リミテッド・パートナーシップ契約(LPA)とは?特徴的な10の条項をGT東京法律事務所の弁護士が解説
本記事の執筆者
大橋 宏一郎(弁護士) | 慶応義塾大学法学部卒(1989年)、コロンビア大学ロースクール法学修士号取得(2001年)、日本と米国NY州の弁護士資格を持つ。 主な取扱分野は、国内外の銀行取引、スポンサード米国預託証券プログラムの設定等の資本市場取引、ファンドおよび投資運用関連事案(プライベート・エクイティ、ヘッジ・ファンド、REIT)を含む、様々な金融取引事案およびコーポレート事案(特に合併買収、企業再編取引)。 GT東京法律事務所(Greenberg Traurig LLPの東京事務所)に所属。 |
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リミテッド・パートナーシップ契約(LPA)とは?
リミテッド・パートナーシップ契約(以下、「LPA」)は、外国籍PEファンド等で多く採用されるリミテッド・パートナーシップ形式のファンドにおける基幹契約です。
LPAには、リミテッド・パートナー(LP)となった投資家及びジェネラル・パートナー(GP)であるファンド運用者の権利義務を定めています。
LPAは、LP及びGPの基本的な権利義務を規定する契約ですので、全ての投資家が同じ内容の契約書を用いて契約します。
そのため、投資家が、個々の事情によりLPAの内容を変更することはできないのが通常ですが、変更する場合は、Subscription Agreement(ファンド持分販売契約書)にLPAの内容を変更する条項を組み入れたり、別途サイドレターアグリーメントを交わすことで、対応することがあります。
今回は、LPAにおける契約条項のうち、特徴的な条項を数点概説します。
1.キャピタル・コール条項
既にお話ししたとおり、PEファンドにおいては、キャピタル・コールのメカニズムが非常に重要です(ファンド講話5ご参照)。
したがって、LPAにも、キャピタル・コールをかけられる期間(コミットメント・ピリオド)、キャピタル・コールの方法、投資家の資金拠出義務等について規定しています。
なお、PEファンドにとってキャピタル・コールによって資金の拠出を受けることは投資を実現するために必要不可欠な為、LPAには、投資家が資金拠出義務に違反した場合の制裁条項(遅延利息、分配の停止、持分の没収等)が規定されています。
2.ファンド費用支払い条項
ファンドが得た収益については、あらかじめLPAで定めた順序で分配されますが、多くの場合は、まずファンド運用者への出資金の運用の対価としての運用報酬やその他費用等の支払いに充て、次に残額をLP、GPで分け合っていくことになります。
ファンド費用支払い条項は、ウォーターフォール条項と呼ばれており、ファンドが得た収益から、定められた優先順位に従って必要な支払を順々に行っていく流れを、水が滝のように落ちることに例えています。
ウォーターフォールの順序は、例えば下記のようになっています。
3.GPの権限及び制限条項
LPAでは、GPに(実際にはGPから委託を受けた、インベストメント・マネージャー(IM)やアドミニストレーターが行いますが)、ファンドの運用権限を付与します。
また、借入れ制限など、GPの権限を制限する条項も設定します。
4.投資制限条項
ファンド財産を1点に集中投資をしてしまうと、投資先の状況次第では、ファンド財産を一度に棄損するリスクが高くなります。
したがって、多くのファンドでは、複数の投資先に資金を分け、資産全体でリスクを分散、軽減する方法でファンド財産の運用を行っています。
例えば、コミットメント総額の15%を超える財産を一の投資対象に投資することを禁ずることや、為替ヘッジ以外を目的とする先物取引の取引制限等が設定されています。
5.有限責任条項
投資資金を拠出するだけで、ファンドの投資運用に関与しないLPは、ファンドに何らかの責任が生じたとしても、自らの最大キャピタル・コミットメント総額の範囲でしか責任を負わないとする原則が規定されます。
ただし、LPが故意又は過失により表明保証条項等の違反をした場合は、これによって生ずる責任について、キャピタル・コミットメント総額を超える責任を負担する場合もあります。
また、特に、LPがGPからのキャピタル・コールに応じて払込義務を履行しなかった場合は、出資総額を超える責任に加えその他、重いペナルティが課されます。
LPからの資金拠出がなければ、ファンド自体が投資先との関係で契約不履行に陥る可能性があるからです。
6.免責条項
GP及びGPから委託を受けたIMがファンドのために行う作為・不作為、ファンドの法律顧問や会計顧問の助言に依拠して行った作為・不作為等から生じる責任については、GP及びIMを免責する条項が置かれます。
ただし、故意又は過失による作為・不作為については、免責の対象外です。
7.利益相反条項
GP及びIMは、LPの出資金を預かるため、ファンド資産に対し重い忠実義務を負います。
したがって、常にLPの利益を最優先して活動しなくてはならず、自己の利益を図る行為(例えば、GP及びIMが経済的利害関係を有する投資対象に投資すること)は原則としてできません。
ただし、上場有価証券に投資することは許される場合が多く、また、LPの同意があれば、GP及びIMが経済的利害関係を有する投資対象に投資することもできます。
8.委員会条項
PEファンドには、多くの場合、代表委員会、諮問委員会、投資委員会といった名称の委員会が存在します。
これらの委員会は、GP及びIMの代表者と主要なLPの代表者により構成され、投資制限を超える投資の決定、利益相反行為の同意、投資期間の延長、IMの解任等、ファンドの運営にとって重要な事項についてLPの代表者と協議をするものです。
委員となるLPにとって留意すべきことは、重要な投資の決定等に関与してしまうと、ファンドの投資運用に関与していないと言えなくなり、有限責任性を失う可能性がある点です。
9.帳簿・レポート条項
ファンド投資では、LPは出資だけを行い、ファンドの投資運用はすべてGP及びIMに一任するため、どのような運用がなされたかを知ることはLPにとって重要な権利です。
そこで、LPAには、各種レポート(運用報告書、監査済財務諸表等)を定期的にLPに配布すべきことが規定されています。
また、GP及びIM、アドミニストレーターが保管している帳簿を閲覧する権利をLPに付与している場合も多いです。
10.準拠法・裁判管轄条項
LPAの準拠法は、原則として、リミテッド・パートナーシップが設立された国又は地域の法律になります。
したがって、ケイマン籍ファンドであればケイマン諸島法、ルクセンブルク籍ファンドであればルクセンブルク法が準拠法となります。
そして、裁判管轄も、基本的に準拠法国(地域)の裁判所が指定されます。
ただし、一般投資家も投資するようなファンドの場合、消費者契約に該当し、民事訴訟法3条の4により、個人であるLPは、裁判管轄の合意にかかわらず、日本の裁判所に提訴することができます。
また、法の適用に関する通則法11条により、日本の強行法規を適用して紛争解決を図ることも可能です。
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本記事では、ファンドへの投資後に、投資家に対して行われる運用財産に関する報告について詳しく解説します。
29.ファンド持分の償還についてGT東京法律事務所の弁護士が解説
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本記事では、償還の仕組みについて詳しく解説します。
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