なぜ外国籍ファンドはケイマン諸島が多いのか?4つの理由をGT東京法律事務所の弁護士が解説
本記事の執筆者
大橋 宏一郎(弁護士) | 慶応義塾大学法学部卒(1989年)、コロンビア大学ロースクール法学修士号取得(2001年)、日本と米国NY州の弁護士資格を持つ。 主な取扱分野は、国内外の銀行取引、スポンサード米国預託証券プログラムの設定等の資本市場取引、ファンドおよび投資運用関連事案(プライベート・エクイティ、ヘッジ・ファンド、REIT)を含む、様々な金融取引事案およびコーポレート事案(特に合併買収、企業再編取引)。 GT東京法律事務所(Greenberg Traurig LLPの東京事務所)に所属。 |
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1.はじめに
外国籍ファンドには、様々な国や地域の法律を準拠法とするものがありますが、とりわけ、ケイマン籍のファンドは投資家やファンドマネジャーからの人気が高い外国籍ファンドの一つです。
2.なぜケイマン諸島は選ばれるか
ケイマン諸島は、北米カリブ海に位置し、イギリスの海外領土ではありますが、高度な自治権を有し独自の法体系を備えています。
いわゆるTax Haven(租税回避地)と言われる地域の一つで、非居住の個人や法人に対する所得税やキャピタルゲインに対する課税がありません。
ケイマン諸島は、以下のように金融サービスを享受しようとする者にとって好条件の環境が整っているため、ファンドの設立地として好まれています。
- 1.政治的、社会的に安定しており、カントリーリスクが低い
- 2.特に金融サービスに直結する会社、信託、私募ファンド、投資信託等に関する法律について、現代的な法体系となっている
- 3.信託銀行などの金融機関、会計事務所や法律事務所などの専門家によるサービスも充実しており、迅速なサービスを受けることができる
- 4.ケイマン政府自体が世界各国の金融規制に敏感であり、金融規制の変化に適合するよう機動的に法令を変更する
3.ファンドビークルの種類
ケイマン諸島におけるファンドの法形式は、主として以下の5種類です。
3-1.Exempted Company(免税会社)
いわゆる会社型投資信託で、30年間の免税保証があります(更新可)。
免税保証というのは、ケイマン政府がファンドに対して課税しないことを保証する制度です。
取締役、受託会社、カストディアン、管理会社はケイマン諸島の居住者である必要はなく、株主名簿は公開されません。
3-2.Segregated Portfolio Company(分別ポートフォリオ会社)
基本はExempted Companyと変わりませんが、同一法人内で、複数の分離したポートフォリオを設定することができ、資産・負債を法的に分離することができます。
これにより、同一法人内に独立したファンドを包含するのと同じ効果を得られます。
3-3.Exempted Limited Partnership
組合形式のファンドです。
最低1名のジェネラル・パートナー(GP)と1名のリミテッド・パートナー(LP)が必要で、GPのうち1名はケイマン諸島の居住者である必要があります。
資産及び負債はGPに帰属します。
免税保証は50年間です。
LPの情報は公開されません。
3-4.Unit Trust
いわゆる投資信託です。
信託会社が単独行為で設定できるStatutory Trust (宣言型信託)と、日本の投資信託同様、信託会社とファンドマネジャーの契約によって、設定されるBilateral Trust (契約型信託)の2種類があります。
受託者は、ケイマン諸島で認可されている信託銀行の必要がありません。
免税保証は50年間あります(更新可)。
3-5.Limited Liability Company (LLC)
比較的最近(2015年12月)になって新設された法形式で、法人であるものの、Share(株式)の概念がないので、契約で自由に損益を分配することが可能です。
50年間の免税保証があります(更新可)。
4.ファンドの登録義務
Exempt CompanyやLLCの会社設立の登録を除き、ケイマン諸島におけるファンドの登録義務は次のものがあります。
4-1.Mutual Funds Actに基づくCayman Islands Monetary Authority(CIMA)への登録義務
オープンエンド・ファンドが対象の登録義務になりますが、投資家数15人未満かつ投資家の多数決によりファンドのOperator(委託者やGP)を変更できることとしている場合については、登録義務が免除されます。
4-2.Private Funds Actに基づくCIMAへの登録義務
2020年からは、クローズドエンド・ファンドにも登録義務が設けられました。
ファンドの登録後、ファンド口座監査義務、現金モニタリング義務、保有有価証券銘柄確認義務等が、継続報告義務として課せられます。
5.日本における届出義務及び販売規制
Exempted Company、Segregated Portfolio Company及びUnit Trustは、投資信託及び投資法人に関する法律(投信法)における外国投資法人や外国投資信託に該当するため、販売に先立って同法に基づく届出が必要であり、その販売は、第一種金融商品取引業者が行う必要があります。
50人以上の一般投資家を勧誘する場合は公募販売となり、有価証券届出書の提出が必要となります。
一方、Exempted Liability Partnership 及びLimited Liability Companyについては、投信法に基づくファンドの届出義務はありません。
これらの持分は、金融商品取引法上の第二項有価証券に該当しますので、その販売は、原則として第二種金融商品取引業者による必要があり、500人以上の投資家に販売する場合は、有価証券届出書の提出が必要となります。
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ファンドは、不動産や株式などが一般的ですが、FXやCFDなどを対象としたものもあります。
本記事では、FXやCFDを対象としたファンドはどのようなものか詳しく解説します。
23.契約締結前交付書面及び契約締結時交付書面についてGT東京法律事務所の弁護士が解説
ファンドの発行にあたり必要なものに、契約締結前交付書面及び契約締結時交付書面があります。
本記事では、契約締結前交付書面及び契約締結時交付書面について詳しく解説します。
24.目論見書とは?仕組みや交付義務などをGT東京法律事務所の弁護士が解説
目論見書は、有価証券に関する情報を投資家へ確実に届ける手段として作成されるものです。
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リミテッド・パートナーシップ契約(LPA)とは、外国籍PEファンド等で多く採用されるリミテッド・パートナーシップ形式のファンドにおける基幹契約のことです。
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26.引受契約とは?規定される3つの事項についてGT東京法律事務所の弁護士が解説
リミテッド・パートナーシップ契約(LPA)では、引受契約というものが締結されます。
本記事では、引受契約で規定されるいくつかの事項について詳しく解説します。
27.覚書(サイドレター)とは?盛り込める内容についてGT東京法律事務所の弁護士が解説
覚書(サイドレター)とは、投資家との間で、LPAや引受契約に明記されていない事項を取り決めたり、既存の契約内容を変更するための覚書です。
本記事では、覚書(サイドレター)の詳細について詳しく解説します。
28.投資家への運用財産に関する報告義務についてGT東京法律事務所の弁護士が解説
ファンドの運用者は、投資家に対してファンドの運用状況等を記載した運用報告書の作成、交付義務が規定されています。
本記事では、ファンドへの投資後に、投資家に対して行われる運用財産に関する報告について詳しく解説します。
29.ファンド持分の償還についてGT東京法律事務所の弁護士が解説
投資資金の回収方法には、いくつかありますが、償還という方法が一般的です。
本記事では、償還の仕組みについて詳しく解説します。
30.ファンドの終了|清算と解散手続きについてGT東京法律事務所の弁護士が解説
ファンドが活動を終了する場合には、いくつかの手続きが必要です。
本記事では、LPAで規定されるファンドの解散及び清算について詳しく解説します。
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ファンドには、リスクがつきものです。
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