原油価格の変動要因は?供給と需要、地政学的リスクなど徹底解説
1.供給面の要因
原油の供給面では産油国、特にOPEC(石油輸出国機構)の動向が注目されています。OPECは原油価格を維持するため、定時総会と年数回の臨時総会を開催して、OPEC全体での生産枠を協議しています。
需給引き締めのために生産枠の削減に成功すれば価格は上昇し、生産枠を拡大すると価格が下落する要因となりやすいです。なお、生産枠を削減しても、実際の生産量を減らすことができなければ、価格への影響は限られます。つまり、生産枠は常態的に守られておらず、それが世界に周知されているため、必ずしも価格がそのように動くわけではありません。
全世界の原油消費量のうち、2020年12月時点のOPECへの依存度は35%前後で、その設立当初と比べると低下しています。近年の原油消費の伸びや価格上昇の影響に加えてOPECの結束の強さから、OPECの価格への影響力が再び高まった時期もありましたが、以前に比べると原油価格の支配力は低下しています。
これは原油掘削技術が進歩し、新規油田の開発が全世界で進められたためです。また各国が備蓄政策をとっているので、原油の供給が減少しても、すぐ石油不足に陥ることもありません。なお、産油国の政情不安、テロなどの地政学的リスクも注目されます。政情不安が石油供給不安につながるようなら、原油価格は上昇することとなります。
なお、OPECではバスケット価格を算出して、その目標価格帯(プライスバンド)を22~28ドルとして、下限を10営業日連続で下回った場合は日量50万バレル減産し、逆に上限を20営業日連続で上回った場合は日量50万バレル増産する体制をとっていました。
しかし、バスケット価格が1年以上にわたってプライスバンドの上限(28ドル)を超えた状態が続き、価格が現実的でなくなったことから、2005年1月30日のOPEC臨時総会でプライスバンドの運用を一時停止することを決め、現在(2020年)も停止したままとなっています。
2.需要面の要因
原油の需要は、世界全体の景気動向がカギを握ります。世界の景気が上向けば需要の増加から原油価格は上昇し、後退すれば需要が減って原油価格は下落します。1998年~1999年初頭までの原油価格の低迷は、順調に成長していた東南アジア経済が危機に見舞われた影響が大きいといわれています。
米国や中国の景気・需要動向は、特に注目されます。米国は世界需要の4分の1を占める世界最大の需要国です。また、2000年以降、経済成長の著しい中国は、2009年に日本を抜いて世界第2位の原油消費量となりました。
米国ではガソリンやヒーティングオイルの需要・価格動向が、原油価格へ影響を与えるケースも多いです。夏場はガソリンの需要期となり、その需給や在庫の動向が価格へ影響を与え、冬場はヒーティングオイルの需要期となり、その需給や在庫の動向が価格へ影響を与えます。
3.世界の火薬庫に産油国が集中
近年、原油価格の大きな変動要因の一つになっているのが、中東や北アフリカの政情不安、テロなどの地政学的リスクです。世界の火薬庫と呼ばれる地域に、世界有数の産油国が集中しているため、潜在的にそのようなリスクは付きものです。1948年のイスラエルの建国以降、四度にわたる中東戦争、さらには今も続くパレスチナ問題など、ユダヤ人とアラブ人の対立がこのようなリスクの根本にあるのは間違いありません。
ただ、それだけではなく、イスラム・スンニ派とシーア派の宗教対立、一部の王侯貴族と庶民の格差拡大、極端な女性差別、宗教原理主義的な法体系、一部の独裁者の誕生、さらにはクルド人などの他民族との紛争など、問題は多岐にわたっています。
4.地政学的リスクと過去の原油の値動き
過去の中東や北アフリカの地政学的リスクで、ニューヨークWTI原油価格が大きく動いた事例を挙げると、1990年8月にイラクがクウェートに侵攻した湾岸危機の時には、9月に40ドル超まで急伸しました。しかし戦争が始まった1991年1月には18.00ドルまで崩れていきました。
2003年2月には、イラク侵攻懸念で再び40ドル近くまで急伸しましたが、実際に戦争が始まった3月には26.30ドルまで下落しました。
2008年初めには、トルコ軍によるイラク北部キルクーク油田があるクルド人自治区への空爆や、ナイジェリアの紛争などで、100ドルの節目を突破しました。さらに、イランのミサイル発射実験の実施によるイランとイスラエルの緊張化で、2008年7月には147.27ドルの史上最高値をつけました。
なお、戦争あるいはその懸念ばかりでなく、中東や北アフリカでのテロ活動の常態化も見落とせません。2001年9月の米国同時多発テロをきっかけとした多国籍軍のアフガニスタン侵攻以降、それは顕著になっています。
2010年12月のチュニジアの暴動に端を発した一連の「アラブの春」により、2011年2月にはリーマンショック(2008年)後、初めて100ドル台に乗せて、5月には114.83ドルの高値を付けました。
これはエジプトのムバラク大統領、リビアのカダフィ大佐を排除し、民主化のもと一定の成果を上げたといわれます。しかし、必ずしも改革が進んだとはいえず、失業、治安、経済などの問題は残り、武装勢力の拡散につながっている面があります。そしてこれが2013年1月、日本人の犠牲者が出たアルジェリアのテロにもつながりました。また、産油国ではありませんが、シリアではアサド大統領の排除を狙った反政府運動が起こり、その後も泥沼化した内戦が進行中です。
5.地政学的リスクはブレント原油価格の上昇要因
中東・北アフリカの地政学的リスクが常態化しているため、近年の原油価格に如実に現れている事象として、WTI原油と北海ブレント原油のサヤの逆転が挙げられます。
本来は平均してAPI度が高くより軽質なWTI原油が、ブレント原油より上ザヤにあるべきで、実際に長年それが「常識」でした。しかし、2007年以降は、その常識が徐々に通じなくなり、「アラブの春」に歩調を合わせて、2021年8月時点でもブレント原油がWTI原油よりも高い状態が常態化しています。
これは、ブレント原油自体の供給が細ってきたという要因ももちろんですが、地政学的リスクでアフリカ産の供給懸念が常態化している背景もあります。なぜなら、アフリカ産はブレント原油にリンクして取引されているためです。つまり、中東・北アフリカの地政学的リスクは、WTI原油以上にブレント原油を押し上げる側面があるといえます。
原油の需要は、世界全体の景気動向がカギを握ります。世界の景気が上向けば需要の増加から原油価格は上昇し、後退すれば需要が減って原油価格は下落します。1998年~1999年初頭までの原油価格の低迷は、順調に成長していた東南アジア経済が危機に見舞われた影響が大きいといわれています。
米国や中国の景気・需要動向は、特に注目されます。米国は世界需要の4分の1を占める世界最大の需要国です。また、2000年以降、経済成長の著しい中国は、2009年に日本を抜いて世界第2位の原油消費量となりました。
米国ではガソリンやヒーティングオイルの需要・価格動向が、原油価格へ影響を与えるケースも多いです。夏場はガソリンの需要期となり、その需給や在庫の動向が価格へ影響を与え、冬場はヒーティングオイルの需要期となり、その需給や在庫の動向が価格へ影響を与えます。
6.天然ガス、太陽光発電、風力発電などの新エネルギー
原油は最大のエネルギー資源ですが、ここ数年、原油以外のエネルギー資源の供給が増え、原油価格の形成にも影響を与えています。天然ガス、太陽光発電、風力発電などの新エネルギーと称される生産が年々増え、エネルギー資源のシェアは徐々に変わりつつあります。
2011年は、エネルギー政策面で、ターニングポイントとなる大きな出来事がありました。一つは、3月11日に発生した東日本大震災です。これにより、短期的な石油の供給障害が発生し、その後は福島第一原発事故を受けた全国の原発の稼働停止の長期化により、電力の供給が火力発電などに移行しました。そして石油需要の増加が促された結果、燃料となるC重油の輸入や販売が前年に比べ急増しました。
中長期的には、脱原発を志向する流れが強まり、すでに温暖化対策や環境対策で近年いわれてきた太陽光発電、風力発電などの新エネルギーがクローズアップされることになりました。また、発電以外の需要面でも、エタノールなどバイオ燃料の動向が注目されています。
2011年のもう一つの大きな出来事は、「シェールガス革命」です。米国を中心にシェールガスやシェールオイルの開発・増産が進み、これが米国の天然ガス価格の長期低迷の主因となりました。それと共に、これまでのオイルピーク説による石油枯渇懸念が半世紀は先送りされるとみられています。
7.シェールガス革命
シェールガスとは、頁(けつ)岩(がん)層から採取される天然ガスのことで、従来のガス田ではない場所から生産されています。
ある試算では、1キロワット当たりの発電コストが、石油10円、風力20円、太陽光35円に対し、シェールガスは6円と安いです。加えて、埋蔵量が少なくとも150年分と原油の約3倍確認されています(一部には300年以上あるとの見方もあります)。また、シェールガスのCO2排出量は、石炭に対し40%、石油に対し15%も抑えられます。つまり、コストが安いうえ、埋蔵量も多く、さらには環境にも優しいという良質の資源といわれています。
現在、広く埋蔵が確認されているのは、米国、カナダ、ブラジル、アルゼンチン、オーストラリア、中国、欧州、南アフリカ共和国などです。現状では米国での生産が最大で、中国も開発に着手しているほか、カナダ、オーストラリアでも開発の計画が進んでいます。これらを考えると、今後もシェールガスは原油の需要に大きな影響を与えるとみられます。
8.環境に優しい再生可能エネルギー
温暖化対策としてCO2の排出削減のため、また特に東日本大震災以降は脱原発の動きも加わり、ソーラーシステムを使った太陽光発電をはじめ、風力、水力、地熱発電など、環境に優しい再生可能エネルギー(新エネルギー)がこれまで以上に脚光を浴びるようになってきました。
1997年に施行された「新エネルギー利用等の促進に関する特別措置法(新エネ法)」の対象は、太陽光発電、風力発電、太陽熱利用、温度差エネルギー、廃棄物発電、廃棄物熱利用、廃棄物燃料製造、バイオマス発電、バイオマス熱利用、バイオマス燃料、燃料電池など、多岐にわたります。
2011年以前の発電量の構成は、長らく火力(天然ガス、石油、石炭)が約60%、原子力が30%、水力が9%、新エネルギーが1%程度で推移していました。しかし、福島第一原発事故を受けて、全国の原発の停止が長期化したことで、原子力の発電量が大幅に減少し、その分を火力で補った形となりました。
全体の発電量に対する新エネルギーの比率はまだ微々たるものですが、徐々に比率は高まっています。前項のシェールガスによる天然ガス発電が急増するのか否か、あるいは、原発の再稼働で原子力の発電が大きく回復するのか否かが、原油の需要に影響するとみられています。
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週間原油在庫と天然ガス貯蔵量(EIA)
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本記事の監修者・佐藤りゅうじ
1968年生まれ。1993年米大卒業後、1995年2月株式会社ゼネックス入社。アナリストとしてマクロ経済分析をはじめ、原油、天然ゴム、小麦などの商品市場、また為替市場、株式市場のアナリストリポートの執筆、トレードに携わる。2010年1月エイチスクエア株式会社を設立。
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