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米国雇用統計の「事業所調査」と「家計調査」とは?違いや見方について解説


2023年1月の非農業部門雇用者数は51.7万人と非常に大きな数字で市場を驚かせました。
市場予想の19.0万人、前月の22.3万人、といった数字を大きく上回っただけでなく、その前月及び前々月の数字も上方修正されたことが高く評価されました。

2023年 1月米雇用統計

しかし、非農業部門雇用者数を予測する目的で作られたADP雇用統計という指標では、わずか10万人の雇用増だったので、これだけ大きな数字になるとは予想外でした。
この数字は誰から見ても予想外だったのでしょうか。
実はそうでもなく、予想できるヒントがありました。
その鍵は、家計調査における雇用増です。

米雇用統計は「事業所調査」と「家計調査」、2つの調査から成り立っています。
非農業部門雇用者数、平均時給、平均労働時間は「事業所調査」から出てきます。
失業率、労働参加率といった数字は「家計調査」から導き出されます。


家計調査(Household Data) 事業所調査(Establishment Data)
調査先 CPS(Current Population Survey) CES(Current Employment Statistics)
データソース 約6万世帯を対象に、
毎月のサンプル調査
約12万2千の企業・政府機関、約66.6万個人事業主対象とした 毎月のサンプル調査
雇用の範囲 法人化されてない自営業者、家族経営の無給労働者、農業関連労働者、無給休暇中の労働者も含む。 農業を除き、左記のすべてのグループを除外。


非農業部門雇用者数 家計調査の雇用者数
Jan-21 494 -90
Feb-21 575 334
Mar-21 784 546
Apr-21 286 420
May-21 482 311
Jun-21 693 202
Jul-21 769 1098
Aug-21 663 429
Sep-21 557 656
Oct-21 781 528
Nov-21 614 1140
Dec-21 569 546
Jan-22 364 1041
Feb-22 904 468
Mar-22 414 738
Apr-22 254 -346
May-22 364 317
Jun-22 370 -242
Jul-22 568 215
Aug-22 352 422
Sep-22 350 156
Oct-22 324 -257
Nov-22 290 -66
Dec-22 260 717
Jan-23 517 894

家計調査と事業所調査の違い

グラフにおけるオレンジの線が家計調査における雇用者の増減を、青の線が非農業部門雇用者数を示しています。
家計調査における雇用者数は、かなりの変動がありますが、非農業部門雇用者数は比較的安定しています。

よく見ていただきたいのは、非農業部門雇用者数が51.7万人と大きな数となった前月の数字です。
非農業部門雇用者数は26万人(改定後の数字で、改定前は22.3万人)に対し、家計調査における雇用増は71.7万人と、その前の-6.6万人に比べ急激に上昇しています。
また、その前の8ヶ月ほどは、良い数字と悪い数字が混在し、悪いときは-34.6万人、良いときは42.2万人と、もみ合いとなっています。

そうであったにもかかわらず、71.7万人と大きな数字が出たのは、米国経済に大きな変化があり、翌月の非農業部門雇用者数の大幅上昇を示唆したように見えます。

家計調査における雇用者数をチェックするには、少し工夫が必要です。

下記のリンクをチェックしてみます。
https://www.bls.gov/news.release/pdf/empsit.pdf

7ページにあるHOUSEHOLD DATAに注目します。

(画像:HOUSEHOLD)

HOUSEHOLD DATA

赤い丸で囲っている2022年12月を2023年1月の数字から引くと、160,138-159,244=+89.4万人となり、この月の家計調査では89.4万人の雇用増があったのがわかります。
これだけ大きな数字であれば、次の月の非農業部門雇用者数も大きめの数字になることが期待されます。

労働参加率

労働参加率は、直接的に雇用統計後の市場の動きに影響を与える数字ではありませんが、米国の労働市場に参加する人の割合を表し、失業率と賃金に影響を与える数字です。

家計調査では、全人口のうち、16歳以上で施設(警察施設や精神病院、老人ホーム)に入っていなく、軍役についてない人をCivilian noninstitutional population(民間施設人口)と、その中で働く意思のある人をCivilian labor force(労働力人口)とよび、労働力人口/民間施設者人口=労働参加率としています。

(画像:労働力人口)

労働力人口

労働参加率の上昇は、働く意思のある人の数が増えることを意味し、賃金やインフレ率を抑える影響があります。
米国経済の問題としては労働参加率が継続的に低下していることが問題となっています(賃金に上昇圧力)。
これは人口の高齢化が影響している面もあるので、如何ともし難いところがありますが、魅力的な高給の仕事が増えれば、労働市場に戻る人も増える可能性があります。
コロナ前の63%に戻したいところです。

(画像:FRED画像1)

FRED 労働参加率が継続的に低下

(出典:FRED 米セントルイス連銀)

U-6 Unemployment rate

イエレン財務長官がFRB議長だった頃、イエレンダッシュボードとして重要視された指標。
失業率が単に下がるのではなく、就いている仕事の質にもこだわった指標です。
正規労働者として働きたいのに、パートタイムで働いている人も失業者と認定します。
ただ、現状では歴史的に最低水準にあるので、問題になってはいません。

(画像:FRED画像2)

FRED イエレン財務長官がFRB議長だった頃、イエレンダッシュボードとして重要視された指標

(出典:FRED 米セントルイス連銀)

米労働省がリリースする雇用統計のレポートは数字が膨大にあるので、どこを見れば良いのか以下で整理しましょう。

HOUSEHOLD DATA(家計調査)7ページ目

(画像:家計調査)

HOUSEHOLD DATA(家計調査)

ESTABLISHMENT DATA(事業調査)8ページ目

(画像:事業調査1)

ESTABLISHMENT DATA(事業調査)

(画像:事業調査2)

事業調査

記事執筆者:志摩力男(しまりきお)

慶應義塾大学経済学部卒。
ゴールドマン・サックス、ドイツ証券などの大手金融機関でプロップトレーダー(自己勘定トレーダー)を歴任。
その後、香港でマクロヘッジファンドマネージャーを務める。
独立後も世界各地のヘッジファンドや有力トレーダーと交流し、現在も現役トレーダーとして活躍中。


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