにこの分野のシルバー需要の増大のスピードが大きいかを示しています。
将来的にもまだまだこの分野でのシルバーの需要は伸びると考えられます。
(太陽光シルバー需要とパネル一枚当たりのシルバー使用量(2011年を100とした指数))
c.フィルム需要
最初にも触れましたが、昔はフィルム(感光材)需要が、シルバーの最大の需要でありました。
コダックやフジフィルムと言ったフィルムメーカーがもっとも大量にシルバーを使う需要家でしたが、デジタルカメラとそれに続くスマートフォンによる写真のデジタル化により、この分野のシルバー需要は激減しました。10年前は1600トンだったものが、現在は895トンとほぼ半減しています。
いまだにあるフィルム需要は主に医療用のレントゲン写真と映画のフィルムですが、この両分野ともにやはりデジタル化がすすみつつあり、今後もフィルム需要は減少傾向が進んでいくことが予想されています。
(フィルム需要とフィルム製造量)
(写真需要の推移)
d.宝飾と銀器
宝飾品需要(5,734トン)もシルバーにとっては大きな需要分野です。最大の需要国はインドで、それに続くのがタイ、中国、そしてイタリアとなります。
銀器需要(1,340トン)はいわゆる銀食器ですが、こちらもインドが最大の需要国です。中世には欧州の貴族が好んで銀食器を使っていました。その一つの理由として、毒殺に使われるヒ素に反応して色が変化するから、と言われています。
(世界の宝飾加工需要)
(世界の銀食器加工需要)
Provided by
池水 雄一(Bruce Ikemizu)
1986年上智大学外国語学部英語学科卒業後、住友商事株式会社。
1990年クレディ・スイス銀行、1992年三井物産株式会社で貴金属チームを率いる。
2006年スタンダードバンクに移籍、2009年同東京支店支店長就任。
2019年9月日本貴金属マーケット協会代表理事。
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