FX・CFDで法人化する9つのメリット・3つのデメリットを税理士が解説
FX取引で利益が安定して出せるようになったら、法人化を検討したいと考える人も少なくないと思います。
今回は、法人化するメリット、デメリットについて考えてみたいと思います。
1.単純な税率のメリットはない
FXから得た利益又はFXの所得に関する税率は、個人の場合、一律20.315%(所得税および復興特別所得税15.315%、地方税(住民税)5%)です。
所得が増えるほど税率が上がる給与等の所得と異なり、利益が増えても同じ税率が適用されるため、大きな利益を出した方にも優しい課税制度(申告分離課税)です。
これに対し、法人化した場合、資本金が1億円以下等の法人であれば、800万円までの利益に15%、800万円を超える部分は23.20%の税率で法人税が発生します。
その他、地方法人税(法人税の金額の10.3%)、法人事業税、法人住民税が課税され、利益に対して概ね30%程度の税率となるケースが多いです。
【資本金1億円以下等の普通法人の法人税の税率】
区分 | 税率 | |
---|---|---|
資本金1億円以下等の法人 | 年800万円以下の部分 | 15% |
年800万円超の部分 | 23.20% |
【資本金1億円以下の普通法人の法人事業税の税率の例(東京都の場合)】
区分 | 標準税率 | |
---|---|---|
資本金1億円以下の法人 | 年400万円以下の所得 | 3.5% |
年400万円超800万円以下の所得 | 5.3% | |
年800万円超の所得 | 7.0% |
また、一定の条件の元、役員報酬として代表者に支払った分は経費に計上できるので、個人事業と比較して利益を圧縮することができますが、支払い金額に応じ、個人の所得税の課税対象となります。
この際、給与所得者の扶養控除等申告書を提出することにより、給与所得控除を受けることができますが、税率は給与と同じく、累進課税の税率となり、所得が増えるにつれて、税率が高くなります(最大45%)。
なお、給与所得控除は副業でFXを行う場合には、本業給与との合算での判定となります。
同様に所得の金額に応じて翌年の住民税が計算され、住民税の支払いも別途発生します。
【給与所得控除の金額】
給与等の収入金額 (給与所得の源泉徴収票の支払金額) |
給与所得控除額 |
---|---|
1,625,000円まで | 550,000円 |
1,625,001円から1,800,000円まで | 収入金額×40%-100,000円 |
1,800,001円から3,600,000円まで | 収入金額×30%+80,000円 |
3,600,001円から6,600,000円まで | 収入金額×20%+440,000円 |
6,600,001円から8,500,000円まで | 収入金額×10%+1,100,000円 |
8,500,001円以上 | 1,950,000円(上限) |
【役員報酬にかかる所得税の税率】
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000円 から 1,949,000円まで | 5% | 0円 |
1,950,000円 から 3,299,000円まで | 10% | 97,500円 |
3,300,000円 から 6,949,000円まで | 20% | 427,500円 |
6,950,000円 から 8,999,000円まで | 23% | 636,000円 |
9,000,000円 から 17,999,000円まで | 33% | 1,536,000円 |
18,000,000円 から 39,999,000円まで | 40% | 2,796,000円 |
40,000,000円 以上 | 45% | 4,796,000円 |
配当で受け取る場合は、一律20.315%(所得税および復興特別所得税15.315%、地方税5%)と税率は低いですが、法人税を支払った後の利益となるので、法人と個人で二重で税金を支払うことになり、支払う税金は多くなることが多いのが一般的です。
このように、FXから得た利益又はFXの所得に関しては、法人化することで税率が高くなるケースも多いため、単純な税負担の面からは、メリットは少ないと言えます。
2.法人化のメリット
前述の通り、税率のみで判断すると、法人化するメリットはほとんどありませんが、一部で法人化するメリットもあります。
2-1.損益通算できる
収益がFXのみという場合は、前述の通り、税金上のメリットはありませんが、他の事業や投資(FX、CFD、先物取引以外)を行なっている場合は法人化した方が、税金面で有利な場合があります。
個人の所得税法上の所得の種類は、
- ①利子所得
- ②配当所得
- ③不動産所得
- ④事業所得
- ⑤給与所得
- ⑥退職所得
- ⑦山林所得
- ⑧譲渡所得
- ⑨一時所得
- ⑩雑所得
この10種類の所得のうち、個人のFXやCFD取引の利益は「⑩雑所得」内の「先物取引に係る雑所得等」として申告分離課税となるため、他の事業所得と分離されて課税されます。
これに対し、株式の売買で発生した損益も同じ分離課税ですが、区分が「⑧譲渡所得」と異なるため、損益を通算することができません。
このため、例えば、FXトレードのほか、株式のトレードをしているという場合に株式で200万円の損失、FXのトレードで200万円の利益という場合、損益を合算すると、利益は0円ですが、個人の場合、この2つの損益を通算できないため、FXトレードの利益の200万円に対して40万円程度の税金が発生します。
これに対し、法人の場合はすべての事業の損益を通算することができるので、このケースの場合は利益が0円となり、法人税が発生しないということになります。
このように他の事業や投資(FX、CFD、先物取引以外)を行なっている場合に一方で利益、一方で損失が発生するような場合は、損益通算することにより、税金の負担が減る場合があります。
2-2.最大10年間欠損金の繰越控除ができる
「先物取引に係る雑所得等」に関しては、個人の場合、3年間の損失を繰り越すことができますが、法人の場合は一定の要件の下で、最大で10年間※損失を繰り越すことができます。
仮に大きな損失を出してしまうような事態になった場合でも、その後の10年間に発生する利益から控除することができるので、個人の場合に比べ、税負担が少なくなる場合があります。
※平成30年4月1日前に開始した事業年度において生じた欠損金額の繰越期間は9年です。
>青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越控除
2-3.欠損金の繰戻しによる還付
資本金が1億円以下の一定の法人の場合、前期は黒字であったけれど、今期は赤字になってしまったときは、「欠損金の繰戻しによる還付」制度により、前期に支払った法人税の一部の還付を受けることができます。
つまり、前期に1000万円の利益があり、法人税を納付した後、今期、500万円の損失が発生した場合、納付した法人税の一部を還付してもらえるという制度です。
>欠損金の繰戻しによる還付
2-4.複数人での運用が容易
個人の口座で投資を行う場合は、個人の資産の運用となるため、本人の判断で本人が取引を行わなければなりません。
そして、損益は個人に帰属します。
自動売買の場合でも同様に、本人が自分の判断で設定したプログラムをもとに取引を行い、損益は個人に帰属します。
よって、複数人の共同作業で取引を行い、利益を享受するのは簡単ではありません。
これに対し、法人で口座を開設した場合は、法人名義の口座で取引することになるので、担当者Aさんは分析に専念し、担当者Bさんは取引に専念するというような分業体制で運用を行い、利益を享受するということが容易になります。
2-5.厚生年金に加入することができる
法人を設立し、役員報酬が発生すると、社会保険に加入する義務があります。
個人の場合の国民年金に比べ、厚生年金に加入した方が、支給される年金額が増えるので、将来に対する備えが増えるというメリットがあります。
2-6.節税対策をしやすい
法人化すると、法人は明確に個人と分離した人格となるので、個人事業主と比較すると、経費として認められる部分が増え、節税対策を行いやすくなります。
2-7.決算期を自由に決めることができる
個人の場合は課税期間が毎年1月1日から12月31日と決められているのに対し、法人は事業年度(課税期間)を自由に定めることが可能です。
例えば、6月1日から翌年5月31日までというような定め方をすることができます。
事業の繁忙期と事務処理の繁忙期をずらし、業務の負荷を分散することができます。
2-8.代表者の肩書きを手に入れることができる
法人の代表者になると、株式会社の場合は「代表取締役」、合同会社の場合は「代表社員」のように代表者の肩書きを得ることができます。
代表者の肩書きを名刺等に記載することもできるため、一般的に個人事業主に比べ、印象がよくなります。
2-9.法人用のレバレッジでトレードできる
FX取引では、個人の場合は法律により、最大で25倍のレバレッジに制限されていますが、法人の場合は、一般的に個人よりも高いレバレッジで取引することができます。
高いレバレッジでトレードすることで、リスクも増えますが、チャンスにポジションを増やすことも可能になり、投資資金を最大限活かすことができます。
>法人口座のレバレッジはこちら
3.法人化のデメリット
法人化した場合のデメリットとしては、前述の単純な税率が高いということのほか、次の3つが主に挙げられます。
3-1.設立費用、運営に労力、コストがかかる
法人を設立するには、会社設立手続きを行わなければなりません。
また、設立に際し、最低でも合同会社の場合は6万円(登録免許税)、株式会社の場合は20万円(登録免許税+定款認証手数料)が必要です。
設立後も、税務や社会保険の手続き、役員報酬の計算等を行う必要があり、個人の場合と比較し、事務処理の作業量が増えます。
自分で行う場合は、事務処理のために一定の時間と労力を費やすことになります。
会社の事務処理は、ある程度は専門家にアウトソースするという方法もありますが、この場合、一定のコストが発生します。
また、利益が出ない場合も、毎年、法人住民税(年間7万円程度)が発生します。
>法人に必要な事務処理についてはこちら
3-2.自由にお金を使うことができない
個人の場合は、利益が出たら、税金相当額など、必要な分を留保しておけば、ある程度自由に使うことができますが、法人の場合は少し制限があります。
法人の収益を個人に移転するには、主に役員報酬で受け取りますが、役員報酬を損金として計上するには、毎月同額でなければならない等の一定のルールに従う必要があり、利益が出たからといってすぐにそのお金を自由に使えるわけではないというデメリットがあります。
3-3.法人を解散する手続きも面倒
仮に、法人が必要なくなり、清算を行うときには、法務局で解散登記、税務署への解散届出、解散公告や債権者への通知等の解散手続きを行なった後、法務局で清算結了登記、税務署への清算届出を行う必要があります。
解散の公告期間が2ヶ月以上となるため、少なくとも清算手続きは最低でも2ヶ月以上かかるほか、解散公告や登記の費用が発生します。
まとめ
現在の税制では、FXの利益が大きくなってきたからといって、単純な税率からは法人化をするメリットはありませんが、損益通算や繰越控除の年数が長い等のメリットもあり、ご自身の実情に合わせて法人化を検討されてみてはいかがでしょうか。
本記事の執筆者
税理士・行政書士・社会保険労務士によるFX・CFDの法人口座に関する記事一覧
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FX・CFDの法人口座のメリット・デメリットから会社設立、設立後の事後処理や届出までを詳しく解説しています。
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